2011年12月27日火曜日

入試広報の腕をみがく(4)

「大学の広報戦略」に関する日本私立大学協会私学高等教育研究所・岩田雅明氏の論考をシリーズでご紹介していますが、今回は最終回「効果的な広報表現のポイント」です。

(関連過去記事)
  • 入試広報の腕をみがく(1)-広報活動の効果的な組み立てと点検を-(2011年11月28日)
  • 入試広報の腕をみがく(2)-受験へとつなげていく広報-(2011年11月29日)
  • 入試広報の腕をみがく(3)-広報活動の具体的展開-(2011年12月19日)


広報表現のポイント

広報戦略の最後として、広告表現の技術的な点、特に平素、自分の学校のパンフレット等の制作に当たっている中で留意している広告表現のポイントを述べていきたい。

最も効果があると思われる手法は、「自分と同じ立場の人からの情報は受け入れやすい」ということの活用である。健康食品などの新聞広告によく掲載されている、自分と同じ症状に悩んでいた人が、その健康食品で改善されたという声に共感するというのが、これにあたる。大学側から一方的に教育内容の有用性や学生生活をきちんと支援するということをパンフレット等で伝えても、観念的には理解されても、自分が得られるメリットとして具体的には伝わっていかないと思われる。得られるメリットを具体的に実感してもらうためには、その大学の教育サービスを受けている、あるいは既に受け終わった人たちの声、すなわち利用者の声を伝えることが最も効果的である。

したがって、パンフレット等には在学生や卒業生をできるだけ多く登場させ、自分がこの大学でどのように成長したかということを、できるだけ具体的に語ってもらうことが大切である。そして、できるだけ多くのターゲットの共感を得られるようにするため、いろいろな立場の学生(勉強に頑張っている人、スポーツに頑張っている人、入学前は勉強が嫌いだったが、この大学で好きになった人など)を登場させると良い。オープンキャンパスで、学生が大学の教育プログラムや支援体制を説明し、その良さをアピールすることも同じく効果的である。

二番目は、「未来のイメージ」を抱かせるという手法である。その大学でどんなことを学べるのかということだけでなく、学んだ結果、どんな力がどれだけついて、大学卒業後にどのような人生を送れるのかという明るい未来を描いてもらうことが、大学の魅力をアピールする手法として有効である。人は将来の明るいゴールイメージを与えられることで、意欲的になるものである。そして、そのような希望を持たせてくれる大学に対して、自分の将来に関してのサポート感を感じることになるのである。

未来のイメージを描きやすくするためには、希望の進路に進むことのできた四年生や、社会で生き生きと活躍している卒業生などに登場してもらい、大学の教育プログラムや支援体制と希望の進路に進めたこと、社会での活躍との因果関係を語ってもらうことである。この場合に、より具体性、客観性を持たせるために、成長を裏付ける数値データがあるとさらに良いであろう。

三番目は「フィアアピール」といわれているものである。「現状のままでいいのですか」という感じで、こちら側が提供するサービスを受け取らないことにより生じるかもしれない、受け取り手の将来の不安を煽る手法である。この手法は少し過激なものであるので、やり過ぎると大学の広報としては品位を欠く不適切な表現となってしまうおそれがあるが、正しい方向に導くために用いることで効果的なアピールとすることのできる手法である。例えば、「国際化の進むこれからの社会において、英語の力を身につけなくて大丈夫ですか」というような表現である。このような表現にすることで、単に「これからの国際化社会では英語が必要です」というよりも、より強力なアピールとなるのである。保険商品のコマーシャルでよく聞くフレーズ、「いざという時、あなたは家族を守れますか」は、まさしくこのフィアアピールを使った例である。「保険に加入すれば安心ですよ」という表現に比べると、その有効性は明らかであろう。料理における香辛料と同じで、適切に使うことで鮮明なアピールが可能となる手法である。

四番目は「限定条件下の事実」という手法である。これは、アピールしたいジャンルで自分の大学が上位にくるようになるまで、条件を絞り込むというやり方である。身近な例でいえば、食堂のメニューによく書かれている「当店人気ナンバー1」というのが、これにあたる。これなどは自分の食堂のメニューに限定しているのであるから、必ずどれかがナンバー1になるのであるが、それでもつい、そのナンバー1のメニューに客は魅かれてしまうのである。大学の例でいえば、就職に強いということを強力にアピールするために、「北関東地区の人文・社会系大学で就職率トップ」と表現する手法がその例である。単に就職に強い大学であるとして実績を羅列するよりも、このように表現した方が、見る方には鮮明に伝わるのである。ただしあまり限定条件が多いと、逆に鮮明さが失われるおそれがあるので、二つ程度の限定条件にとどめるのが適切であろう。

五番目は、「権威効果」といわれている手法である。人間は、ある分野の事柄に関しては、その分野の専門家、権威者といわれている人の言うことを信じやすいという特性を持っている。かつてのテレビの人気番組で、いろいろな食品の効能を専門家が実証するという手法でアピールし、放送の翌日には取り上げられた食品が品切れになるという社会現象を引き起こすことで話題となった番組が懐かしく思い出されるが、これなども権威効果を上手に活用した例である。大学でも、この効果を活用した広告が見られるようになってきている。一例では、法学部を新設する女子大学が、著名な女性法律家に登場してもらい、女性にとっての法律の有用性を説くといった広告である。このような形で大学の教育プログラム等をアピールすると、普通に有用性を伝えるよりも説得力が増すことになるのである。

最後は、「視覚の優位性を活用する」という手法である。「百聞は一見に如かず」といわれているように、文字での説明よりも絵や写真の方が分かりやすいし、アピール力があるというケースは少なくない。人間が物事を判断する際に、視覚情報、聴覚情報、言語情報から、それぞれどのような比率で影響を受けるかを分析した『メラビアンの法則』でも、最も影響を受けるのは視覚情報だとされている。拙著『実践的学校経営戦略』の中でも書いたことであるが、「面倒見の良い学校です」と書くよりも、夕日の差し込む教室の中で生徒が机に向かい、先生が教えている写真があり、そこに「分かるまで付き合うよ」というコピーが書かれている方が、何倍もアピール度が高くなるのではないだろうか。大変美しいキャンパスを持っていながら、パンフレットにキャンパスの写真が全く載っていないという例も見ている。パンフレットやポスターでは、この視覚の優位性を活用することを、お勧めしたい。


広報戦略の最後に

以上、広報の基本的な考え方や、その展開と点検、そして技術的な留意点について述べてきたが、広報戦略も他の戦略と同じく、これさえしていれば大丈夫というような万能策は、残念ながらないといえる。遠回りのようではあるが、対症療法的な広報戦術に飛びつくのでなく、自分の大学の広報の基本的な方向性をきちんと固め、その線に沿って、少しでも効果があると思われる戦術を立案し、それを一つ一つ実施していくことが大切である。その積み重ねが、その大学のイメージをつくり、ひいては大学の内容をより充実させるということにつながっていくのである。本来は建築の用語であるが、それを広報に転用させていただくならば、まさに『神は細部に宿る』のである。(文部科学教育通信 No.282 2011.12.26)