2012年3月29日木曜日

大学教員への転職

大学の教員になる方法・文系の巻」(文部科学教育通信 No.287 2012.3.12)(教育評論家 梨戸茂史)をご紹介します。


サラリーマンであれ、何であれ職業人が、途中から大学教授になるのは、なかなか大変だ。その苦労を”1勝100敗!”と表現した人がいる。元役人の中野雅至氏が書いた「1勝100敗!あるキャリア官僚の転職記」(光文社新書)。副題は「大学教授公募の裏側」だが裏話ではなく「苦労」話だ。

今は、ほとんどの大学の教員は”公募”が原則。実際には有力候補が学内にいても”公募”が建前。うまくすると良い人が出てくるかもしれないし・・・。

意外だったのは、同氏のような社会人出身の大学教員の割合だ。もちろん、理系で企業の研究所からやってくるいわば横滑り?のような方々も含んではいるのだろうけれど、2007年度で36.7%もいる(松野弘「大学教授の資格」)。

そこで、社会人から大学に行く方法として、中野氏があげる4点がポイント。まず、大学教授への転身には時間がかかるから「忍耐強くやる」こと。第ニは「学会活動が重要」。三番目は学者の評価は論文で決まることから「論文を書くべき」。最後は「大学院で博士号をとる」こと。それと重要なのは、「分野」。社会人だから何らかの仕事をしているわけで、それを研究分野にすることだ。

同氏の体験論から、経済学関係でいえば「開発や経済発展」の分野を専門にしようと思ったが、相談した先生いわく「・・・たとえば、東大の経済学部を出て、ハーバードやイェールなんかの超一流大学でPh.D(博士号)を取って、世銀(世界銀行)やIMFでの勤務経験があるような奴が公募に応募してくんねんで。君、こんな人に勝てまっか?」だ。ある意味、自分の仕事の狭い?分野を極めることが成功につながりそうだ。

「博士号」に関しては、実務家としては必ずしも必要ないようだが、実務の実績だけでは不十分なことがあり、一方で、学問の世界のルール(博士号をもち、学術論文が書けること)が分かっているとみなされることと、将来、どうせ論文を書いて認めてもらう必要があるのだからその訓練としても重要なことだと言う。「実務家としての賞味期限はせいぜい5年程度」(同書)との意見は貴重だから、サラリーマン時代に書く訓練をしておく意味は大きい。

ところで、学術論文は、仮説・実証(調査)・結論と流れる。サラリーマンの職場は、仕事でストレスがいっぱい。これを「仮説」で、「どうして役所の意思決定は遅い」とか「利害調整過程でここまで歪むのか」など考えれば、実は論文を考える”宝庫”だと言う。実務を無駄にしてはいけませんね。学者ではこんな体験はないから有利な点だ。

論文に関して、学会誌に掲載されるコツも必要。学者だけが集う伝統ある分野では、「君の論文は政府の資料だけで書かれている」とか「○○先生の論文が引用されていない」など論文を出す皮に文句を言われ何度も却下されるらしい。そして、「査読」付き論文が重要であることは間違いない。そこで、実際に実務家の論文が掲載されやすい学会誌があるそうだから、これを狙わない手はない。そうして実績を積むことだ。このあたりも懇切丁寧に解説してある。

面白いのは一名採用のケースより、「複数名」の場合が実務家に有利だということ。前者はポスドク組に有利で、純粋に専門分野や学者コースをまっすぐにたどってきた者が採用側にも安心を与える。後者なら少し毛色が変わった者も入りやすいとは言えるのだろう。まあ、この著者の中野氏の場合、どちらかというと中堅サラリーマンからの転職だからちょっと特殊な部分もあるが、ある意味真っ当な努力をしてきた。それにしても「100敗」とは恐れ入る。