今日は、まず、国立大学財務・経営センターが発行しているメルマガ(2008.5.15 No24)から、センターが2月に開催した講演会に招へいした、英国シェフィールド大学のクレア・ベインズ学務部長が書かれた「大学経営のプロへの途」というエッセイの中から、クレア氏が、経営に参画する事務局職員として心がけてこられたことについて抜粋してご紹介します。
メルマガでは、エッセイの紹介に当たって、次のようなセンターのコメントが掲載されています。
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英国大学の事務局職員については、高等教育界全体で労働市場が成立しており、比較的移動も容易なようです。このこととも関連があるのでしょうが、事務局職員を構成員とする職能団体が情報・意見交換や研修事業などを通じて資質・能力の向上に努める体制ができあがっているのだそうです。
我が国の場合には、大学間の移動は一部の者を除いて容易ではありませんが、国立大学の事務局職員の資質・能力の向上は急務となっています。事務局職員間のネットワーク作りや研修事業がもっと活発に行われる必要があるのではないでしょうか。
エッセイにも随所に出てきますが、大学という職場が抱える共通の課題の一つは、事務局職員と教員の間のコミュニケーション・ギャップの克服でしょう。学問の世界を理解しようとする姿勢が事務局職員に求められます。エッセイでは、教員や学生のことを理解するために、本部事務だけでなく、学部事務を経験することの大切さが強調されています。
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大学経営のプロヘの途
シェフィールド大学学務部長 Dr Claire Baines(クレア・ベインズ)の場合
最後に、経営に参画する事務局職員として私が心がけてきたことなどをまとめておきます。
- 盲目的に言われたことだけやっているのではなく、経営幹部や学部教員などと交流して、積極的に自分の考えや企画を実現してみようと努力することが大切です。こうした経験を経て、交渉能力を高めることもできるわけですし、自信を持って変革を主導していくこともできるようになると思います。
- 大学行政においてもっとも役にたつのは、教員の意見を聞く耳を持ち、官僚的な手続きを導入することについて教員がどんな反応をするか理解しようとする事務職員です。私自身経験しましたが、教員というのは思ってもみないような反応をすることもありますし、予想外の意見をもっていることもありますが、そうした意見を踏まえて事業の進め方を大きく変更したことがあります。
- 次に、批判的な友人たれということです。ただし、そのためには、コミュニケーションに長けて社交術を心得ていなければなりません。私が現在一緒に働いている学部長たちは、自分たちの考えを専門的な立場からチェックしてくれる有能な事務職員を評価してくれます。事務職員が正直に忠告をしてくれることに意義があると思ってくれているのです。ただし、特に研究重視型の大学では、注意深く事前に専門のことも勉強して事実確認をし、よく考えて発言することが必要です。
- 常に、自分の考えを主張するためのしっかりした論拠・データを用意しておくことが必要です。教員は、批判的にものごとを考えるのに長けた人たちなのですから、様々な情報を集めしっかり準備して、わかりやすく説明することが必要です。
- 事務局職員として、大学本部での経験とともに、学部での経験をバランスよく積むべきです。学部で働いて初めて教員や学生のことを理解できると思います。
- 積極的に国内、国外の情報を収集しておくことです。教員たちよりも一歩だけでも先んじていることが必要です。教員たちの目として、耳として情報.提供を行い、教員が貴重な機会を逃がさないようサポートするのです。
- 仲間といえるような教員のネットワークをつくるのです。変革を導入したり、企画したりするのに貴重な情報源になってくれる上、いざというときにはサポートしてくれますし、貴重な助言をしてくれます。
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次に、前東京大学理事の上杉道世氏が、文部科学教育通信に寄稿された「大学職員を変える」というシリーズの最終回に掲載された「経営企画系職員のあり方の改善について」(2008.5.12 No195)をご紹介します。
経営企画系職員のあり方
現に経営企画系職員という集団があるわけではない。今はいないけれど、これからの大学経営には必要な職員なのだから、計画的に養成しようと言っているのである。
