中央教育審議会大学分科会(第93回、2010年12月14日開催)の議事録を抜粋してご紹介します。(かなり恣意的ですが)
国公私立を通じ、大学が直面する重要課題の一端が読み取れます。今後とも高等教育の発展に資する有益な議論の継続が期待されます。
全文はこちらをどうぞ
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/gijiroku/1302001.htm
「これまでの大学分科会の審議を踏まえた論点整理」についてに関する意見交換
樫谷隆夫委員(公認会計士・税理士)
機能別分化、大学間連携、経営基盤、これに関連して、経営的に見たときに、経営的には問題がないところと、このままいけば厳しいのではないかというところと、もう厳しいのではないかといった3つの段階が多分あると思います。このままいけばしばらくは大丈夫というところも、厳しい国際競争力にさらされます。国際競争にさらされて、国際競争に勝っていかなければいけないというところもあります。それはそれで、機能別分化をしないといけない。
また、機能別分化は、企業で言うと選択と集中です。つまり、企業のコア事業、一番得意なところに集中して、ノンコア事業を売却なり整理して、資源を全部一番得意なところに集中して、国際競争に勝とうということが企業の戦略ですが、機能別分化もやはり、企業で言いかえれば選択と集中ではないかと思っていますので、大規模大学といえども、経営的には何となくはやっていけるかもわかりませんが、やはり競争に勝つため、特に国際競争に勝つとなると、機能別分化といいますか、選択と集中を相当大幅にやっていかないと、超長期的には残れないのではないかと思っています。
小杉礼子委員(独立行政法人労働政策研究・研修機構統括研究員)
私は、機能別分化をむしろ底上げで考えていただきたいと思っています。私は調査機関ですので、いろいろ調査していますが、やはり大学に入ってくる層が非常に多様になって、大学生としてなかなか自律して勉強するところまでいくのに時間のかかる若者たちが今の大学にはたくさんいます。そういう学生が、特定の大学に多くいるという状態の中で、そういう大学の卒業生がこの時点で、最も就職できないでいます。それは需要の問題もありますが、もう1つ、供給側の労働力が、やはり十分労働市場に入って、一人前にプレーヤーとなってない若者がたくさんそこにいるわけです。
そこで大学が、入ってきた学生たちをどれだけ高いところまで持っていけるかが大変大事で、ここの力をどうやってつけるかというときに、やはり機能別分化といった考え方の中で、その学生たちに見合った教育を適切に行うことによって、彼らはまだまだ伸びる可能性をたくさん持っています。
この可能性を十分伸ばすためには、機能別分化の考え方の中で、予算をしっかり底上げに使えるような配分をしていかなければいけない。これまでの配分の仕方は、どうしても特定の大学、トップを伸ばす考え方もありますが、そこに集中しがちです。やはり日本の国力の基本は大多数のところにあると思いますので、そこの力、18歳から22歳までにどれだけつけられるかは大変大事なことだと思います。これをどうやっていくか。そこで、やはり予算配分の構造の話を指摘されましたが、そこをきちんと押さえた上で機能別分化を進めていくことが大事だと思います。
川嶋太津夫委員(神戸大学大学教育推進機構教授)
機能別分化は、要するに、個々の大学がそれぞれ特色を持つということだと思いますが、その前に、この第5期の大学分科会が始まったとき、大学が非常に多様化している中で、大学とは何かという議論から始まったと思います。ですから、機能別分化というか、個性化は当然の方向性ですが、大学として変わらないところ、変わってはいけないところをきちんと押さえた上で、機能別分化なり個別化を議論する必要があると思います。
その一方で、やはり大学としても変わらなければいけない部分も当然あるわけで、これについては、例えば、社会的・職業的自立という形で、かなり就業力や就職を意識した形での教育をしなさいというように、これまであまり大学が考えてこなかったことについては、きちんとやりましょうとなってきましたが、不易流行というか、大学としては何かということをきちんと踏まえた上での機能別分化を議論する必要があるということが第1点です。
2点目は、いろいろな提言はされているのですが、言葉だけが躍ることが多いと思います。学士力もそうですが、今回の資料の中にもある厳格な成績評価や、単位の実質化、あるいはGPAという言葉が出ています。GPAも、ただ数字にすればいいというわけではなく、やはり大学の中で、先生方に共通の成績評価の基準があって、その上でそれを数字に直して、初めてその数字の意味が出てきます。アメリカなどですと、グレードインフレーションでAがどんどん増えてくるので、成績証明書のGPAを見ても、本当の成績がわからないので、そのクラスの平均と分散を必ずつけてはどうかといった議論が始まっています。
ですから、大学分科会で改革の具体的な方策を提案される場合は、必ずきちんとした、詳細な趣旨と説明をすることが必要だと思います。学士力についても、先ほど紹介があったように、私も多少なりともお役に立っているかどうかわかりませんが、リーダーズセミナーといったところで、きちんと趣旨と具体的な取組を説明することで、だんだん理解が広まっていくことだと思いますので、政策を出した際に、その辺のケアをいろいろな団体等がする必要があるということです。
最後に、学士課程答申で提案されて、今期議論されなかった問題として入学試験の問題があります。これは、今回の議論の中でほとんど触れられていません。ユニバーサルアクセスや質の問題、機能別分化を考えていくと、18歳をどうやって大学に選抜、選考するかということだけではなく、各大学が特色に応じて、どうやって入学者を決めていくかということ、非常に重要なポイントと思いますので、今後、入学試験というよりは、入学者の選考の問題、アドミッションの問題は非常に大きな課題ではないかということを申し添えさせていただきます。
