2010年9月26日日曜日

強い憤りを禁じえない中国人船長の釈放

「日本、苦渋の釈放」。ここ数日、このような見出しが紙面を踊りました。尖閣諸島沖での海上保安庁巡視船と中国漁船の衝突事件で、日本側は、中国の要求に屈する形で中国人船長を釈放しました。

それにしても、中国の圧力は常軌を逸したすさまじいものでした。東シナ海ガス田共同開発の条約締結交渉の一方的延期、要人交流・文化交流の停止、レアアース(希土類)の対日輸出停止などなど。次から次へと出てくる報復措置は宣戦に近い異常なものでした。

さらに驚いたことは、この件に関して中国政府は、「船長らを違法に拘束し、中国の領土と主権、国民の人権を侵犯した」として日本側に「謝罪と賠償」を求めてきたのです。

もはや開いた口がふさがりません。正直怒りを通り越してあきれています。経済は成長しても社会そのものは全く成熟していない、国際社会の常識が通用しない国であることが全世界に披瀝された事件ではなかったかと思います。


天声人語 (2010年9月26日 朝日新聞)

政治経済ばかりか、この国は司法までが外圧で動く。尖閣諸島沖の衝突事件で、中国人船長が処分保留のまま釈放された。「日中関係を考えれば身柄を拘束しての捜査は続けにくい」。気の毒にというか、政府の代弁をさせられたのは那覇地検だ。

レアアース(希土類)の禁輸は露骨だった。微量でも欠かせぬ素材は「産業のビタミン」に例えられ、ハイブリッド車やデジカメなど、それなしには画竜点睛(がりょうてんせい)を欠く品が多い。世界のほぼ全量を産する中国は、日本のハイテク産業を締め上げようとしたらしい。

日本に行くな、日本製品は買うなとの呼びかけもあった。河北省では邦人4人が軍事施設を撮影したとして連行され、両国のいさかいは経済や生身の人間を巻き込み始めていた。

とはいえ、中国人が秋葉原で炊飯器を買い、富士山で記念写真に納まるのは強いられてではない。おいしいご飯や絶景の価値を認めてのことである。合理で動く経済を、資源や「13億人市場」を頼んでねじ曲げ、恫喝(どうかつ)に用いる発想は怖い。

法治ならぬ人治の国、しかも一党独裁で思うがままだから始末が悪い。下手に譲れば増長する。国際社会の常識が通じにくい「見習い大国」に経済の多くを頼り、国の生命線を握られる危うさを思う。

中国は早速、謝罪と賠償を求めてきた。困ったものだが、一緒に熱くなってもいいことはない。領海の平穏に体を張る海保職員の苦渋を分かち合い、外交の甘さを検証したい。船長のVサインをこらえ、度し難い画竜、いや巨竜とのつき合い方を皆で考える時だ。


アメリカ戦略国際問題研究所上級研究員のコメント (抜粋)(2010年9月26日 朝日新聞)

事件は、主権、とりわけ領土問題が絡む「革新的利益」をより強引な形で守ろうとする最近の中国の態度を象徴していた。だが、一般常識を超えたやり方で他国に損害を与える、極めて利己主義的な手段に訴える姿を目の当たりにし、インドや南シナ海で係争を抱える大方の国は大きな懸念を持って見つめたはずだ。

中国は今回、これまでにない強硬手段に出た。中国指導部は権力移行の準備段階に入り、国内世論の圧力にもろくなっている。このため、領土が絡む問題で柔軟な姿勢を示せない。軍部の発言力もより強まっているうえ、国力にも自信が出てきた。歴史的に他国、とりわけ日本から受けた屈辱を晴らすときが来たと感じる人もいるだろう。


社説:論調観測 中国人船長釈放 批判点もトーンも濃淡(2010年9月26日 毎日新聞)

沖縄県・尖閣諸島沖での中国漁船と海上保安庁巡視船の衝突事件で、那覇地検は逮捕・送検された中国人船長を処分保留で釈放し、船長は帰国した。

釈放自体をどう見るか。那覇地検が釈放理由の一つに「外交上の配慮」を挙げたことをいかに評価するか。また、菅政権の外交力の判断や今後の取り組みへの注文は・・・。各紙社説の主張は大きく分かれた。・・・


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