2013年2月23日土曜日

IRの生かし方(3)

前回に続き、名城大学難波輝吉さんが書かれた論考「大学の活動を可視化するためのIR機能」(大学・学校づくり研究 第2号 2010年3月19日発行)をご紹介します。


4 我が国におけるIR機能の発展と充実に向けて

最後に、これまでの過程で明らかになったことを総括し、IR機能の発展と充実に向けて必要な取り組みを示す。そして、今後、我が国においてIRを広く普及させる上での課題について考察する。

大学内に存在する様々なデータは、事務職員が作成・管理を行い、必要に応じて教員に提供していることが多い。このことは、教員が利活用すべきデータや情報が行き渡っていないことを示唆するものである。的確にデータや情報を流通させるためには、教育研究諸活動に関わる実践状況の共有を旨とした教職協働の推進が不可欠である。

また、教育・研究・経営の現状を把握するためのデータや情報は、意思決定における様々な場面を想定し、様々な要素を多面的に理解・判断する力が求められる。例えば、教育研究環境の充実のために教員数を増加させる場合には、ST比、教員の担当授業時間数、定員超過率、教員人件費単価、学生生徒等納付金の依存度などの情報を活用し、経営上の視点から人件費の在り方を検討しなければならない。それらの要因を統合した指標が、教育の側面と経営の側面の分析情報を創出することに繋がるということから、データや情報を意味あるものとするための企画・開発力はIR活動において重要な意味を持つ。また、それらのデータや情報の妥当性についてもその有効性を見極める力が必要である。この力は、データの背景も含めた様々な学内外の動きをモニタリングすることが必要なので、前出のとおり、教職協働の体制により、それぞれに持つ有益な情報を共有することが求められる。

IRは直接的な意思決定を担うのではなく、意思決定者が認知しておくべき重要な情報を提供する役割を担うものである。IRはこれに応えるため、学内に存在する様々なデータの量と質を理解し、必要に応じて加工・分析を行うのであるが、意思決定者の意図に対して迅速に報告することが求められる。これを実質化するためには、意思決定者が、IRの活動に関心を持ち、活動内容に対して理解を示すことが必要である。意思決定は、よき計画を意図するだけではなく、よき行動として実行に移し、ヒト、モノ、カネという資源を投入して、戦略を実現するという行為である。その行為に迅速に対応するためには、意思決定者とのコミュニケーションの機会を大切にし、データやレポートに対する信頼度を向上させていくことが重要である。

2004年度にスタートした認証評価の第1サイクル(最初の7年間)を終えようとしている現在、2011年度以降の第2サイクルでは、各大学の質を保証するシステムが機能していることが重視される方向にある。我が国においては、IRは黎明期であり、IRの意義と機能を明確にし、多様な設置形態をもつ我が国の高等教育の文化に即したIRの在り方とはどのようなものかを検討する段階である。我が国の大学にIRを普及するためには、「敷居の高くないIR」であることが不可欠であると考える。

本稿では十分に取り組むことができなかった課題も残されている。その第一は、我が国の大学におけるIRの現状把握である。少なくとも名古屋大学と九州大学については、法人化前からIR組織が構築されていたのであるから、法人化前と法人化後のIR組織の役割、責任、位置づけ等の変化を明らかにする必要がある。

第二に、諸外国では、トップダウン型のマネジメントも多用されているが、我が国の場合は、部局(学部・研究科等)の決定権、合意形成が優先される傾向にある。したがって、我が国にIRを根付かせるためには、IRの文化的背景を踏まえた上で、いかに日本流にアレンジするかという視点からの検討も必要である。

第三に、これからの我が国におけるIRの発展過程において、その活動を担う者は専門職人材であるべきか否かという点について、より深く検討することも今後の課題である。(おわり)


参考文献