2010年7月21日水曜日

いつまで続く国の人事介入

国立大学法人への文部科学省幹部職員の天下り・出向問題や、国立大学法人における人事への文部科学省の介入問題が、これまで、”行政刷新会議・事業仕分け”や、”熟議カケアイ”などで議論されてきたことをご存じの方は多いのではないかと思います。

行政刷新会議「事業仕分け」第3WG評価コメント
  • どんなに「大学側からの強い要請」があるとしても、天下り、現役出向は完全廃止しその分だけのコスト削減(=交付金削減)を行う。
  • 官僚出身者や出向者が効率的な経営を行うことは難しい。
  • 独立行政法人のままなら、文部科学省からの出向を禁止すべき。
  • 経営マネジメントのできる人材の登用を図るべき。ガバナビリティのある人材の登用による職員意識改革を徹底すること。など

必読! 熟議カケアイ:文科省からの出向人事の問題点 (2010年6月13日 大学サラリーマン日記)



去る6月28日(月曜日)に開催された国立大学協会第19回通常総会では、「理事の人事交流に関する当面の手続き」(国立大学法人と文部科学省との間で理事の人事交流を行う必要が生じた場合の調整の手続き)についての「了解事項」と「申合せ」が了承されました。具体的には以下のようなものです。

「理事」の人事交流に関する当面の手続きについて (国立大学協会と文部科学省との了解事項)

国立大学法人の学長は、幹部人事の必要が生じた場合、自らの人事戦略に基づき、例えば、内部からの登用、他法人との人事交流、文部科学省との人事交流、政府各省庁・地方自治体・私立大学・民間企業等からの採用や人事交流など、多様な選択肢の中から、自主的・自律的な判断により、必要な人事を行う。

その際の手続きは、各法人の裁量によるところであるが、文部科学省職員(文部科学省を経験し国立大学法人等の幹部職員となっている者を含む。)を人事交流により理事に採用する場合の各国立大学法人と文部科学省との間の調整の手続きについては、特に、透明性、公正性等を確保する必要がある。

このため、当面、国立大学協会に設置する適格性審査会において、各国立大学法人及び文部科学省から推薦された候補者の能力・経験・実績等を審査し、その結果に基づき理事候補者名簿を作成することとし、文部科学省は、当該名簿の中から理事候補者を各国立大学法人に推薦することとする。

国立大学協会に設置する適格性審査会の設置及び運営に関しては、国立大学協会が別に定める。


「学長自身の人事戦略」「多様な選択肢」「自主的・自律的な判断」「各法人の裁量」「透明性、公正性」といった美辞麗句が並ぶ素晴らしい文章です。しかし、上記の「了解事項」だけでは、具体的に今後どうなるのかさっぱりわかりません。

具体的な手続きについては、別途、以下のような国立大学協会としての「申合せ」に書かれてあります。

1 理事候補者の推薦依頼について
  1. 国立大学法人は、理事について人事の必要が生じ、候補者として文部科学省職員(文部科学省を経験し 国立大学法人等の幹部職員となった者を含む。)の推薦を依頼する場合には、学長から国立大学協会会長(以下「会長」という。)宛てに文書を提出する。

  2. 会長は、学長から提出のあった推薦依頼に関する文書を、国立大学協会に設置する適格性審査会(以下「審査会」という。)へ提供する。

  3. 審査会は、会長から提供のあった文書を基に、推薦依頼のあった法人名及び担当職務等を整理した一覧表を作成して会長へ提出し、会長は、文部科学省へ提供する。
2 理事候補者の推薦について
  1. 国立大学法人は、当該法人に国立大学法人(当該法人を含む。)の理事となり得る 候補者(文部科学省を経験し幹部職員となった者に限る。)がいる場合には、学長から会長宛てに文書により推薦する。

  2. 文部科学省は、上記「1」に関連して国立大学法人の理事となり得る候補者がいる場合には、会長宛てに文書により推薦する。
3 審査から採用予定者決定までの手順について
  1. 会長は、必要書類を付して、国立大学法人の理事候補者の適格性の審査等について、審査会*1に諮問する。

  2. 審査会は、国立大学法人及び文部科学省から推薦のあった理事候補者について、その能力・経験・実績等を審査の上、適格性があると判断した者について理事候補者名簿を作成し、会長へ答申する。

  3. 会長は、理事候補者名簿を文部科学省へ提供する。

  4. 文部科学省は、理事候補者推薦の依頼のあった国立大学法人に対して、大学の特徴、法人の求める職務分野、本人の希望勤務地等を勘案し、理事候補者名簿の中から、法人の求めに応じて1名以上の理事候補者を推薦する。その際、理事候補者の能力・経験・実績等が分かる資料を添付する。

  5. 理事候補者の推薦を受けた国立大学法人は、文部科学省と調整し、理事の採用予定者を決定する。

手続きの流れについては具体的ですが、例えば次のような点が未だ不明確です。
  • 学長が、国立大学協会に対し理事候補者の推薦を依頼するのは、「理事について人事の必要が生じた場合」とされていますが、それはいったいどういうタイミングを指すのでしょうか。例えば、文部科学省出身の着任間もない理事が適正に欠けるから、すぐにでも別の人にかえたいといった場合も含まれのでしょうか。この申合せの文言だけでは学長は判断に困るような気がします。

  • 国立大学協会に設置する適格性審査会が行う理事候補者の適格性審査に関する具体的事項が明らかにされていません。透明性、公正性を目的として新たな仕組みを導入するのであれば明確にし公表すべきと思われます。

「理事の選び方」に関する新たな制度を導入する上で、最も大切なことは、”いかに文部科学省による国立大学法人への人事介入を無くすか”ということに尽きるのではないかと思います。その点に関し、今回の新たな仕組みでは、結局最後は、文部科学省から理事候補者の推薦を受ける形になっていること、また、推薦を受けた国立大学法人は文部科学省と調整することになっており、実質的にはこれまでと同様、文部科学省主導により国立大学法人の理事人事が進められることになります。

学長の集まりである国立大学協会自身が、上記のようなあいまいな「了解事項」や「申合せ」による制度を決めたことは、法人化によって勝ち得た学長の人事権を自ら放棄しているようなものです。自主的・自立的な大学経営を達成するために必要とされるリーダーシップの根幹である人事権を、文部科学省とのあいまいな合意によって消してしまうようなことになってはなりません。熟考が求められます。

*1:適格性審査会規則(案)によれば、審査会は、国立大学長経験者、国立大学法人理事経験退職者、国立大学協会関係者それぞれ若干名で構成され、必要に応じ、学識経験者を加えることができることになっています。