この「提言型政策仕分け」は、無駄や非効率の根絶といったこれまでの視点にとどまらず、主要な歳出分野を対象として、政策的・制度的な問題にまで掘り下げた検討を行い、改革を進めるに当たっての検討の視点や方向性を整理することを目的に実施されているものですが、折角の貴重な議論の結果を、国政や予算配分に確実に反映していただきたいというのが多数の国民の願いではないでしょうか。
さて、この仕分けの様子は、インターネットを通じてライブ中継されましたが、平日の場合は、多くの方々は勤務中でご覧になることができなかったのではないでしょうか。そこで今回は、「教育:大学改革の方向性の在り方」をテーマとして行われた仕分け(11月21日開催)関係の論点等を整理した資料(文部科学省、財務省がそれぞれ提出)や評価結果を行政刷新会議のホームページから国立大学関係を中心に引用抜粋してご紹介します。
なお、論点の捉え方は、相変わらず文部科学省、財務省の双方で異なります。この”VS”構造をどう理解し、今後将来の大学の在り方をどう考えるかは、政治家、学識経験者、官僚、そして大学関係者だけに依存するのではなく、まさに国民一人ひとりにその責任があると思います。この政策仕分けを契機に、広く国民的な議論が展開されることを願わずにはいられません。
行政刷新会議-提言型政策仕分け「大学改革の方向性の在り方」
論点
- 大学の総収入・総支出は増加しているのに、世界の中で日本の大学のレベルは低下しているのではないか。
- 少子化の傾向にも関わらず、大学数や入学定員、教職員数が増えているのではないか。
- 定員割れによる学力低下等や赤字経営の大学の増加等をどう考えるか。
- 大学は、将来を見据えた明確な人材育成ビジョンを持っているのか。
- 大学が社会の実情と乖離し、社会のニーズに十分な対応ができていないのは、大学改革が進んでいないからではないか。どのように改革を進めるべきか。
とりまとめ(提言)
- 大学の国際通用力の向上の在り方については、「教育分野」における向上などその具体的な達成目標と達成時期並びにその評価基準について明確化を図る。まずは各大学による自己改革によってその実現を図る。
- 少子化傾向の中での大学経営の在り方については、教育の質の確保と安定的な経営の確保に資するため、大学の教育の内容、例えば、生涯教育の拡充などへの転換を含む自律的な改革を促すとともに、寄付金税制の拡充等自主的な財源の安定に向けた取組を促す仕組みを整備する。
- 法科大学院の需給のミスマッチの問題については、定員の適正化を計画的に進めるとともに、産業界・経済界との連携も取りながら、法科大学院制度の在り方そのものを抜本的に見直すことを検討する。
- 大学改革の全体の在り方については、国は大学教育において如何なる人材を育成するかといったビジョン及びその達成の時期を明示した上で、その実現のため第三者による評価などの外部性の強化に加え、運営費交付金などの算定基準の見直しなどの政策的誘導の在り方について検討する。加えて政策評価の仕組みの改善についても併せて検討する。
論点別シート
(論点1)大学の総収入・総支出は増加しているのに、世界の中で日本の大学のレベルは低下しているのではないか。
文部科学省(考え方)
- 限られた財政状況の中で予算効果を最大限発揮するため、各大学で、特色ある機能を発揮・強化するための組織運営改革を加速化させる。また、基盤的経費(運営費交付金・私学助成)や国公私を通じ たプロジェクト補助を通じて、メリハリのある資源配分を更に強化。
- 大学の総収入・総支出は増加
- 国立大学法人運営費交付金や私学助成の減少はわずかなもの(法人化後△385億円)である一方で、競争的資金等の補助金の増(同+1,711億円)等により大学全体の総収入は、大幅に増加(同+4,155億円)している。その結果、総支出も2.4兆円から2.7兆円に約14%増となり、特に教育経費は56%(同+585億円)増、研究経費は24%(同+549億円)増と著しく増加した。(注:公表されている21年度決算までのデータによる。)
