国立大学法人の中期評価や年度評価を行う国立大学法人評価委員会の下に、「国立大学法人分科会 業務及び財務等審議専門部会」というものが設置されています。このたび、国立大学法人の平成22事業年度の財務諸表の承認に係る議論等の概要が文部科学省のホームページに掲載されましたので読んでみました。
国立大学法人の会計処理は「国立大学法人会計基準」に基づいて行われていますが、企業会計や学校法人会計とは異なる特殊な会計処理が多々あることから、アウトプットとしての財務諸表ほか決算関係資料は、一般の国民の皆様にはとりわけわかりずらい構造になっています。このため、各国立大学法人では、独自の財務レポートなどを作成し、各大学のホームページ等を通じて説明しています。
今回の議事録を見る限り、議論を行っている委員の方々は、大学教員出身者が多く、国立大学法人の会計に必ずしも精通している方々だけではないようですが、その分、一般の国民と同様の目線での質疑も垣間見え、あるいは意外と鋭い意見も出されており、興味深く読ませていただきました。委員の意見をいくつか抜粋してご紹介します。事務局(文部科学省)とのやり取りについては、WEBサイトをご参照ください。
国立大学法人の財務諸表の承認及び剰余金の繰越承認について
【宮内委員】
決算書を見てちょっと感じた点で、これは昨年もたしか言ったかと思うのですが、概要の参考1の2ページで寄附金債務がこれは2,214億で、前年度対比で139億増加しています。大学としては、これはバッファーとして持っていたいというのは非常に個別事情としてはよくわかるのだけれども、寄附金をいただいておいて研究をやらないのですかという素朴な意見もあります。そんなにいただいたのに、やらないで腰だめしているのですかという社会的な指摘を受けたときに、大学が本当にきちんとした説明ができるのだろうかということです。研究体制がまだできておりませんという説明をしてしまって、研究体制もできないものを寄附金もらっているのですかと言われたときに返す言葉が次にあるのかないのか、その辺も含めて、この寄附金債務の執行というのはやっぱり、まじめにと言っては失礼かもわからないけれども、執行するということを前提にして考えていただかないと、多分これは、ずっとたまっていくと思います。個々の健全な感覚が全体としては合成の誤謬ではないけれども、その辺はやっぱり気をつけていただきたいと思うのです。
【宮内委員】
特殊な会計処理というよりは中期計画の最終年度における特殊事情として目的積立金の執行をかなり大幅に活用されたということなのだろうと、会計処理そのものではないのだろうと思いますので、そこは整理していただいたほうがよいと思います。
これも感想で申しわけないのですが、附属病院収益が増加したことについて、世の中の病院等がみんな減収減益に悩んでいるところで附属病院収益が上がっていくということは、それだけ大変に頑張っているという証左なのだろうと思うのですが、逆にそのことによって教員の方々が疲弊してしまって、結果として研究論文が減ってしまうというような事態になるほど、ここがあまり頑張り過ぎるというのも決していい話ではありません。だから、その辺の大学側におけるよいバランスというのですか、その辺を模索するための何らかのガイドなり何なりというのを、これは多分大学によって状況が違いますから、研究中心の大学で附属病院収益がどんどん上がっていくということは多分ないのだろうとも思うのですけれども、中核病院等においては、役割を期待されているところはやっぱり増えてしまうのだろうと思うのです。ただ、それをやっていったときに人件費との関係で、どういうバランスを保ちながらやられていくのかというのは今後の重要なテーマに多分なっていくのだろうと思いますので、そこも何かコメントをいただきたいと思います。
【金原委員】
去年もちょうど9月のころ、新聞報道で、先ほど出ました、会計検査院の目的積立金の使途についての話です。私がいつも感じているのは、現場にいて、やっぱり本来やるべき事業というのはたくさんあるということです。それは、すべて年度計画で吸い上げられているとは限りません。しかし、例えば学生の寮は、昭和40年代にできた古いのがあるのです。それも、夏は暑いのにクーラーも入っていません。あるいはお風呂場も、例えばお湯を張る浴槽が壊れたままである場合は、真冬でも学生さんはシャワーで過ごしているわけです。私は、これはひどいではないかと思います。やっぱり早急に資金繰りをきちんとしてやってあげなさいということも申し上げたこともあるのですけど、そうすると、予算がないという話なのです。結果的には剰余金を出しているわけです。ですから、いつも感じるのは、資金管理のプロがいないのかなというような感じがします。
例えば月別の資金需要、あるいは年度末までの資金需要、あと収入の見通し、そういうのが的確にできるプロの会計者を育てないと、学長さんに、こういう状況です、ですから年度末までにはこのぐらい、間違いなく使えそうなのが出てきますと、そういうのが頭に入っていれば、学長さんもそういう現場の声を聞けば、やっぱりそこにお金を振り向ける、やっぱり学生のために、そういうこともできると思うのです。結果として剰余金が出てしまうのです。その辺のその改善というのは何か、文部科学省で指導するとかということはありますか。
【金原委員】
外部資金の非常に多いところはいいのですけれども、やっぱり文系の大学はどうしても外部資金に頼る部分が厳しいのですよね。一方においては、運営費交付金も年々減っています。そういった中で剰余金が出てくるということは、今言ったような背景があるというか、どこの大学も目的積立金をつくるのが第一命題のような、極端に言えばそういうことですが、そういうふうになされてもちょっと困るなという気がします。
【稲永委員】
中期目標期間の間に何を整備するのかといったマスタープランのようなものがきちんとあって、これを実現していくためのものが剰余金、目的積立金と思うのです。交付金で措置がすぐできるものは、どんどんそれでやっていく。それでも整備できないものは剰余金でやるのだときちんとしておけば、先ほどの寄附金にしても、1つの期間の中で、こういう目的にここまで達したときに順位をつけて使うのだとかという説明がしやすくなると思うのですが、大学の現場はどうなのですか。
【宮内委員】
使うべき目的についても、絵にかいたもちで終わる可能性があるわけですよ。そんなものがいっぱい出てきてしまったら、何だ、絵にかいたもちで今まで会計をやっていたのかというふうに言われかねません。僕は事実に基づいて会計はやるべきだと思っていますから、出てしまった利益に対してどう使うかというのは一度社会的批判を受けた上で決めていく話ですから、それはそれでちゃんと世の中のフィルターを通っていると思うのだけど、ここはフィルターにかからないようにしてしまっていますから、社会との関係でいくと危険な感じがします。
【宮内委員】
これから使います、使うから、まだ使っていませんから収益には上げません。基本的に期間進行基準にするということは、いただいたものについてはこの年度で使うということを前提に、多分運営費交付金の積算も、この年度で使うということを前提に積算されているはずなのです。なのに、そのうち使わないものを自分で決めてしまうというのはおかしくないかというのが私の指摘です。
これはこれで、そういうやり方を今回導入してきたのか前からあったのかわかりませんけれども、出てきて、これがどんどん増えていってしまうと、これはまたやっぱり問題にされる可能性は大いにあると思います。
【金原委員】
隠し財源ではないですけど、キャッシュフローでいわゆる有価証券の部分が、かなり額が大きいですよね。購入と売却です。この辺も一般国民からするとかなり、これも余裕があるのではないかという話になるのではないでしょうか。
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/kokuritu/004/gijiroku/1312910.htm