2017年3月29日水曜日

記事紹介|財政健全化への王道

2000年以降に17人の日本人がノーベル賞を受賞したことで、我が国の学術研究力の高さが誇れる状態にあると人々は誤解している。これらの成果はあくまで20~40年前に得られたものだ。

日本の人口当たり論文数の世界順位は2000年以前の15~16位から13年には37位に転落した。台湾や韓国だけでなく、クロアチア、セルビア、リトアニアといった東欧諸国にも抜かれた。日本の研究力は00~03年をピークに低下し、現状は無残ともいえる状況にある。

その中核的原因は予算の減額だ。国立大学法人運営費交付金は04年度から毎年1%減額され、その影響は若手教員と基盤的研究費に顕著に表れた。10年前は若手教員の約63%が任期なしだったが、今や約65%が任期付きになった。不安定な処遇を目の当たりにして博士課程への入学者数は04年度比で約19%も減った。

教員は研究費獲得のための外部資金の申請や成果報告に追われ、落ち着いて研究することが困難な状況に置かれた。こうした中で20世紀にはほとんどなかった研究不正が多発し始めた。黒木登志夫博士(前岐阜大学長)によると、研究不正や誤った実験などによる撤回論文数の多い研究者ワースト10に日本人が2人、ワースト30には5人が入っていて、国別の論文撤回率で日本は5位にランクしている。

交付金削減の最大の理由は国の財政悪化だ。確かに国の負債は1000兆円以上に上るが、一方で対外純資産や日銀の金融資産を含めた政府資産は1300兆円以上となり、優に負債を上回る。財政健全化のためにも、こうしたお金をいかに活用するかを考えることの方が重要である。

少子化・人口減少問題を解決する道は国民一人ひとりの質を高める以外にはない。国力の基本は文化と産業、文明であり、これを伸ばす源は学術研究力と高等教育力だ。これらの振興こそが財政健全化への王道である。花を咲かせ、農作物や果実を実らせるためには、長い期間、畑を耕し、土壌を肥やし、種をまき、水をやり、新芽を育てることが必須である。

産業界・企業も将来の生き残りのために学術研究と高等教育の振興に身を切る努力をして大学と連携する必要があるだろう。すぐに製品化につながる果実ばかりを共同研究に求めるのではなく、畑作業にも加わり、その中から新芽を見つける役割を果たすことが求められる。

学術振興こそ日本を繁栄させる 総合研究大学院大学学長 岡田泰伸|2017年3月27日 日本経済新聞 から