- 世界的にみても国立大学生一人当たりの公財政支出をみれば、日本は公財政支出が多い(日345万円、米232万円、英116万円、仏239万円、独165万円)。また、G5の国立大学1校当たりの公財政支出をみても遜色なく、1校あたりの規模が日本は他国に比べ小さいことを考えるあわせると、十分な支援とも言える。
- 世界的にみても日本の研究力は低下
- 成果を検証する一つの指標として世界大学ランキングをみると、世界のトップ100に入る大学はわずかであり、ランキングも下がってきている現状である。
- 世界大学ランキング400位までにランクインされている大学数は、2006年に27校であったが、2010年は16校に4割減少。(注1:Times Higher Education 最新版によれば、世界大学トップ100に入っているのは、わずか東大と京大の2校のみであり、日本トップの東大でさえ30位どまりである。注2:QS社の世界大学ランキング最新版では、100位以内に日本の大学が6大学入っているが、アジアのトップは香港大学)
- 論文数、トップ10%論文数ともに世界シェア、順位が低下している。
- 研究力は必ずしも予算の問題ではない
- 大学の研究力を図る指標として、世界大学ランキングの算出要因の一つでもある論文の被引用数と予算の関係を検証(例1:東京工業大学は筑波大学の予算の約半分であるが、論文の被引用数は約1.3倍、例2:予算の少ない大学の方が論文の被引用数が多い)
- 検証の結果、両者の相関性は明確でない。
(論点2)少子化の傾向にも関わらず、大学数や入学定員、教職員数が増えているのではないか。
文部科学省(考え方)
- 大学間の競争の中で社会からの評価と選択を受ける質保証システムの仕組みを確立し、大学はその教育内容・方法の不断の改善を図り、大学の質的充実を図る。
- 大学の質保証を徹底しつつ、学ぶ意欲と能力を持つ若者の大学進学意欲の高まりに応えられるよう、高等教育への進学機会の確保を図る。
- 18歳人口は減少してきており、私立大学の定員割れは約4割
- 平成初期には200万人を超えていた18歳人口は、それから20年経た今では120万人台に減少。更に、平成35年には110万人を切る見込み。
- 一方、大学(短大含む)の収容力(当該年度の入学者数/進学希望者)を見ると年々増加してきており、23年度は96%となり、ほぼ全入時代を迎えたと言える状況になった。これからは、大学が学生の獲得争いをしなくては生き残れなくなってきた。
- 我が国の大学の約8割を占める私立大学をみると、少子化にもかかわらず、平成になってから大学数は1.6倍、入学定員は1.5倍となったため、現実には定員割れの大学が4割となっている。今の大学入学定員では持続可能と言えないのではないか。
- 現在、6大学、24短大が募集停止に至っている中で、24年度から7大学、5大学院、2大学院大学が開設する予定となっているが、大学を増やしても大丈夫か。今後の大学開設には、より慎重な検討が必要であり、むしろ、統廃合を加速すべきではないか。
- 国立大学は学生数が増えない中でも、教職員数は増加
- 国立大学の学生数は、近年増えていない中で、教員は国立大学法人化以降、1,785人増、職員は12,066人増となっている。
- 設置基準に比べ、教員の数は多過ぎないか
- 国立大学は設置基準の数倍の教員を配置している。特に理系学部においては、設置基準上の教員数と実際の教員数の乖離が多い。
- 国立大学の数は多過ぎないか
- 近隣に同じ工学系や教員養成系等の大学が存在しており、その存在意義が問われる。また、少子化、過疎化の中で共倒れのリスクが懸念される。(例1:工学部:東京大学工学部と東京工業大学と東京農工大学、名古屋大学工学部と名古屋工業大学と豊橋技術科学大学など、例2:教員養成系:京都教育大学と奈良教育大学と大阪教育大学と兵庫教育大学など)
(論点3)定員割れによる学力低下等や赤字経営の大学の増加等の問題をどう考えるか。(省略)
(論点4)大学は、将来を見据えた明確な人材育成ビジョンを持っているのか。
文部科学省(考え方)
- 産業界など社会の要請を踏まえた大学教育の重視
- 国レベルでは、産学のトップの協働による「円卓会議」を開催
