前回に続き「国立大学法人における外部人材の活用方策に関する調査研究報告書」をご紹介します。
このたび公表された報告書は、昨年度に続く「第2弾」としてまとめられたもののようですが、昨年度のものとは構成が異なり、ほとんどの紙面が、全国の有識者を集め開催した複数回の座談会の模様で占められています。
今後座談会を通じて明らかになった課題や問題点のポイントを整理しお伝えしていきたいと思っていますが、今日は、この報告書の「まえがき」に当たる部分についてご紹介したいと思います。
特に後半の「外部人材を活用するために必要な10の提言」は、現在の国立大学の実態が正確に把握されており、また今後の大学経営に役立つ大変示唆に富む内容になっているのではないかと思います。
なお、この報告書については、去る9月1日(月曜日)に国立大学マネジメント研究会の主催により、「法人化後の国立大学運営における外部人材活用方策」シンポジウムが開催されているようです。
詳細はこちら→http://tanalog.com/anum/2008/09/09/1220941344355.html
1 本調査研究の趣旨と目的
本調査研究は、2006年度に(財)文教協会の助成を受けて行った調査研究の継続・2年目であり、2006年10~11月に全国立大学長及び経営協議会の学外委員、学外理事、監事、学外から登用された経営スタッフ全員に対して行った「外部人材」の活用実態に関するアンケート調査及び「外部人材」による座談会を通じて明らかになった「外部人材」活用上の課題を踏まえ、これらの課題を解決し、「外部人材」の経験と知識、能力を生かし、透明性が高く、社会的説明責任を十分に果たしうる国立大学運営の実現という国立大学法人化の趣旨を体現するために何が必要かを明らかにすることを目的としている。
すなわち、2006年度のアンケート結果を見る限り、国立大学側は、経営協議会学外委員、学外理事、監事、学外登用の経営スタッフを活用できているとする回答がいずれのカテゴリーの「外部人材」についても9割以上を占めているが、一方「外部人材」による回答を見ると、経営協議会の学外委員は、「経営協議会の意見を踏まえた大学運営を行っていると思いますか」の問いに対して、「そう思う・どちらかと言うとそう思う」が9割強であるが、監事に「現在の仕事に対する満足度」を聞いたところ、「満足・やや満足」は7割弱と大学側の回答を下回っている。
また、経営協議会学外委員や監事、経営スタッフによる自由記述意見を見ると、「外部人材」の行った提案や意見具申が大学内で必ずしも十分に具体化されていない現状が浮かび上がってくる。その背景として教職員の意識改革の遅れや、教授会が実質的に経営に関しても拒否権を持つといった大学ガバナンスに関わる問題点、監事の任命時期と財務監査のサイクルの齟齬といった法人化のスキームそのものに関する問題点も明らかになっている。同時に、彼らがそれぞれの職掌から見た法人化後の国立大学運営に関わる課題も見えてくる。「事務職員・事務組織のあり方」「学長のリーダーシップの不足」「業務の非効率」「意思決定システム」などが、それらの例である。今回のアンケート調査が、原則として「記名式」で行われたにもかかわらず、このような批判や不満が具体的に示されたことの意味は決して小さくない。
本年度の調査研究では、第1年度の成果を踏まえて、法人化の成否を占う「鍵」の一つとも言うべき「外部人材」から、直接法人化後の国立大学における自らの役割と具体的な業務の内容、業務を行う上での課題や問題点、「外部人材」の経験と知識、能力をよりよく生かすのに必要と考えることを、座談会形式のヒアリングを通じて明らかにすることを目的としている。と同時に、外部人材の知見、意見を具体的な提案の形に集約し、国立大学の学長、理事、事務局長などの経営スタッフ、一般教職員、文部科学省、財務省、総務省、内閣府など政府の国立大学政策担当者、さらに国会議員、政党の政策スタッフ、メディア関係者、一般市民の方々に幅広く情報発信することにより、国立大学改革の一助になることを目的としている。
2 外部人材を活用するために必要な10の提言
(1)学外委員の意見、指摘に責任を持って答える
委員の指摘、質問や提案に対し、「聞き流し」にせず、大学全体として真摯に対応する。指摘や質問に対しては、具体的な数字・データや事実を示して答える。その場での回答が難しい場合は、次回の会議で回答する。学外委員の具体的な提案に対して、「できない」「実現困難」な場合は、その理由をきちんと説明する。この場合、「学内の合意が得られないから」「教授会が反対するから」「事務局が動いてくれないから」といった、学長のリーダーシップで解決できる類の理由は理由にならないことを前提とする。
