2011年11月7日月曜日

親と就活

「教育ななめ読み」梨戸茂史(文部科学教育通信 No278 2011.10.24)からの引用です。


入学式に親が出て話題になったがもうずっと昔のこと。考えてみれば、中学受験あるいは、小学校や幼稚園などの「お受験」から、親が叱咤激励して、一緒になって勝ち取った「ゴール」が超難関大学の合格だったのだから、親が晴れがましく思ったとて無理のないところ。ところが今や大学全人時代で、普通の大学合格くらいでは感動はない。次なるターゲットはちゃんと就職できるかだ。

まずは、雇用条件が大きく変化している。昔のように「大卒印エリート」ではなくなった。もちろん同世代の五割が大学に行く時代、かつての高卒市場を大卒者が占めることにいささかの敗北感もない。就職が難しいというのには、不況もあるが、雇用形態の変化も大きい。親の時代の終身雇用から、今は一時雇用、派遣社員など形態が変化した。その上、工場が海外に移転して就職しようにも職場がない。事務系だって仕事はコンピューターやら集約化など人が多くはいらない時代。いきおい販売など入手のいる部門に流れる。

親の役割は、会社選びから始まって、自分の経験を踏まえた面接アドバイスなど、これも「受験」パターンに近いものがある。ただし、親の知っている「有名企業」やテレビなどのコマーシャルで名前の売れた企業を”推薦”してしまう危険や、その結果、子どもが大都会に就職して親元に帰らない心配も出る。

だから晴れて「地元」の一流企業などに入れたら、子どもは地元に住んでくれるし、うれしくなって入社式まで行こうという気持ちにもなるのであろうか。九月二日付の読売新聞によると、静岡銀行の頭取の入社式のあいさつが「新人社員の皆様、ご家族の皆様、本日はおめでとうございます・・・」と始まったのを紹介している。大学生を見ていると、幼くて高校生の延長に見えるし言動はまだ子どもを引きずる。でも、この銀行、考え方が面白い。そこまで親が出てくるならと逆手に取ったかどうか知らないが、二OO七年から入社式に親を招き始めた。発想は「社員の成長には家族の支援が不可欠だ」という。親を見れば子がわかるというから、そのうち面接で親も一緒にするところも出るかもしれぬ。

同記事では、兵庫県の大手前大学のキャリアサポート室が「保護者のための就職ガイドブック」を二OO九年に作成、配布したそうだ。

帝京大学の八王子キャンパスは、新入生の親を対象にした説明会まで開いているとのこと。そこでは「・・・入学前の三月、「就職戦線を勝ち抜くための『親の就活学』」と題し、キャリア教育担当教員らが企業が求める人材像や親の心得などを伝えている」。”入学前”というのは恐れ入る。もっともその時期に出席して話を聞いたら”面倒見がいい”と思ってしまいますよね。

大学も、学生より親にアッピールするほうが学生を集めやすい。親も授業料を払う以上、言いたいことも言うし要求もする。でも実際に就職が内定するのは四年生も後半になってからということも少なくない。

国立大学で就職率一番は福井大学だ。それも四年連続。卒業生が一千ニ百人という規模は学生を細かくフォローできる。携帯に求人情報を流したり、返信がなければ呼び出したり訪問して面談までしているそうだから相当力が入っている。

それと地元企業との連携も効果がありそうだ。学生はテレビコマーシャルなどで有名企業を志望するけれど、実際は地元にも優秀な面白い企業が少なくないのが福井県だ。そこを上手に紹介したり、インターン制度などを使うと学生も新たな目が開かれるのだろう。この地元の優良会社探しというのは、親もよく知っているし、良いアイディアだ。まだ「親」まで出てこないが、「就活」にも、国立大学は対応の時代ですね。