2014年1月16日木曜日

大学改革のエンジン

昨今、特に大学のガバナンス改革が強く求められていますが、事務職員の役割・機能、そして能力開発もその重要な要素の一つです。

今回は、学校法人東邦学園愛知東邦大学理事・法人事務局長/学長補佐の増田貴治さんが書かれた論考「大学職員の力量を高める」(文部科学教育通信 No331  2014.1.13)をご紹介します。


力量ある職員の育成を求めて

品位を疑われるので口には出さなかったが、大学職員の経費に関して、筆者は率直な感想を持っていた。「同情するならカネをくれ」。大学改革の新たな旗手として、職員は情熱を持って教育を支援し、教員と協働するよう、その重要性が説かれながら、具体的支援策(カネ)がなかったからである。

それが今年度から、助成金がつくことになった。補助金総額は14億円。私立大学等経常費補助金特別補助に「未来経営戦略推進経費(持続的な大学改革を支える職員育成に係る取組み)」として新たに加わった。文部科学省が大学職員の育成事業に財政支援を行うことは過去にはなかった。

学校法人会計基準は従来、職員の研修等に関する直接的な経費を「教育経費」ではなく「管理経費」として扱ってきた。補助金対象とはならない。各大学とも職員の育成に対する予算配分を十分に措置できなかった原因の一つがここにある。

画期的なこの特別補助事業は、中長期を展望する大学の改革計画や経営改善計画を達成するため、教学・経営改革を支える職員の能力向上を主眼に据えた。それを組織的・持続的に実行する学校を支援する制度である。大学職員の力量が、法人・大学を円滑に運営する上での重要な要素として認識された証拠だろう。財政的な裏付けが可能となったことで、理事会からの後押しや教学サイドの理解と協力を得て、これまでの人材育成のあり方を抜本的に見直すきっかけになると考える。

投資の必要性を再認識する

この補助金は、5年間の継続した取り組みであること、理事会で承認されたことなどが条件となっている。筆者が所属する愛知東邦大学も、職員育成のためのアクションプランとして「中長期展望に基づく職員力向上に係る取組み計画」を策定した。

先日、本学の申請が採択され、補助対象校として選定されたとの朗報が入った。計画が一定の評価を受けたことは誇らしいことである。一方で、理事会は既に「採択結果の可否に関わらず、事業経費を予算化して実施する」ことを決定していた。本学園にとってこの熟議のプロセスこそが重要で、既に大きな成果を得たと受け止めている。学内に向けて「大学職員の能力向上を図る取り組みを明確に位置づけ、組織的に推進することが必要不可欠」という認識を、より深める機会になったからである。

大学改革のエンジンとして、職員の果たす役割の重要性は言うまでもない。課題は、必要な能力をいかに継続的に身に付けさせ、育成プログラムをどう設計するか、そして職員が提案した取り組みが、優先順位の高い事業として位置づけられるかである。

職員研修実施に向けて課題

日本私立大学協会附置私学高等教育研究所の私大マネジメント改革プロジェクトチーム(研究代表・篠田道夫桜美林大学教授。筆者も研究員として参画)が2009年に実施した「事務局職員の力量形成に関する調査」で、「職員研修の種類」(図1:略)に関しては、「外部団体主催の研修参加」が90.9%と最も多い。次いで、「新人研修」67.5%、「職員全員参加研修」64.5%、「階層別研修」42.0%、「テーマ別研修」39.0%と続いた。一方で、「海外研修」は12.1%、「大学院への進学」は7.4%と、わずかではあるが制度として挙げられていた。

また、研修制度に関する問題点や課題(図2:略)では、「体系的な研修ができない」が60.2%と最も高く、「研修による職員の成長を評価しにくい」も55.0%と、いずれも過半数を超えている。「講師選びが難しい」28.6%、「研修する時間がない」26.8%、「研修に対する職員の意欲が低い」26.4%の順である。一方で、「職員研修制度がない」も13.0%、「研修制度はあるものの運用されていない」が2.2%あり、研修そのものが実施されていない大学もあった。

研修回数を一人当たりでみると、「学内研修」が2.1回、「学外研修」が1.9回だった。大学職員の成長を促す学修機会としては、日常業務を遂行する中でOJT(On the Job Training)を中心に据えながら、これを補完する学内外研修の実施が効果的であると考える。(研究所叢書『財務、職員調査から見た私大経営改革(2010年10月)』参照)

SDとトップマネジメントカにかかる

筑波大学・大学研究センター長の吉武博通教授は、大学職員に求められる3つの要素として「動機・意欲」「スキル」「知識」を挙げている。そして、3つの要素が相互に作用しながら、能力がスパイラル的に向上する状態をいかに創出するかがスタッフディベロップメント(SD)の本質であるという。

また、大学がSDの環境を整えるため、3つのことに重点を置く必要があるという。一つ目はマネージャーとメンターの育成・配置。二つ目は健全な職場づくりの促進。三つ目はOJTを補うための、学外の教育・研修機会も活用した研修体系の構築とその計画的実施である。組織、制度、人事、研修などの総点検が必要であり、SDを掛け声倒れにしないためにも、それらを人材育成という一つの目的に向けて再構成する必要があると指摘されている。(『カレッジマネジメント161/Mar.・Apr.2010』53頁より)

現在の法人・大学は、経営・教学それぞれに専門性が高く、複雑な課題を抱えている。だからこそ、両組織が共に機能するようトップマネジメント体制を確立できる仕組みが求められる。また、個々の課題をすり合わせ、解決に向けて経営と教学が有機的に連携する必要がある。

東京の学校法人武蔵野大学が、職員募集に当たってホームページ上でアピールした「『職員力』によるプロジェクト・武蔵野BASIS」に目がとまったのでご紹介する。2011年度からの未来経営戦略推進経費(経営基盤強化に貢献する先進的な取組)」を生かした成果だという。

「自己基礎力を身に付ける大学独自の教養教育システムは、教・職員共同で作り上げました。学生が文・理・医療系の学部・学科の垣根を取り払い、広い視野を身に付けると同時に、武蔵野大学の学生としてのアイデンティティと強い連帯感を持ことができます。」

筆者の大学も同じ推進経費をいただいているが、武蔵野大学のような成果をあげてきたかと振り返ると、反省しきりである。人・物・財が必要な分だけ確保できない経営環境が厳しい大学であれば、なおさら不足を補う運営マネジメントが重要である。