この決算検査報告には、平成21年度の歳入歳出決算、政府関係機関の収入支出決算等について、会計検査院が平成21年次中(21年10月~22年9月)に実施した会計検査の成果が収録されています。
会計検査院のホームページに掲載された資料から、国立大学法人及び関係独立行政法人に関する指摘事項等を抜粋してご紹介します。
それにしても、会計検査院の資料は一般国民にはなかなか読みづらく、ホームページでの掲載方法もなんどもクリックしなければ求める記事がでてこないなど、もう少し国民にわかりやすい情報提供に努められてはいかがでしょうか。
会計検査院の存在意義を国民に明確に示していくことはとても大切なことではないかと思いますが。
平成21年度決算検査報告の概要(抜粋)
詳しくはこちらをご覧ください。http://www.jbaudit.go.jp/report/summary21/index.html
不当事項
▼独立行政法人日本学術振興会・科学研究費補助金の経理が不当
http://www.jbaudit.go.jp/report/summary21/pdf/fy21_futo_91.pdf
▼国立大学法人山口大学・研究用物品の購入に係る経理が不当
検査の結果、国立大学法人山口大学は、平成16年度から21年度までの間に大学院等に所属する15名の研究者から納品書、請求書等の提出を受けるなどして研究用物品の購入代金を業者に支払っていた。
しかし、この購入代金のうち126,743,002円については、実際には上記15名の研究者が、業者に架空の取引を指示して虚偽の納品書、請求書等を作成させ同大学に架空の取引に係る購入代金を支払わせていたものであり、その全額を業者に預けて別途に経理するなどしていた。
以上のように、事実と異なる会計経理を行い、代金を支払っている事態は、会計規則等に違反していて、126,743,002円が不当と認められる。
意見を表示し又は処置を要求した事項
▼国立大学法人における目的積立金の取扱いについて(文部科学大臣あて)
業務を効率的に行ったため費用が減少した結果発生したものと認められない利益が、所定の割合の学生が在籍しているなどの条件を満たしているとの理由から、経営努力により生じたものとして目的積立金として計上されている事態が見受けられた。また、その積み立てられた目的積立金は、積み立てる目的が詳細に定められておらず、取崩しに当たっても一般的、日常的な経費にも区別なく使用され、また、その使途についての情報が国民に開示されていない事態となっていた。
(1)目的積立金の計上について
会計実地検査を行った24国立大学法人のうち目的積立金を積み立てていない1国立大学法人を除く23国立大学法人において、見返りの資産として現金の裏付けがない額が目的積立金として計上されていたり、4国立大学法人において、最終消費者に代わって支払っていたにすぎない消費税の還付額や、予定されていた事業の計画が遅延したため、行うべき事業を実施できなかったことによって生じた当該事業の支出予算額と決算額との差額が、目的積立金として計上されていた。しかし、これらの利益は、外部要因により生じたものであり、国立大学法人の自主的な活動によって生じたとは認められない性格のものである。また、独立行政法人の場合、中期目標の期間に交付された運営費交付金が使用されずに生じた利益は目的積立金として計上されることはないが、国立大学法人の場合、個々の事業ごとに経営努力を説明することは求められずに、所定の割合の学生が在籍しているという条件等を満たせば目的積立金として計上することができることから、21国立大学法人において、運営費交付金に含まれている教職員の定員の人件費に着目した場合、行政改革の推進に基づいて削減されたことなどを考慮しても、交付された運営費交付金が使用されずに生じた利益が目的積立金として計上されることになる。
(2)目的積立金の使途について
文部科学省は「国立大学法人等の平成20事業年度財務諸表の概要」等において、目的積立金については年度を超えたプロジェクトなどに計画的に使用するなど、使用する目的が明確に定まっている資金であるとしている。しかし、86国立大学法人は、目的積立金を857億7113万余円取り崩しているが、目的積立金の使途を「教育・研究・診療の質の向上及び組織運営の改善に充当する」などとしているだけで、それ以上の具体的な使途や目的を定めたり、公表したりしておらず、目的積立金の使途について具体的な情報を国民に開示していない状況であった。
上記のような状況の中、目的積立金を積み立てていない1国立大学法人を除く85国立大学法人における目的積立金の使途をみると、目的積立金を積み立てる目的が明確でなく、目的積立金の使途が具体的に特定されていないことから、目的積立金を取り崩して得た資金は、消耗品費、修繕費、委託費、備品費、医薬品費等の法人運営上、毎事業年度、一般的、日常的に費消される費用(347億2084万余円、目的積立金取崩額の約40%)に充てられていて、年度を超えたプロジェクトなどに計画的に使用されたとは言い難い状況となっていた。また、部局に配分した支出予算額と決算額との差額を機械的に一律に当該部局に係る目的積立金として配分の上、後年度に使用している事態も見受けられた。