(2)ポイント・ペーパー(仮称)の事前配布による審議の実質化
議題と関連資料を、少なくとも会議の1週間前には委員の手元に届くように配布する。議題のうち、審議事項については、審議のポイントを要約した上で、経営協議会として何をどのように決めて欲しいのか端的に説明した「ポイント・ペーパー」(仮称)を作成・配布する。会議では、事務局による説明は必要最低限(例えば、全体会議時間の4分の1まで)とし、実質的な審議が行えるよう議長は努める。
(3)大学を理解するための集中レビュー(仮称)の実施
学外委員に対し、就任当初に、大学の全体像(現状と課題)を理解、把握してもらうための簡潔な資料を作成し、配布・説明するとともに、例えば1泊2日の「集中レビュー」(仮称)を設定し、学部長、研究所長、病院長など現場責任者との懇談会、現場見学会を実施する。
(4)学外理事の常勤化と民間出身理事の増員
2007年4月1日現在で、学外出身理事は、87大学132名を数えるが、このうち常勤理事は73名と56%に過ぎず、残り59名は非常勤となっている。しかも、常勤理事のうち58名(約8割)は文部科学省出身者であり、民間企業など「純粋に」学外から常勤理事に登用された者は15名に過ぎない。
また、非常勤理事のうち10名は、担当すら決められていない。大学運営に「学外者」の視点を入れ、民間企業的な経営手法を導入し、経営の効率化を図るという法人化の趣旨を踏まえ、学内登用理事の数を抑制し、民間企業など広く学外の経験者、有識者を常勤理事として登用すること。
(5)文部科学省による監事研修の実施
任命時に、任命権者である文部科学大臣から、監事の職掌と権限、責任について、さらにはこれまでの監事業務の実態や法人化後の国立大学の運営上の課題などを踏まえて、監事業務のポイントについて、2~3日程度の説明会ないし研修会を実施する。
(6)監事に対する当該国立大学の現状と課題の説明、現場視察の実施
現状では、法令上は文部科学大臣が任命することになっている監事は、実際には当該国立大学の学長の推薦に基づき、文部科学大臣が任命するという慣行が定着しつつある。したがって、各学長は、監事選定・就任依頼に当たっては、当該大学の現状と課題について十分説明を行うとともに、着任後速やかに、各部局長との意見交換や現場視察の便宜を積極的に図る。なお、監事のうち少なくとも1名は常勤とする。
(7)監事監査結果に対する真摯な対応と学長のリーダーシップ
各学長は、監事の役割・意義について、教職員に十分周知・説明するとともに、監事監査の結果、意見について、「直ちに実施する事項」「実施に向けて検討する事項」「実施が難しい、または実施できない事項」に分けて真摯かつ速やかに説明責任を果たし、対応する。
(8)外部登用部課長に対する具体的目標設定
その人の持つ専門知識、経験に着目し、学外から経営スタッフや事務局部課長などとして登用する場合、彼らを最大限活用するために、それぞれの業務目標を可能な限り明確にし、必要な権限、予算、組織を与え、そのことを学内の各組織、教職員に周知徹底する。
(9)大学ビジョンと改革課題の「可視化」、「事実とデータ」に基づく議論
外部人材が、その知見、専門知識、経験を大学運営、大学改革に活かそうとする場合、多くの場合ぶつかるのが、「部局自治」「教授会自治」の壁と「教職員の意識改革の遅れ」、そして「事務組織の非効率性と保守性」である。各学長は、大学運営のビジョンを明確にした上で、大学の現状と課題を、可能な限り事実とデータを収集、分析することによって「可視化」し、これら3つの壁を乗り越える意図的な努力を行う必要がある。教授会を説得し、事務組織を動かすには、具体的な「事実とデータ」とこれらから必然的に生み出される大学のおかれた客観的な教学上・財政上の状況分析であり、そこから導かれる政策選択肢しかない。
(10)具体的目標・課題設定による文部科学省派遣幹部人材の活用
いわば「広義の外部人材」として、数多くの理事、事務局長、部課長を国立大学に送る文部科学省は、法人化後の国立大学の現状と課題、それらの解決に必要な知見について、それぞれの専門分野ごとに事前に十分理解させる。各国立大学も、文部科学省に理事など幹部職員の派遣を依頼する場合は、それぞれのポストごとの業務目標、任期などについて明確にした上で行う。例えば、事務局長には「事務改革・事務組織改革により4年間で最低30%の効率化を実現し、職員数の15%を削減する」、入試課長には「戦略的な広報活動の展開により、4年間で受験者数の数を最低30%増、合格者の偏差値最低5アップを実現する」、留学生課長は「奨学金の充実、学生交流協定の締結などにより、4年間で派遣・受け入れ留学生数を最低30%増を実現する」といった条件を具体的に示した上で採否を決定する。