本部では学長及び役員などの中枢組織と一体となり、部局では部局長を中心とした部局運営組織と一体になり、経営判断をしていくためのデータを収集分析し、企画の原案を作成し、方針決定されたものは実施のための段取りを考え働きかけをしていく。長期的な将来構想を持ちながら、緊急事態にはスピード感を持って対処し、学外学内への漏れの無い目配りをする。そういう便利な職員がいればいいのにとしばしば言われるのだから、養成しよう。
現状では、総務、財務などの幹部や有能な職員が事実上これに当たる仕事をしているのだが、不十分である。全学の経営企画に熟達した人が突然現れるわけではないので、さまざまな業務分野で優秀である人に経営企画の仕事を経験させながら育てていくことになる。
逆に、企画部門にずっといれば企画に熟達するかというとそうでもない。現場感覚の無い企画は現実に通用しないので、さまざまな経験を積んだ人が企画に携わるべきである。
東京大学では、総長室に秘書グループと企画グループを置くとともに、各部の若手メンバーを選んでマネージメントスタッフとして位置づけていろいろな企画業務をしてもらった。全学の動向を把握するための経営情報資料を月例でまとめてもらい、役員会で定期報告した。そして各部局長にも、有能な職員を見いだして企画担当として部局長の身近で活動させ、部局の経営に参画させることをお勧めした。
これらの試みはまだ初歩的なものではあるが、特に若い職員に、個別の業務といえども全学の経営に結びついているのだ、そしてチャンスと実力があれば全学の経営に参画できるのだという問題意識を持ってもらうきっかけになればと思っている。
そして、部長課長、事務長などの重要な役職は経営企画の能力と経験があることを前提として人選することになっていくであろう。組織のフラット化や実力本意の人事により、若いうちから責任ある判断をする経験を積んでいけば、経営企画を担う幹部は育っていくと考える。
大学職員の共同性の形成
ここまで8回にわたって業務分野別の職員の育成のあり方について、特に専門性に着目しながら述べてきた。すべての大学職員が広い視野とともに何らかの専門性を持ち、その専門性を高める方向でキャリア形成し、マネジメントで処遇される道と専門性で処遇される道を選べる、というのが基本コンセプトである。そしてそれぞれの専門性の内容と学内組織の構造と職員のキャリア形成をパッケージで専門職の形成として提示した。
ここで留意していただきたいのは、専門職といってもこれまでの日本の社会や組織でありがちな、それぞれが閉鎖的な集団を作り、階層構造を前提としてどちらが偉いかを競ったり、処遇改善運動に走ったりするという意味での専門職ではないことである。
あくまで大学職員という共通の基盤が前提である。それぞれが補い合い支えあって大学業務を支えていくという連帯構造の中での特徴の発揮である。したがって、特定の人がどの系かというのが一生ついて回るわけではなく、時には系を移ったり、2つ以上の系を持ったりすることもあるだろう。特に小規模の部局では系ごとの人数は少なく、現実の仕事を回していくためには誰がどの系だなどと言っていられないであろう。それでよいのであって、大事なのは大学職員の共同性が形成されることである。
さらに、ひとつの大学の中で完結する必要も無い。大学を超え、国公私立の別も超えて互いに高めあっていけばよい。同じ業務分野について、専門性の内実をより深く極めたり、能力開発を共同で行ったり、さらには人事交流で経験を交換しあってもよい。特に専門性の内容や習得方法などをまとめた資料が必要である。私は東京大学において全職種を概説した「大学職員キャリアガイド」を作成してもらい、業務分野ごとの資料は次のステップでと言ってきたが、本当は大学を超えた専門職集団によってそのような資料がいずれまとめられるとよいと考えている。
そして大学職員全体としても共同性を形成していくべきである。法人化したといっても各大学が壁を作りあうべきではない。連携交流することが大学職員全体の力量を高め、社会的評価を高めることにつながるのだ。文部科学省や大学団体が企画してできるだけ多くの交流の機会を設けて欲しいし、大学主導の自主的な集まりもあっていいだろう。人事交流についてもブロックごとに各大学が話し合い合意形成しながら行っていくという方式もありうるだろう。勉強の機会も多く持ちたい。すでに大学マネジメント研究会や大学行政管理学会、筑波大学のセミナーなどの機会があるが、全国の大学職員の学習需要はまだまだ多くあるはずだ。最近では若手職員の自主的な集まりがいくつも見られるようになり、今後の展開が楽しみである。各地で自主的な動きが次々と出てくることを期待したい。