2013年1月20日日曜日

中身が伴ってこそ

IDE-現代の高等教育」(No.547 2013年1月号)から「取材ノート-大学の数」を抜粋してご紹介します。


田中眞紀子文部科学大臣(当時)が、来春に開学予定の3大学を「不認可」と言い出した騒動は、改めて約800に迫る日本の大学数の是非を問うことになった。大学関係者は大学の数は決して多くないというが、一般の見方はどうか。毎週月曜日の日経朝刊に掲載している「クイックサーベイ」というコラムで、大学数に関するインターネット調査(対象は1,000人)を行った。

今の大学数を「多い」と思う人は47.7%、「どちらかといえば多い」が33.1%と全体の8割が過剰感を抱いている。20代では「多い」、「どちらかと言えば多い」の合計が79%なのに対し、50代は86.6%、60代は89.0%と高齢者ほど見方は厳しい。学歴別では「4年制大卒」が84.5%と「高卒」の75.8%を大きく上回った。大学進学率に関しても、「低すぎる」は16.0%、「適正」が33.5%、「高すぎる」が22.6%、「どちらとも言えない・わからない」が27.9%で、これ以上の大学教育拡大には否定的な声が多い。

だからといって、「これ以上の新設は認めるべきではない」という強硬意見は7.2%に止まる。半数の人は「市場原理を徹底させ質の悪い大学を退場させるルール」を重視しており、これが満たされた上で「認可基準の厳格化」を求める人が34.8%、「認可基準は今のまま」が14.3%だった。新規参入を閉ざすよりもまずは不適格な既存大学を退場させよ、ということだ。

背景にあるのは大学の質に対する不信感だ。大学の質は10年前に比べ「悪くなった」と感じている人が28.9%、「どちらかと言えば悪くなった」が34.3%に達し、「良くなった」、「どちらかと言えば良くなった」は合わせても3.6%に過ぎない。これはあくまでも「感覚」であり、大学の実情を理解した上での回答でないことは留意するべきだが、これだけ大学が改革に取り組んできたにもかかわらず、社会にはそれをほとんど評価していない現実を、大学人は真摯に受け止める必要がある。

質が低下した原因(複数回答)では、「大学が増えすぎた」(65.5%)、「入試が簡単になった」(50.3%)、「相応しい知識・教養が教えられていない」(42.4%)が上位を占め、質を上げる方策(同)では「卒業条件の厳格化」(57.9%)が最多で、「新設条件の厳格化」(21.0%)や「入試を厳しく」(13.9%)を大きく上回った。

今後、大学を新設する際に最も適切な設置形態を聞いたところ、「国立中心」(24.4%)が「公立中心」(17.3%)、「私立中心」(13.6%)を上回ったのも興味深い。

文科省や大学関係者は、日本の大学進学率がOECD平均を下回る事や、高卒者の就職先が激減している現実を強調する。知識基盤社会と言われる21世紀を個人も国も生き抜くためには、高度な知識を身につけたイノベーティブな人材の育成が欠かせないともいう。全くその通りだと思うが、だからといって、そのことが「大学が増えて大卒者が増えれば高度な人材が増える」ことを意味する訳ではない。すべては中身が伴ってこそ、である。個々の学生の能力をきちんと伸ばす質の高い高等教育を提供しなければ、何の意味もない。一般の人は、その辺りのことをよくみている。(日本経済新聞社編集委員 横山晋一郎)