母子家庭の母が抱える子供についての悩みの内訳 |
「学校に行くより前に出勤しなければならず、遅い時間に帰宅するので、日中、何をしているのか十分に把握することができませんでした」。川崎市川崎区の河川敷で同区の中学1年、上村(うえむら)遼太さん(13)が刺殺体で見つかった事件。女手一つで上村さんを育ててきた母親が2日に発表したコメントからは、仕事に追われ、子供との時間を持つ余裕のないひとり親家庭の苦悩が浮かぶ。
「毎朝、子供を保育園に送り、夕方には小さい下の子2人の手を引いてスーパーで買い物をしていた」。上村さんの自宅アパート近くの住民は、介護関係の仕事と育児に奔走する母親の姿を度々見かけた。
上村さんは5人きょうだいの2番目。島根県・隠岐(おき)諸島にある西ノ島(西ノ島町)の小学3年進級時に両親が離婚。以降は母親ときょうだいと一緒に暮らし、小6の夏に川崎の母親の実家近くに越してきていた。
「仕事が忙しかった私に代わって、進んで下の兄弟たちの面倒を見てくれました」。コメントからは母親を気遣う上村さんの優しさがうかがえるが、「学校に行かない理由を十分な時間をとって話し合うことができませんでした」との文面には、後悔がにじむ。
厚生労働省の調査(2012年)によると、経済的に普通の暮らしが困難な人の割合を示す「相対的貧困率」は16・1%。ひとり親家庭に限ると、その割合は54・6%にまで上昇する。ひとり親世帯を対象に行った別の調査(11年)では、母子家庭の母親の帰宅は午後6〜8時が39・8%と最多で、8時以降も11%。子供の非行や交友関係に悩みを持つ割合は、上村さんと同世代の10〜14歳の子供を持つ母親の場合は5・6%で、全体(3・6%)に比べて高かった。
「周囲の助けなしには育てられない」。東京都練馬区で中1、小4、1歳のきょうだいをひとりで育てる母親(35)も、朝9時から夕方6時まで働き詰めだ。買い物をして夕飯を作り、下の子を寝かしつけると夜9時を回る。長男は中学生になり、交友関係も広がった。会話を持つようにしているが、「何を考えているか分からなくなるときもある」。
支えになるのは「ママ友」だ。「あそこで見かけたよ」「学校でこんなことがあったらしいよ」。把握しきれない学校での出来事や子供の異変をメールなどで教えてくれる。「理想は『地域で育てる』でも、知らない子や親に声をかけるのは難しい。家庭環境を分かり合えているママ友の存在は大きい」という。
千葉県市川市で中3と小6の娘と暮らす看護師の母親(39)は週2回は夜勤で朝まで帰れない。次女が学校で体調を崩し、学校から電話があったが、仕事で2時間以上出られなかった。「子育てを誰かに相談する余裕もない」
ひとり親家庭でつくるNPO「しんふぁ支援協会」代表で、高校1年の長男(15)をひとりで育てる原貴紀さん(41)は「一律でない、それぞれの家庭に合った支援体制が必要だ」と訴える。「なくそう!子どもの貧困」全国ネットワーク共同代表の湯沢直美・立教大教授(社会福祉)は「子供のために働けば働くほど子供との時間が奪われる。就労環境の改善や児童手当の拡充など、ひとり親の就労を下支えする福祉が必要だ」と話す。