以上のように、国立大学法人においては、損益計算において生じた多額の利益の過半が目的積立金となっていて、利益を繰り越し、後年度における一般的、日常的に費消される費用に充てるための手段にもなっている状況にある。そして、このことは、独立行政法人において、経営努力の認定基準の明確化が図られていることと対比して考慮すると、無駄な支出を抑制し、法人の経営努力に対するインセンティブを与えるという目的積立金制度の趣旨に即していないと認められる。
本院が表示する意見
文部科学省において、目的積立金の取扱いが合理的なものとなるよう、次のとおり意見を表示する。
(ア)従前の各国立大学法人における目的積立金の計上や使途の実態を把握し、目的積立金の計上のために必要な法人の自主的な努力の成果の範囲を明確なものにするよう文部科学省通知を見直したり、目的積立金の望ましい使途について基準等を定めたり、目的積立金の承認に当たって審査を十分行ったりなどするとともに、その内容を各国立大学法人に周知・徹底すること
(イ)上記(ア)の内容を踏まえ、各国立大学法人に対して、目的積立金の計上や使途を目的積立金の制度の趣旨に沿ったものとするよう、目的積立金の詳細な使途や目的を定め、明確なものとするとともに、目的積立金の具体的な使途を財務諸表等に事業ごとに明示するなどして公表するよう指導等すること
▼科学研究費補助事業における研究成果報告書等の提出について(独立行政法人日本学術振興会理事長あて)
▼国立大学法人東北大学、国立大学法人東京学芸大学、国立大学法人東京芸術大学、国立大学法人琉球大学保有している土地・建物の処分及び有効活用について(4国立大学法人の学長あて)
本院は、90国立大学法人のうち31国立大学法人において、31国立大学法人が21年3月31日現在で保有している土地及び建物を対象として、会計実地検査を行った。
上記31国立大学法人のうち22年10月までに検査を完了した4国立大学法人(保有している土地(帳簿価額計3344億3116万余円)、建物(帳簿価額計1474億5689万余円))において、教育研究等の業務を確実に実施するために必要であるとして土地や建物を16年4月に国から承継してから5年を超えているのに、具体的な処分計画又は利用計画を策定しないまま有効に利用していない土地があるなどの適切でない事態が見受けられた。
(1)国から承継して保有している土地を利用していないもの
国から承継して保有している土地を利用していないものが、4国立大学法人において、計19件(敷地面積計346,859.0㎡、帳簿価額計100億5181万余円)見受けられた。
これらの事態を態様別にみると、1)国から校舎用地等を承継して保有しているものの、当該用地を売却するなどして処分したり、施設等を整備して有効に活用したりすることなく、雑木林地等のまま保有しているものが計15件(敷地面積計320,596.7㎡、帳簿価額計78億6331万余円)、2)国から承継した職員宿舎等を取り壊して更地としたものの、当該更地を売却するなどして処分したり、施設等を整備して有効に活用したりすることなく保有しているものが計4件(敷地面積計26,262.3㎡、帳簿価額計21億8850万余円)となっていた。
また、態様1)の事態のうち1件については、利用していない職員宿舎用地(敷地面積1,477.0㎡、帳簿価額6486万余円)が第三者によって駐車スペースとして不法に使用されていた。
(2)国から承継して保有している職員宿舎等を全く利用していなかったり、その利用が低調であったりしているもの
国から承継して保有している職員宿舎を、20事業年度までの3か年度以上にわたり全く利用していないものが、1国立大学法人において、計2件(建物:延べ面積計103.0㎡、帳簿価額計265万余円、土地:敷地面積計1,451.0㎡、帳簿価額計5994万余円)見受けられた。また、国から承継して保有している宿泊施設で、その利用が低調なものが、3国立大学法人において、計3件(建物:延べ面積計1,609.8㎡、帳簿価額計6060万余円、土地:敷地面積計18,551.8㎡、帳簿価額計3億4367万余円)見受けられた。
本院が要求する改善の処置
4国立大学法人において、前記の利用していない土地や建物等を今後も引き続き保有することについて合理的な理由が存在するか否かを検討して、当該土地等を保有することについて合理的な理由が存在しない場合には、当該土地等についての具体的な売却等の処分計画を策定し、合理的な理由が存在する場合には、具体的な当該土地等の利用計画を策定するなどして、当該資産の有効活用を図るよう改善の処置を要求する。
