社説:沖縄の基地負担 軽減に一歩踏み出せ (2010年7月31日 毎日新聞)
沖縄の米軍基地負担軽減の道筋がますます不透明になっている。普天間飛行場移設の展望が開けないのに加えて、在沖海兵隊のグアム移転が計画より遅れる可能性が出てきたからだ。福岡高裁那覇支部は「普天間爆音訴訟」判決で「(周辺)住民の恐怖は現実的なもの」と、普天間の危険性に言及した。参院選敗北で求心力低下が著しい菅内閣だが、負担軽減は菅直人首相の繰り返しの約束である。その一歩を踏み出すべきだ。
日米両政府は5月末の合意で、普天間飛行場を沖縄県名護市辺野古に移設し、工法や具体的位置などの専門家による検討を8月末までに完了するとした。その後、両政府の外務・防衛担当閣僚で確認し、11月の日米首脳会談に臨む方針だった。
ところが、日本政府は辺野古移設に反発する沖縄側に配慮し、専門家の検討では滑走路の位置などを絞り込まず複数案とするほか、政治決定は11月末の沖縄知事選以降に先送りする方針とされる。
一方、海兵隊のグアム移転問題は、移転に伴う基地拡張と人口増加にインフラ整備が追いつかないという米側の事情だ。14年までに移転を完了するとした06年日米合意の履行は難しいという。普天間移設への影響が懸念されるほか、移転が遅れればグアムの整備費が膨らみ、日本側の負担分が増額される可能性もある。
普天間移設実現には沖縄の協力が不可欠であり、沖縄との信頼関係構築が前提となる。私たちは沖縄の信頼を取り戻すために、5月末の日米合意に盛られた負担軽減策を普天間移設に先行して実施することを検討するよう求めた。たとえば、日米合意にある訓練移転が進めば、普天間の危険性の軽減につながる。
が、政府は関係閣僚会議を開いたものの、沖縄との協議など具体的進展はまだない。工法などの先送りはやむを得ないが、それだけでは沖縄と信頼関係は築けない。
そして、新たに加わったのが、海兵隊のグアム移転が遅れる可能性である。これが現実になれば、沖縄の日米両政府への不信に拍車をかけることになり、信頼関係構築は遠のく。
展望が見えない普天間移設方針に、これと連動する海兵隊グアム移転の遅延が重なれば、普天間の使用継続が一層、現実味を増すことになる。普天間移設の原点である飛行場周辺住民の危険性と騒音など生活被害除去の先送りに他ならない。
11月の沖縄知事選では、普天間問題が最大の争点となるのは間違いない。選挙結果しだいでは、さらに困難な事態となる可能性がある。負担軽減こそが問題解決の近道であることを、菅政権は米側に説明し、理解を得るべきである。
http://mainichi.jp/select/opinion/editorial/archive/news/20100731ddm005070174000c.html
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