江上節子委員(武蔵大学社会学部教授、早稲田大学大学院公共経営研究科客員教授)
安西分科会長が、変わる変わるとずっと言いながら変われない大学という話をされていましたが、なぜ大学はガバナンスがなかなか効果的に発言できないのかとか、先ほど金子委員が、大学規模・大学経営部会からの発言で、経営的に非常に厳しいところがあるが、なかなか明快な動きがとれないという話もありましたが、どうして市場から明快な評価が出て、その環境に対してアクションがとれないのか。
その1つは入学の在り方が関係しているのではないかと思います。近年、推薦入学という仕組みを各大学とも、特に幅広い産業人養成や総合的な教養教育の大学は推薦入学を強化してきたと思いますが、それを強化した大学は半数ぐらいが、高校の進路指導主事が高校生を振り分けているような、そういった入試が事実上行われています。高校と大学の依存関係で、市場からの評価が明確に出ない、そういうところもあると思います。私は、推薦も含めて、入学の在り方が、どういうスタイルがいいのかを、大学の機能をもう一度考える上で、就職、大学院進学も含めて、入学と卒業とトータルで再設計をすべきなのではないかと考えます。
有信睦弘委員(東京大学監事)
機能別分化という観点に対して、ここに1から7まで機能別分化の観点が挙げられていますが、ある意味でステークホルダーということの視点ではなく、極端なことを言うと、大学の勝手といった感じの振り分けになっていて、それを受ける側も、それ自身で自分たちのランキングがどうなるかを非常に気にするようになります。実際に就業構造が実は大きく変わってきています。120万人の18歳人口のうちの進学率50%ですから、理論的には、90万人は高校卒で就職していることになっていますが、実際に今の大企業の採用で、高校卒の採用はほとんどありません。つまり、ある程度の知識レベルを備えた人たちでなければ採用されない状況になってきています。
もう一方で、直接労働者の比率はどんどん減っていますから、ある種の特定の知識なりスキルを身につけていない限り、きちんとした就職ができないといった状況になっていますので、そういうことを踏まえて、大学の機能別分化をもう少しよく考える必要があります。
要は、進学率が高くなったということは、逆に言うと、そういう人たちが実際にある程度のスキルを持って社会で活躍する形にしていかなければ、日本の将来がますますおかしくなってしまうこともありますので、そういう観点で少し考える必要があるということだと思います。
黒田壽二委員(金沢工業大学学園長・総長)
機能別分化を進めていくことは、多様化の中で、自分の大学がどうしたら社会から受け入れられるかが根本にあるのですが、大学側の立場としてそういう考えを持っているわけです。その考える方向性を社会に示すために、情報の公開を強く言っていて、これは、ただ大学がたくさんあるので情報を公開しなさいと言うことではなく、自分の大学はこういう人材を養成するということを社会に示すために情報公開をするということです。そういう意味で、教育情報の公表が言われるようになってきていますが、果たしてこの情報公開の中身としてどうなのかと考えますと、表面的に、義務化されたから、こういう内容で出さざるを得ないという程度のことで各大学が対応したら、これは大きな誤りが起きてくると思います。大学機能そのものがなくなるくらいの恐ろしい変化が起きると思います。
大学間連携でも、強い大学が連携している教育研究分野の連携と、本当に困っている大学が連携している姿とがあり、この辺をどのように見ていくかが非常に重要だと思います。同じ「連携」という言葉を使いながら、片方の連携の仕方と片方の連携の仕方が違うということをどのように見ていくか。先ほど、本当に困っているところに光を当てて、再生できるようにしなければいけないという話もありましたが、やはり地方の大学は地方でそれぞれ苦しんで経営をしていますが、その地方の大学がその地域に必要かどうかが非常に問題になってきますので、必要かどうかは、そこにいる住民たちが大学は必要であると、それから、行政も必要である、その地域の経済界も必要であるということになって初めて、その地方での大学が成り立つわけです。地方の人すべてが大事と言われれば、何らかの改革の支援が起きてきます。やはり地方の大学は、地元から見捨てられれば、その大学の価値はなくなりますので、その辺をどのように調整していくか、それが現実として起きている大きな問題だと思います。
先ほど入試の話がありましたが、ほとんどが推薦で入ってしまうような状態になっている中での大学の在り方を踏まえ、ある程度の大学は国際競争力をつけていかなければいけませんが、そうでない大学もあるということは理解をしておく必要があると思います。その地域の中で生きる、そういう大学もあるということです。それを踏まえた上で、全体のことを行政としては考えていかなければいけない。そうしないと、ますます一極集中が進んでしまいます。
先ほど、枠を外すと外国へ行ってしまうということですが、今、日本で起きていることは、上位の人は全部東京へ集まってきているということです。東京の大学に入れれば、全部東京へ来てしまう、そういう状態になって、地方は疲弊しています。去年あたりから親の所得が下がったために、東京まで出せない家庭が増えてきているので、地方が少し歩留りがよくなっている状態なので、決して地方がよくなっているわけではありませんが、所得水準の問題でそういう状態が起きている中ですので、結論的には、ほうっておいたら全部東京へ集まってしまいます。それをどのようにして、満遍なく地域の活性化、日本の国全体を活性化するために、大学教育はどのように配置したらいいか。本来なら大学規模・大学経営部会で議論していただかなければいけないことで、量的規模や地域配置の問題です。そういうことも必要になってくると思いますが、多くのことを議論してここまで来たのですが、これを実際に各大学が実行するときのディテールをどうしていくか、その辺をもう少し詰めていかないと、これを実行に移すときには非常に困難を伴うだろうと思いますので、その辺の検討を今後よろしくお願いしたいと思います。