「「会計」を教育活動と経営の高度化に結びつける」(リクルートカレッジマネジメント190/Jan.-Feb.2015)を抜粋してご紹介します。
学校法人会計基準の改正を「会計」理解の好機に
国立大学についても、優れた取り組みを行う大学を重点支援する一方で、何もしない又はあまり優れていない取り組みを行う大学に対しては、教育研究組織の合理化・再編、他大学との再編統合等を通じた機能強化を促すとの運営費交付金の改革案が財務省より示され、国立大学関係者の間で大きな波紋を呼んでいる。地方財政の状況を考えると公立大学の状況も同様に厳しさを増しつつあるものと思われる。
一方で、大学には、教育の質保証、研究の高度化、社会・地域貢献、グローバル化といった課題への取り組みを加速し、その成果を広く社会に示すことが強く求められている。これらは個々の大学の持続可能性を高めるためにも必須な事柄であるが、これまで以上に多くの労力や経費を要することになる。とりわけ、教育の質保証については、新たな教育方法の導入、少人数教育、きめ細やかな学生支援など費用増に繋がる施策が多い。
質の高い教育活動(以下「教育活動」という場合、研究を含む教学全般の活動を指す)を持続的に展開するためには、安定した財政基盤が不可欠である。そのためにも、自校の財政状況を経理・財務担当の理事や職員のみならず、大学全体で広く共有する必要がある。
私立大学にとって学校法人会計基準の改正はその好機でもある。国公立大学においても、現下の情勢を考えると、広く役員・教職員が「会計」を通して、教育活動の基盤となる財政状況に対する理解を深める必要がある。
「会計」の理解なしに真の経営はあり得ない
そのような中で、法人化に伴い、国立大学法人や公立大学法人の会計に複式簿記が導入されたが、その意味や仕組みが役員・教職員にどれだけ理解され、法人経営に活かされているか疑問である。年度実績報告書に記載されている業務改善や財務改善に係る個々の施策が財務諸表にどう結びついているか不明なことが多い。
前述の通り、会計の目的や仕組みは法人の性格によって異なるが、会計を理解することは、経営の成り立ちを理解することであり、利害関係者に知らせるべき情報とその意味を理解することである。従って、会計の理解なしに真の経営はあり得ない。
「会計」を戦略的に活用し大学経営改革を加速
目まぐるしく変化する企業の経営環境と違い、「18歳人口減少に象徴される大学の外部環境変化は緩やかであり見通しも利く」(松本社長)。そのことが、環境変化への感度を鈍らせ、決断のタイミングを見極めにくくする。また、企業活動はその全てが最終的に決算数字に結びつくのに対して、大学の教育活動の成果は貨幣額で表せず、その活動を支える経営の状況を財務諸表で表しているに過ぎない。大学で「会計」への関心が広がらず、理解が深まらない理由もこれらの点にあると思われる。
しかしながら、18歳人口と進学率に依存する限り、需要は着実に縮小し、一方で社会的要請や競争激化により教育活動のための支出は増加を余儀なくされる。会計情報の開示や説明も一層の充実が求められるだろう。そのことに受け身で対応するのではなく、「会計」を戦略的に活用し、大学経営改革を加速させるという積極的な姿勢が不可欠である。
そのためにはまず、複式簿記と会計基準を理解し、会計処理や財務諸表作成等の実務を正確かつ効率的に行い、財務分析を通して課題や解決方法を提案し得る大学会計のプロを育てていかなければならない。
また、会計の仕組みと考え方、財務面から見た自校の経営状況と全国的な動向などを役員・教職員が理解できるように、簡潔で分かりやすい資料の配付や説明機会の設定など地道な取り組みを継続することも大切である。特に、役員・職員に対する研修は不可欠である。
理事会・役員会等での決算報告において、当該年度のみならず過去からの長期推移(例えば10年程度)を示すとともに、全国的な動向やベンチマーク校との比較を加えるなど、変化を的確に捉え、経営状況を多面的に評価し得るよう工夫を施し、このような見方を定着させることも重要である。
さらに、10年から20年程度先を見通す長期シミュレーションを行い、今のまま推移した場合、いつ頃にどのような状況が生じるかを描き出してみる必要がある。危機感を煽るだけでは具体的なアクションに結びつかない。将来起こり得る事態をリアルな形で理解することで、早い時点から計画的に対策を講じることができる。
最後に、大学に相応しい管理会計の構築とコスト意識の醸成について考えてみたい。教育活動の現場がコスト管理で縛られてはいけないが、教育研究経費の増加が財政状況の悪化につながりつつある状況は見てきた通りである。
これまで「大学のコスト」という場合、誰が負担するかに関心が注がれてきたが、大学自身が教育活動コストの適正な水準を考え、それに近づけるべく種々の工夫を行っていくことが重要になってきている。財務会計の枠組みだけでは、そのことに対応できず、IR(Institutional Research)と結びついた管理会計の構築が必要なのではないかと考えている。