「介護の人出不足 魅力ある仕事にしよう」(2014年06月01日毎日新聞社説)をご紹介します。
飲食業や建設業を中心に人手不足が目立っているが、とりわけ深刻なのが介護や保育だ。非正規雇用の人を正社員にして労働力の確保を図る会社が増え、賃金アップの波が広がっていることは歓迎したいが、もともと賃金の低い介護や保育にとっては格差がさらに広がり、人手不足に追い打ちをかけているのだ。
安倍政権は女性の活用を打ち出している。社会で働く女性が増えると家庭内で担ってきた介護や保育を代替するサービスはますます必要になる。人口の多い団塊世代が本格的に介護を必要とする時期も迫っており、介護や保育の人材確保は火急の課題なのである。
今国会では議員立法で「介護・障害福祉従事者の人材確保特措法案」が提出され、全額国庫負担で平均1人月約1万円の賃上げを図ることになっている。介護など福祉現場で働く人の賃金の原資は介護保険や税金であり、賃上げは国民負担が増すということでもある。公費だけでなく、介護施設などを経営する社会福祉法人の自助努力も求めなくてはなるまい。小さなNPOや株式会社は同じ内容の福祉事業をしても税金が掛かるが、社会福祉法人は非課税で各種助成金でも優遇されている。多額の内部留保がある法人はもっと職員の賃上げに回すべきだ。
高齢者や障害者の施設では、認知症や行動障害の人の利用を断り、精神科病院へ安易に回すことがよくある。働く職員の賃上げとともに専門性も高め、支援の難しい利用者に対しても生活の質を高められるサービスを提供できるようにしてほしい。そうでなければ利用者や一般国民は納得できないだろう。
介護現場の仕事といっても車両による送迎や清掃、洗濯など比較的単純な作業から、支援計画の作成や2次障害の改善など高い専門性を要する仕事まである。一律の賃上げよりも、業務の難易度やスキルの高さを賃上げに反映させることも考慮に値する。終身雇用よりも、資格や実績に合った職場へ転職することが比較的一般化している業種でもある。個々の職員のやる気を高める賃金体系を目指すべきである。
やりがいは金銭だけではない。士気が低く劣悪な介護がまかり通っている施設では、職員は定着しない。介護や保育は本来、クリエーティブ(創造的)な仕事だ。最近は大企業や国家公務員より福祉の仕事を目指す大学生も珍しくなくなった。リーダーが高い理念を掲げて優れた実践をしている組織で目立つ。賃金を上げても魅力のない職場には人材は集まらない。職員が専門性を磨き、良い支援を実践し、やりがいを感じられる職場にしてほしい。