共働きの両親は、私の寂しさを紛らわせようと、望む物は何でも買ってくれ、何をしても叱ることはありませんでした。
しかし、独りぼっちのつらさはつのるばかり。
「どうして私だけがこんな目に遭うの、なぜ私を産んだの」
何度も、母の胸をたたいたものです。
循環器系が悪い母は、美容師の仕事の合間に病院へ通っていました。
苦しい時も、私の前ではいつもほほえみ、
「我慢して頑張れば、必ずいいことがあるから」
と励ましてくれるのですが、私は落ち込む一方でした。
ある時、いつものように遅い両親の帰りを待ちながら、
「このまま死んでしまいたい」
と叫ぶと、側にいた祖母が、たまりかねて言ったのです。
「お母さんがどんな思いで、産んでくれたと思っているの?
お母さんはね、おまえを身ごもった時、お医者さんから、
『この子を産んだら、あなたは100パーセント死にます。いいのですか。まだ遅くはありません』
と言われ続けていたんだよ。
それでも最後まで、
『死んでもいいから産みます』
と言って産んでくれたんだよ」
大変なショックでした。
その夜、母に尋ねました。
「どうして今まで言ってくれなかったの」
相変わらず母はほほえんで、
「今、尚子が元気なら関係ないことだからよ。
尚子もお母さんになれば分かるよ」
と言うばかり。
一体どんな思いで出産に踏み切ってくれたのか。
生まれてくる私の命に人生のすべてを賭けてくれた母。
そう知らされた時、胸が詰まり、かけがえのない命をなんと粗末にしていたのかと、
反省せずにおられませんでした。
母の愛|今日の言葉 から