- 各大学では、地域企業などとの連携を、カリキュラム作成から行い、社会ニーズを組み込む。また、カリキュラムの体系化、厳格な成績評価(例:GPA)による出口管理を徹底
- 大学の教育情報の公表を徹底
- 大学がどのような教育を行っているか、社会に分かりやく示すデータベース整備。また、企業、学生・保護者の評価やニーズを大学教育の改善に反映させる。
- 人材育成ができていないのではないか-専門教育を行っても効果があげられない例が多くみられる。
- 法科大学院の入学定員は、平成21年度までは約5,800人前後であったが、定員割れの現状から22年度、23年度と段階的に定員を削減し、来年度は21年度までと比べ2割以上減の4,500人程度となった。しかし、法科大学院の入学者は23年度で3,620人で定員充足率は8割を切っている状況である。定員削減は定員割れの現状の追認でしかなく、人材育成のビジョンが見えない。
- 法科大学院の平成23年度入学者のうち、10人以下であった法科大学院が14校(うち国立大3校)あり、教育環境の充実と効率的な経営の両面を考え合わせれば、統廃合も考えていく必要がある。
- 新司法試験の合格率は年々減少を続け、平成23年度の合格率は23.5%となり、約6,700人の不合格者を出した。また、退学や休学により法科大学院を終了しなかった人が約1,400人(平成22年度)、更に修了者の受験率が約8割程度であることを考えると、相当数の人が希望通りになっていない状況であり、年々増加を続けている。
- 平成23年度の新司法試験合格者数が10人以下の大学が74大学中半数以上の39校に上っている。さらにそのうち、合格者が5人以下の法科大学院が23校もあり、このような状況では、大学も社会も、そして何より学生が不幸であり、その存在意義が問われる。
- 公立学校の新規教員採用者のうち教員養成系大学・学部の占める割合は3割程度まで減少してきた。この結果、公立学校教員総数における教員養成系大学出身者の占める割合が小学校で6割、中学校で4割、高校においては2割程度となり、一般大学・学部卒出身者の占める割合が高くなった。教員養成系大学の存在意義が問われる状況になってきている。
- 計画的に人材を育成しているのか-将来見通しが甘く、計画的な人材育成がされていない事例が多くみられる。
- 前年に司法試験合格者の弁護士希望の司法修習生のうち就職先が未定のものは43%(7月末現在)であり、弁護士数の増大による就職難が発生
- 卒業生のうち教員になった人数の割合は約45%にとどまる。
- 厚生労働省の調べでは平成18年に25万人いる薬剤師が、平成28年頃には37万人になる一方で薬剤師のニーズは約30万人程度という推計もあるが、薬学部の入学定員は平成13年は7,910人であったが、平成23年には13,029人となっており、10年で5,119人(65%増)となっている。(6年制だけみても11,792人で1.5倍となっている。)
- 1970年代に計画性なく歯学部を開設・増員した一方、少子化に加え子供が虫歯にかかる率が減少したため、歯科医師過剰時代が到来し、平成10年の厚生省の報告書によれば、入学定員の削減と歯科医師国家試験の見直しを行うことにより、新規参入歯科医師を10%程度抑制としている。平成10年度の入学定員2,714人から平成23年度2,459人と9%程度削減しているが、23年度の入学者が2,158人で300人ほど定員に達していないことや4割近い大学で定員割れになっていることを考えるとまだ不十分と言える。
- 厚労省の「安心と希望の医療確保ビジョン」具体化に関する検討会資料によれば、前提条件によって幅があるものの、2010年代後半から2030年頃にかけて医師の需要と供給の関係が逆転するという報告もされているが、近年、医学部の入学定員を大幅に増加させている。問題の本質は、地域偏在や診療科目偏在であり、本当に将来を見据えた人材育成になっているのか疑問である。
(論点5)大学が社会の実情と乖離し、社会のニーズに十分な対応ができていないのは、大学改革が進んでいないからではないか。どのように改革を進めるべきか。
文部科学省(考え方)
- 改革を実質化し、大学の強みを伸ばす環境整備のため、次のような方向で改革を進める。
