「刑事コロンボ」で知られる米国の俳優、ピーター・フォークさん(81)が認知症を患っていると報じられた。家族を見分けられない状態と聞き、片手を上げて辞去するコート姿が浮かんだ。
日本でも元女優、南田洋子さん(75)の闘病がテレビで紹介され、大きな反響を呼んだ。夫の長門裕之さん(74)による懸命の介護とともに、老境を控えた身にはひとごとではない。著名人の余生に起きた異変に、長寿時代の定めを思う。
老人医療の専門家、フレディ松川さん(62)の近著『フレディの遺言』(朝日新聞出版)を読んだ。前半の「遺言」は、自分が認知症になった時を思い、家族やヘルパーへのお願いをあれこれ連ねたもの。後半は医師として、介護や予防の勘所を説く。
〈私の目をしっかりと見て、優しい声で話しかけてくれたら、きっとあなたが大好きになります〉〈私の心が寂しいとき、私が若いころに大好きだった曲を聞かせてください〉。
温かな挿絵を交えた短文は切なく、哀(かな)しい。だがこれらは、記憶がこぼれ始めてからでは伝えられない。約2千人を看取(みと)った経験が紡ぎ出した、声なき伝言といえる。
理解しがたい言動を目の当たりにした時、叱(しか)れば患者はおびえ、症状が高じかねない。逆に優しく接すれば、軽度に保つこともできるという。
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世の中には経験したことのある人でなければわからないことがたくさんありますが、「認知症」という病気の大変さは、患者自身やその介護をする家族など当事者でなければなかなか理解できないものです。
私事で恐縮ですが、私の実母も2年ほど前から、財布や通帳などの紛失など度重なるもの忘れに始まる認知症の症状が見られるようになり、最近では、つい先ほど話したことも覚えていない情けない状態にまで悪化しています。
加えて、本人の性格もあるのかもしれませんが、人に対する猜疑心が強くなり、同居している父や近親者とのトラブルも絶えません。また、人の言うことを素直に聞く耳を持たなくなり、病院に行くことも拒み続けており、仕事や家族の都合で遠く別居している私としては、そばについて介護することもままならず、この先病状の悪化にどう対応したらいいのか解決の糸口さえ見つけることができていません。
世の中にはこういった不治の病である認知症に苦しんでいる方がたくさんいらっしゃいますし、今後、高齢者の激増に伴い、人間が人間であるが故に起こるこの不幸な病と闘わなければならない方々も悲しいかな増えていくことでしょう。
医療、福祉、介護といった人間が幸せに生きていくうえで不可欠な社会保障を根本から真剣に考え直さなければならない限界点にきています。そのためには、総国民が「認知症」との闘いを「自分のこととして受け止める」ことがまずは必要なのではないでしょうか。