2008年12月4日木曜日

求められる管理職像-2

国立大学の事務組織は、法人化前からそうでしたが、「事務局長-部長-課長-副課長(課長補佐)-係長-主任-係員」といった多層のヒエラルキーによって構成され、その弊害として、「タテ割り、硬直化した組織、年功序列、低給与水準」等が指摘されてきました。そこで法人化後多くの大学では、組織と人の力を最大限に発揮できる組織づくりに力を注いできました。特に、「組織のフラット化と柔軟化」は重要なテーマとされ、例えば、迅速な意思決定をより可能にするため、経営トップである学長と現場との距離をできるだけ近づける、具体的には、役員の下に担当事務組織を直接配置する方式に変更するなどの取り組みを行っています。その結果、文科省からの天下りと批判されている事務局長や、定年までの待機職である部長を廃止する大学も増えてきています。確かに、実質的には役員と現場を抱える課長とのラインが太く強固であれば仕事はうまく進むわけで、その間に屋上屋を重ねるような階層はもはや不要なのかもしれません。

大学改革を一層進めていくためには、このような官僚体制としての事務組織を再構築するとともに、業務の必要性など根本に立ち返った見直し、SDなど職務能力の開発(専門化)、努力した者が報われる厳格な職員評価・人事考課の確立といった多様な課題の解決に向け取り組んでいかなければなりません。そして、こういった諸改革の成否は、結局は「人」に依存します。改革成就のためには、多くの職員が一丸となって経営者の掲げるビジョンと戦略を共有し、各々がその役割・責任を全うすることが何より大事になってくるわけですが、その職員達を迷わすことなく引っ張っていける力量のある管理職の存在がカギになります。

特に、腰掛人事と揶揄される文科省の命令によって各地を2~3年ごとに転々とする課長以上と違い、副課長(課長補佐)さん方は、基本的には当該大学の生え抜きであり、深い愛校心と広い人間関係を持った人達です。中には、当然ながらいわゆる年功序列によってその地位を築いた方もいらっしゃいますが、最近では、大学におけるキャリアパス制度の充実などから、優秀な人材層が整いつつあります。また、法人化以前には不可能だった「プロパー職員の管理職(課長以上)への内部登用制度」も定着しつつあり、今後10~20年先が楽しみです。

前置きが長くなりました。今回は、今後の戦略的な大学経営を展開する上で重要な役割を担うことになるであろう課長、あるいは副課長(課長補佐)クラスの中堅管理職について触れた論考「戦略経営の確立に向けて-リーダーシップの確立」(日本福祉大学常任理事 篠田道夫さん)の一部をご紹介します。

他責の文化、評論家ミドル

企業でも仕事がうまく進まない時、無意識にこの壁に寄りかかり、言い訳にして動こうとしないケースもある。野田智義氏(非営利法人インスティテユート・オブ・ストラテジック・リーダーシップ代表理事)はこれを「他責の文化」と名づけ、現場と管理者の溝、上司の壁が改革を阻む風土にまでなる危険性を指摘するが、これは、例えば教授会の壁(?)に日々直面している大学職場でも考えるべき問題だ。

他人の非を責めていれば自分の責任は問われない。特に、現場とトップのつなぎ目にいる中堅管理者が、問題の原因を他人や環境のせいにし、先頭に立って行動しない風土は深刻な事態を招く。立派な意見は持っているが行動は起こさず、「うちはトップがだめだ」などと責任転嫁する。しかも本人は愚痴を言っている自覚はなく、会社の在り方を大所高所から議論していると思っている。これはミドルが評論家になっている状況だ。責任が問われず意見が言いやすい職場に、この「他責の文化」、評論家ミドルは広がりやすいというが、我々大学職場でも「教授会が決めてくれない」などと言って、できない言い訳にしていないだろうか。

論理的な意見や積極的な議論も、自らの実践や責任意識が伴わねば、改革の前進にとっては何の意味もない。野田氏は、求められているのは「上司(トップ)が悪い」ではなくそれを変えるために何をしたか、「こうあるべきだ」ではなく「私はこうしている」だという。
組織(大学)全体にとって長期的利益になる大義なら確信を持ち、場合によっては矢面に立つ覚悟もして行動することがトップを変え、大学・職場を動かしていく。複雑な組織運営の中で、改革には必ず何らかの抵抗を伴う大学で、真の改革を決定にまで持ち込むには、現場に立脚し、そこから練り上げた方針の実現に確信を持って取り組む管理者像が求められる。

課長補佐が会社を動かす

しかし、堀紘一氏(ドリームインキュベータ代表取締役)によると、日本の企業社会、特に活力のある企業は「ミドルアップ・ダウン」で成り立っており、「課長補佐社会」だという。そもそも日本企業の強さはアメリカのトップダウン型と比べればボトムアップ型で、大企業では何もできないという誤解もあるが、実はやり方によっては全く逆だという。

大企業では、課長補佐クラスが稟議書を書いており、それをほぼ最終決定権を持って決済しているのは部長クラスで、後はトップまで自動的に上がっていく。課長補佐クラスの提案をうまく根回しをかけていくことで、会社全体を動かすことは十分可能で、これが日本企業の醍醐味だというが、これは大学にも当てはまる。堀氏は、この現場の提案で会社を動かすには重要な点が二つあると指摘する。

第一は現場を熟知し、そこから提案するということ。それは顧客ニーズであり、現場実態であり、データ・統計資料であり、特に自分で集めた知識・情報である。変化する生の現場情報はミドルにしか集められず、トップの判断を変えうる強さを持っている。自分の意見を言わず事実をひたすら積み上げて、結果として意見を通していく手法に熟達すべきで、多くの顧客の実態、事実を熟知しているだけで勝てるというが、これは改革提案を実現していく上で大学職場でも大いに学ぶべき点だ。

もう一つ重要な点は、常に「上位概念」を想像し、部分最適でなく、全体最適になるような視野、戦略との整合性を持つという点である。上司と部下に緊張関係が存在するのはある意味当然で、立場によって「見える風景」は違う。現場からの改革提起=部分最適は、新たな局面、変動するニーズに対応する革新的内容を含むが、これを既存秩序(会社の論理)で骨抜きにすることなく、どう戦略遂行の中に取り込めるか、トップや管理者の現場への感度が重要で、この葛藤の中に組織の進化がある。

日本企業の組織文化の下では、業績や会社の革新はミドル(中堅管理者)のモラールの高さで決まるといわれる。大学職場での持続的な改革推進にとって、現場からの事実に立脚した提起が大学の方針となる「ミドルアップ・ダウン」システムが機能すること、これを担う中堅管理者の感度と力量の向上は極めて重要な課題となっている。(文部科学教育通信 No208 2008.11.24)