- 質の高い教育のため、国公私の設置形態や地域・国境を超えた大学間連携を加速
- 学長のリーダーシップによる全学体制を確立し、ガバナンスを強化
- 卒業時の学修成果を重視した学部教育への転換
- リーディング大学院等産学官共同での修士・博士一貫教育
- 日本人学生の海外留学促進や外国語能力の強化
- 大学の活動や特色の公開を徹底する仕組みを整備(大学情報の可視化)
- 産業界・学生の視点を踏まえた評価軸の検討
- 国民の大学教育に対する評価は低い
- 世論調査によれば、世界に通用する人材を育てられないとの回答が63%、企業や社会が求める人材を育てられないとの回答が64%。一方、人材育成ができるとの回答は、わずか4人に1人程度に過ぎず、大学教育に対する評価は低い結果となっている。
- なぜバーバード大など外国の大学は強いのか
- 例えば、ハーバード大学と東京大学の教授を比較した場合、ハーバード大学の教授にはハーバード大学出身者が少ない。一方、東京大学の場合はほとんどが東京大学出身者である。つまり、外国の大学の場合は、経歴でなく実績社会であり、多様な人材による大学の活性化が図られている。
- 学の財務体質について他国の主要な国公立大学と比較すると、政府からの収入がケンブリッジ大学17%、オックスフォード大学23%、カリフォルニア大学バークレー校22%に対して、日本の国立大学は収入の約4割が政府支援(運営費交付金及び施設整備費補助金)となっている。
- 一方、競争的資金については、収入に占める割合がオックスフォード大学42%、UCバークレー32%に対して、日本の国立大学は12%に過ぎない。私立大学においてもハーバード、イェール、プリンストン等の有力大学をみると、競争的資金が収入の20~25%を占めており、日本の大学に比べ競争的資金の獲得が大学の財務体力となっている。また、外国の大学の場合は、企業からの研究支援や投資収入、出版事業など多様な財源が多く、とりわけ、民間研究資金の割合が日本の大学より多い。
- つまり、外国の大学は競争原理が大学の内外で働いており、厳しい環境下に置かれているが、日本の大学は競争原理が機能しておらず大学改革が遅れていると言える。
- 国際競争力を高めるには、統廃合が必要
- 大学定員の規模別に充足率を見た場合、入学定員が600人以上の大学は定員を充足している。一方、600人未満の大学は定員を充たせず、規模が小さいほど充足率が低くなる。このため、少子化時代において大学が生き残っていくには、統合により大学規模を大きくする必要がある。他方、生涯教育の充実による学生規模と多様性の確保も有用である。
- 1校当たりの学生数を国際比較してみると、日本の場合1校あたり3万7千人となり、G5のうち日本が一番小さい結果となっている。つまり、小さい大学が数多くある姿であるため、国際競争力を高めていくには、大学の統合を図り、諸外国に対抗できるような大学に組み立てなおす必要がある。
- 大学倒産時代に向え、統廃合や大学間連携、産学連携等の多様な自己財源確保が必要
- 大学経営(財務体力)を考えても、国大法人運営費交付金や私学助成に頼らず、大学間連携等による事務の効率化、または産学連携等による多様な財源の確保が必要
- 事務の効率化や多様な財源の確保ができない場合は、大学の統合による体力強化、または廃止も検討する必要がある。なお、大学の閉鎖に関しては、その仕組み作りが必要
- 国立大学の法人化は、事務機構と財政基盤の国からの独立と責任あるマネジメント体制の確立であったはずである。
- 短期的な実現は困難でも、中長期的な大学のあり方をいつまでにどうするのか明確にすべき。昨年の予算編成過程で今年末までに大学改革の方向性を打ち出すこととされているところ。例えば、トップレベルの国際競争力が期待できる大学・学部(地方大学にも世界的な学部や講座が存在)に国費を集中投資する一方、地方の人材育成を担う大学は、大学間連携、統廃合により持続可能性を強化しつつ、コミュニティ・カレッジとして生き残れるようにしてはどうか。
- このような改革のインセンティブとして、大学の教育研究能力のプロファイリングと実績の情報公開の充実が必須。