過年度の検査報告において意見を表示し又は処置を要求した事項の結果
独立行政法人日本学生支援機構学資金貸与事業における割賦金の回収及び返還期限猶予に関する指導に必要となる債務者の住所等の把握について(平成20年度決算検査報告掲記:36条 処置要求事項)
http://www.jbaudit.go.jp/report/summary21/pdf/fy21_zigo_57.pdf
特定検査対象に関する検査状況
▼独立行政法人及び国立大学法人における会計監査人の監査の状況について
独立行政法人等、関係省庁等又は監事においては、今回本院が行った検査の状況を踏まえ、次の点に留意することが必要である。
(ア)独立行政法人等において、会計監査人の候補者の選定に当たり、1)より多くの監査法人等に参加機会を与えるよう、会計基準の策定に関与した実績を考慮することなどを改めることにより、一部の監査法人が過度に有利とならないようにしたり、2)次年度以降を考慮した選定を行う場合には、監査法人等に対して次年度以降も原則として会計監査人の候補者とすることを明示して複数年度にわたる期間を通した監査を考慮した提案書を求めたりすることにより、選定の際の公正性及び透明性の確保を図る。
(イ)独立行政法人等において、会計監査契約の締結に当たって、1)監査報酬の支払時期を適切な時期に設定したり、2)会計監査人の独立性の確保及び監査の品質管理の観点から、監査責任者が一定の期間を超えて連続して指定されていないか確認したり、3)会計監査人において監査が十分かつ円滑に行われるよう財務諸表等や監査報告書の提出期限が設定され、監査日程が十分に確保されているかなどについて十分検討を行ったりして、会計監査契約の各項目を適切に設定する。また、二重責任の原則の観点から、財務諸表等の監査対象書類の会計監査人への提出に当たっては、法人内部のしかるべき機関決定を経た上で、監査日程が十分確保されるように行う。
(ウ)法規準拠性の観点からの監査や経済性及び効率性の視点からの監査については、報告された実績がなく、これらの監査が導入された趣旨にかんがみると、成果が十分に上がっているとは必ずしも言えない。独立行政法人等の公共的性格から求められているこれらの監査については、関係省庁、日本公認会計士協会等の関係各方面において、会計監査人監査の実態を踏まえた検討を行うことが求められる。
(エ)監事においては、財務諸表等の監査について、会計監査人監査とは別に監査を行い、意見を付するものではあるが、会計監査人との連携を一層充実させるとともに、株式会社の監査における会計監査人との関係にかんがみ、会計監査人監査の方法とその結果について十分に把握する。
本院としては、今後とも独立行政法人等の会計監査人監査の状況について引き続き注視していくこととする。
関連報道
山口大の公的研究費をめぐる不正経理問題について、会計検査院は5日、菅直人首相に提出した検査報告で2004~09年度に計約1億2600万円の不当な支出があったと指摘した。・・・
会計検査報告-納税者の期待に応えよ(2010年11月9日 朝日新聞)
お粗末な経理処理や、昔ながらの流儀の漫然とした仕事が続いている。国のお金の使われ方を点検した会計検査院の2009年度の決算検査報告がまとまった。財政への危機感が広がり、無駄な支出や事業仕分けに国民の関心が集まる時代に、変わらぬ「官」の姿が今年も浮かび上がった。・・・
中央官庁に対応して担当の局や課を決め、縦割りで進める方式に限界はないか。予算執行の有効性や効率性に立ち入った検査を行うには何が必要か。そんな問題意識をもって自らを点検することが検査院に求められる。今の追い風を逃さず、職員の士気と技量を高めることに取り組んでもらいたい。
民間企業では厳格な決算や内部統制の確立は経営者の使命になっている。違反すると株主や社会から法的責任を含めて厳しい追及を受ける。会計監査にあたる者や機関の責務も重い。
政府と検査院も同じだ。いや、預かるのが税金であることを考えると、それ以上の緊張感をもってしかるべきだ。予算の適切な使い方を求める納税者の思いに応えなくてはならない。
会計検査院報告 無駄の発掘だけでは足りない(2010年11月10日 読売新聞)
危機的な財政状況の中で、活用されないまま眠る「埋蔵金」の存在が改めて浮かび上がった。会計検査院は、昨年度の決算検査報告書の中で986件、計1兆7904億円の無駄遣いを指摘した。このうち1兆2000億円は、独立行政法人の鉄道建設・運輸施設整備支援機構が抱える剰余金だった。塩漬けになっている資金を国庫へ返すよう、所管する国土交通省に求めたのは当然だ。こうした埋蔵金について、検査院はこれまでも指摘はしてきたが、国庫への返納までは求めなかった。政府が事業仕分けで埋蔵金に切り込んだこともあって、踏み込んだ対応をしたのだろう。一過性に終わらせてはならない。・・・