日経新聞が開催しているSDGsフォーラムも満員の盛況であった。この関心の盛り上がりは、世界的な金融の世界において、SDGs指標の活用が投資家の視野に入ってきていることも、大きな要因である。地方企業の価値評価をSDGsの観点から行って差別化を図ろうという新手法も、長野県などから始まっている。
主要な企業や地方自治体の相当数が実践を開始したことについては、政府の旗振りが功を奏したのか、世界の潮流に乗り遅れないという経営者の防衛本能のなせる技かは詳らかではないが、2030年の目標達成への具体的な取り組みが始まっていることは確かである。
しかし、学部学生の大半が席を置いている私立大学の多くは、SDGsに反応しているように見えない。経営陣にSDGsへの認識があるのかも相当怪しい。
SDGsが定める17の目標が多数の専門分野に分割されるために、教授の数だけ専門店が並ぶショッピングモールのような大学の構造上、SDGsを取りまとめて推進する中核が存在しないことも、認識の低さの原因である。
このままでは、企業や地方自治体に比して、意味のある取り組みが遅れ、社会的な落伍者になりかねない。
政府におけるSDGsの推進役は、内閣府(地方自治体対応)、外務省(国連対応)、経済産業省(産業界対応)だろうが、大学という組織体を誘導するのは、文部科学省の役割になるだろう。
しかし、今のところ、実質的に何の動きもない。東京2020大会の組織委員会のようなところでは、きちんとSDGsの観点からの計画を立案決定している。やらないわけにはいかない状況に追い込まれないと、何もしないのだろうか?
意識の高い自治体の小中高校では、SDGsを学習・実践する機会は多くなっているにも拘らず、大学業界だけが取り残される懸念がある。
大学という組織体で、SDGsへの取り組みを検討する際には、教育研究機関という事業体のインプット、アウトプット、内部のオペレーションの3領域に分けて考えると分かりやすい。
第1に、インプットについては、調達という業務に際して、契約先の選択に、SDGsの観点を加味することが考えられる。
電力さえも調達先が選択可能な時代になっており、再生可能エネルギーの割合が高い企業を選択するなどが考えられる。
また、長野県が推進しているようなSDGsへの優れた取り組みを実践する企業への認証制度を活用して、調達の際に有利な扱いをすることも考えられる。
大学が直接調達する物品・サービスに限らず、学生・保護者が大学やその関連会社の斡旋で購入するものを含めれば、大規模大学であれば、軽く億単位の桁になるので、調達を通じてSDGsを推進することは、相当の影響力になる。
第2に、アウトプットについては、大学全体の教育成果として、SDGsの観点を卒業生の種々の社会的行動に反映させることが最も重要である。
また、授業科目以外に、学生の課外活動として、貧困、飢餓、気候変動、海の環境保全などに関連するボランティア活動の実践に取り組むことを支援することも考えられる。その際、地方自治体との連携も視野に入れると良いだろう。
研究面では、成果を社会的イノベーションに結びつける大学発のスタートアップが生まれれば素晴らしい。そこまで行かないまでも、SDGsの実現に貢献するため、産学連携による研究成果の社会的還元に、大学全体として取り組むことが求められる。
さらに、地方自治体に協力して、例えば防災等の専門的知識をまちづくりに生かすという取り組みも考えられる。
第3に、オペレーションの面では、テレワークの推進など働く場としての環境改善、食品廃棄の削減、3Rの観点からの循環型経済の実現、ジェンダー平等への行動計画の策定など、幅広い取り組みが考えられる。
特に、ジェンダーや循環型経済に関しては、気候変動とともに、我が国は全体として最低評価となっており、目標達成が厳しい状況の課題となっているため、大学という組織体としても、企業における取り組みを参照しつつ、積極的な改革への意識を持たなければならないだろう。
大学に関する評価は、メディア等により、種々の軸で行われているが、是非SDGsという軸も取り入れることを検討してもらいたい。文部科学省自身が評価を行うことは無用だが、評価基準の策定などを施策化することは可能だろう。
内閣府がやっているように、意欲的な計画を策定している大学をモデルとして選定することも考えられる。2030年のゴールに向けて、SDGsは啓発から実践のフェーズに入っているので、実践する大学をどう増やしていくか、どう差別化するかを考えたらよい。
SDGsから大学が取り残されていては、我が国の目標達成は覚束ない。ただ、現場の感覚としては、このまま放置しておいて、大学自身がSDGsに目の色を変えるようには決してならない。残された時間は限られている。