2008年12月11日木曜日

日本の良さ伝え育てる

赤子を背負い、ぼろぼろの服を着て勉強する安徽省の村の子供が次々とスライドに映し出される。「他人の痛みを感じられるか。それがマナーの基本です」

上海外語大の講堂で、万里紅さん(42)が就職活動を控える大学生向けに開いた講座。意外な演出に学生たちは引き込まれた。

万さんは上海の高校を卒業し国有企業に勤めていた87年、12歳年上のスウェーデン華僑と結婚。だがあこがれた海外生活は、つらい日々だった。料理店を経営する夫は自由な外出を許さず、国際電話もかけさせない。夫は賭け事にふけり、2年後に離婚。息子を取り戻そうとしたが、かなわなかった。

疲れ切った万さんはアジアを放浪、96年に日本を訪れる。箱根の旅館でおかみがひざまずいてお辞儀する姿に驚いた。閉店時間を過ぎても笑顔で見守る百貨店員に感心した。日本語学校を経て東京経済大へ。ゼミの教授は家族のように接してくれた。

卒業した02年、中国進出を目指す企業を支援する会社を友人と設立すると、顧客から耳にしたのは「中国人はマナーが悪い」。そこで、マナー講座を上海で始めた。

礼儀作法や服装の工夫、化粧法も教える。日本人の礼儀正しさや気配りをほめる。

「反日感情があるから控えたほうがいい」と言われても意に介さない。「私の青春を取り戻してくれた国、日本の良さを多くの人に伝えたい」

78年からの改革開放とともに日本への国費留学が始まり、その後、私費留学が急増。とくに上海出身者が多かった。彼ら「留日組」が今、活躍している。 (2008年12月10日 朝日新聞夕刊)