2015年3月25日水曜日

生活保護制度の活用を

“貧困の母”はまだ救われていない-生活保護受給者「過去最高」の知られざる真実」(2015年3月18日ウートピ)をご紹介します。


ニュースを見ていると、毎月出てくる生活保護の受給者の話。最近、やたらと「今月の生活保護受給世帯は過去最多」というフレーズを耳にしませんか?

そんなことを聞くと、「シングルマザーや若年女子の貧困もよく話題になるし、生活保護を受ける同世代の女性も増えてるのかなぁ?」なんて思うかもしれませんが、実はちょっと違います。


増えている生活保護受給者は「高齢者」
出典:厚生労働省「被保護者調査(平成26年12月分概数) 
表2 世帯類型別現に保護を受けた世帯数」より作成


いったい生活保護受給者はなぜ増えているのでしょうか? ここ2年のデータをグラフで見てみると一目瞭然、高齢の受給者が増えているからなのです。一時期まで増加していた母子世帯や、その他世帯(高齢でも、母子でも、障害や傷病でもない世帯)はここ2年でみると横ばい、あるいは微減傾向です。

生活保護は他に収入があっても、国で定められた最低限の生活を営むのに必要な金額に満たなければ足りない分を保護費として支給してくれる制度です。高齢になって年金の支給額が少なく、貯金がつき、頼る家族・親族もいなければ、不足分は生活保護を利用することになります。

日本の高齢者の22%は無年金・低年金等で貧困状態にあると言いますので(参照:藤森克彦「低所得高齢者の実態と求められる所得保障制度」)、高齢化がますます進む現状では生活保護受給世帯数が過去最高を記録し続けるのは容易に予測できます。

母子世帯はなぜ微減傾向なのか

けれども、「生活保護を受けなければならないほど生活に困っているシングルマザーや若年女子の数は減っているのか?」と言われると、そうではありません。子どもの貧困率は昨年発表のデータでは過去最高を記録、ひとり親世帯の貧困率は国際的に見ても最悪の状況、単身女性の3人に1人は貧困状態だと言います(参照:「母子家庭」「20代前半男性」「子ども」に際立つ日本の貧困 国立社会保障・人口問題研究所の阿部彩部長が解説」)。

では、なぜ生活保護受給世帯が増えないかといえば、生活保護にはマイナスイメージが強く生活が苦しくても抵抗感があるために利用しなかったり、窓口で申請をさせてもらえない水際作戦にあっている等が考えられます(生活保護の水際作戦については「生活保護を受けるのは悪いこと? 女性の貧困を救う手段を阻む“水際作戦”の実態」参照)。また、生活保護を受けていた人が受給しなくなった要因としては、近年生活保護受給者への就労支援を強化した成果があがっているとも考えられますが、中には疑問のある拙速な就労指導もあるようです(実例については、拙記事「シングルマザーの自立支援は子育て時間の確保を要件としなければならないより」参照。)。

働く世代でも将来のために活用したい生活保護

しかし、病気や家庭の事情などさまざまな事情のある女性や、子育てと両立しなければならないシングルマザーまで、本当に生活保護の利用を差し控えるべきなのでしょうか?

先日の川崎中1殺害事件では、被害者の母親が生活保護の相談に行ったものの、受給に至らなかったことが報じられています(参照:琉球新報「川崎・中1殺害:部活欠席、顔にあざ…異変サイン生かせず」)。もし、母親が生活保護を活用しながら、子どもの異変に気づいて向き合うだけの時間を確保できる働き方をしていたら……、あるいは結果は違ったかもしれません。

生活保護は高齢者や障害者だけではなく、現役世代の私たち全員のための数少ないセーフティーネット。何かあった時の暮らしを支え、自分や子どもたちの将来のためにももっと活用されていい制度ではないでしょうか。