やり直しのきかない最も難しい人事がトップの継承である。それはギャンブルである。トップとしての仕事ぶりはトップにつけてみないとわからない。トップへの準備はほとんど行いようがない。大統領選挙にしても、われわれにできることといえば、神がアメリカを見捨てることのないよう祈ることだけである。同じことは、それほど偉くはないトップのポストについてもいえる。
しかし、してはならないことは簡単である。辞めていく人のコピーを後継にすえてはならない。辞めていく人が、「30年前の自分のようだ」というのならばコピーでしかない。コピーは弱い。
また、18年間トップに仕え、ボスの意向をくむことには長けているものの、自身で決定したことは何もないという側近も注意したほうがよい。自分で決定する意欲と能力のある人が補佐役としてそれほど長くとどまることはあまりない。
さらにまた、早くから後継者と目されてきた人物も避けるべきである。そういう人は、多くの場合、成果が必要とされ、評価され、失敗も犯しうる立場に身を置くことのなかった人である。傍目にはよいかもしれないが成果をあげる人ではない。
では、トップの継承にあたっての前向きな方法は何か。まず、仕事に焦点を合わせることである。これからの数年何が最も大きな仕事になるか、次に、候補者がどのような成果をあげてきたかを見ることである。こうして、組織としてのニーズと候補者の実績を合わせればよい。
つまるところ、非営利組織の成否を決めるものは、やる気のある人たちをどれだけ惹きつけ引きとめられるかである。この能力をなくしたとき衰退が始まるのであり、逆転は不可能に近いというべきである。われわれは、得るべき人材を得ているか。活躍してもらっているか。そのような人材を自ら育てているか。人事に関して考えるべきことばこの三つだけである。
われわれはこの組織を喜んで任せたいと思う人たちを惹きつけているか。彼らを引きとめ、刺激し、認めているだろうか。われわれ以上になってもらうために、彼らを育てているだろうか。いい換えるならば、われわれは人事によって明日を築いているだろうか、それとも安易な日常に満足しているだけだろうかということである。