簡単に申し上げれば、「外部人材を活用するために何が必要か」が基本テーマとなっているようですが、今日は、この第2弾のご紹介をする前に、その前提となった「第1弾」(昨年度公表)の主な内容をご紹介したいと思います。
上記プロジェクトが行った調査研究の目的・趣旨は次のようなものです。
- 様々な形で大学外の人材を大学運営に制度的に関わらせることによって、効率的で効果的であると同時に、社会に開かれた大学運営を実現することが国立大学の法人化の重要な目的の一つ。
- 法律上必置の外部人材(「経営協議会の学外委員」、「学外理事」、「文部科学大臣が任命する監事」)には、それぞれの専門性、知見、経験を発揮して、大学の様々な業務に関し審議、執行、事後チエックという形で大学運営に関与することが期待されている。
- 本調査研究では、上記外部人材に、副理事、学長補佐など「学長や理事を補佐して大学運営に関する企画・立案、執行に当たる経営スタッフ」、各分野の専門知識・経験・人脈などを評価されて「事務部門に登用されている外部専門家」を加え、国立大学の在り方に関する意見などを聴取。
- その上で、国立大学における外部人材登用実態を明らかにするとともに、国立大学側が外部人材を活用できているかどうかについてどのような評価を行っているか、逆に国立大学に登用された外部人材の側が、それぞれの役割を果たす中で法人化の狙いと対比して国立大学をどのように評価しているか、とりわけ課題が何であると考えているかを明らかにする。
プロジェクトがまとめた調査研究報告書では、法人化の意義やその後の問題点が浮き彫りにされています。
その一例として、「外部人材から見た事務職員の課題」についてご紹介します。
この調査研究では、学外理事、監事、経営スタッフなど、法人化以降可能となった外部人材として登用された多くの方々にアンケートが行われています。その中に「現在の仕事に関する満足度」を問う項目があります。
アンケートの結果は、
- 学外理事(満足77.8%、不満22.2%)
- 監事(満足67.5% 不満32.5%)
- 経営スタッフ(満足58.8% 不満41.2%)
しかしながら、注意しなければならないのは、経営の現場に近くなるほど不満のウエイトが高くなっているということです。つまり事務職員との距離が近い方ほど問題意識を持っているということが数字に如実に表れているということです。
では次に「不満の理由」すなわち「国立大学の問題点・課題」を伺ってみると、
・事務職員の意識改革の遅れ、不十分さ
・事務組織の硬直性、非効率性
・業務の非効率
・事務職員の姿勢、能力
・事務職員の人事評価の不備
といった「事務職員の意欲、姿勢、知識、能力の問題」を多くの方が指摘されています。いわゆる民間企業などを経験された方々にとって、公務員出身の国立大学事務職員は、いろんな面でまだまだ「甘い」ということなのでしょう。
「外部人材から見た事務職員の課題」として具体的には、次のようなご意見が寄せられています。私の独断でいくつかのテーマ別に整理してみました。
1 事務組織・運営
- 事務機構の一層の効率化・合理化を図ることが必要
- 理事に直結した事務組織体制をとっているが、利点もあるが理事間及び事務組織間の連携が十分取れていない面もあり、改善が必要
- 事務組織に関しては、前例や従来から決まっている手続きを重視する風土があり、業務をより効率的・効果的に進めるためにも人事部門や経理部門の改善が必要
- 事務組織が硬直(業務量、内容に見合った人材配置ができていない。)
- 大学運営について、もっとフラットな組織、単純な意思決定システムが必要
- 問題解決に時間がかかりすぎる。検討プロセスや意思決定プロセスの簡素化・明確化が必要。また、管理職の成果責任を明確にすることも重要
- 会議が開かれても、実施に即つながらない。事務組織がリーダーシップを発揮し、企画を任され、教員を動かすことのできる体制になっていない。常に、教員が協議し、判断は教員に任されるが、実施につながりにくい。
- 事務組織が少人数の係に分かれすぎており助け合う気持ちが少ない。
- 委員会が多く職員は手間がかかっている。
- 意思決定のスピードが遅い。
2 業務改革
- 事務職員の人件費には民間としてはびっくり。事務能力のレベルも高くはない。事務部門の効率化が早急な課題。他大学との事務部門の統合とか、シェアードサービ-ス等を早く考える必要
- 事務処理過程のより一層の効率化・合理化を図る必要
- 効率のよい事務処理がもっと必要
- あらゆる面でスピードが非常に遅い。
- 責任の所在が曖昧
- 情報の共有が不十分で特定の人に偏っている。
- 業務改善意欲が乏しい。
- 部局事務の処理方法の統一化などによる運営効率化が必要
- 行政事務的・管理業務体制から、業務中心・現場に責任を持たせる業務体制に変えるべき
- 業務運営の改善及び効率化とともに、思い切った見直しによる事務職員の大幅な削減が必要
- 仕事、業務に生産性の概念がない。
3 意識改革
- 全学一丸となって改革に取り組むという職員の意識が低い。
- 法人化しても、役所・役人・親方日の丸の意識が抜けていない。改革しようとしている学長の意向が、教授から受付職員にまで全体に及んでいない。全体として相変わらず役人である。
- 教職員の意識が以前とあまり変わっていない。事務職員は新しい役割・仕事に積極的に取り組もうとしない。
- 法人に転換した意識を教職員が強く持つ必要
- 事務改革・組織改革においては、抜本的な意識改革による大幅な削減がもっとできるはず。
- 何よりも職員の意識改革。これに尽きる。
- 将来に対しての教職員の危機意識が薄い。
- 事務部門における、いわゆる「お役所仕事」からの脱皮が必要
- 事務幹部の責任感不足。異動官職制は即刻廃止すべき。
- 職員の自分の立場に対する認識が欠如
- 目的は何かという発想を身につけていない。そのように育てられていない。
- 教職員の中に危機感が希薄な者、自己本位の者がおり、一層の意識改革への取り組みが必要
- 教職員の意識改革が不十分
- 法人化した意識が教職員にない。
- 旧態依然の考え方で物事を進めようとしている。
- 地域性のためか、構成員が時代の流れを認識していない。
- 経営責任があることをもっと認識すべき。
- 国の機関であった時の慣習を切り捨てられないため、法人化したメリット面を十分活用できていない。
- 教職員の意識改革を末端にまで徹底することが必要
- 教職員に、法人化に伴い求められる自立意識がまだ芽生えていない。
- 法人になって3年あまりになっても、まだ教員・事務職員の意識改革が不十分
- 事務長の事務職員に対する権威・権限が強く、事務サイドが萎縮している。
- 教職員の法人経営に対する意識改革が遅々として進まない。
- 組織としての意思決定のプロセスに時間の概念が欠如している。また、組織としての意思決定があっても、不満であれば実行しない(従わない)ことが許される雰囲気がある。権限、リーダーシップ、予算などを駆使して、このような意識改革を早急に進めることが必要
- 長い国立大学時代の仕事の進め方が身にしみついている。
- 職員は未だ国家公務員意識を持ち、大過なく働くことを第一とする傾向大。愛校心よりも文科省が絶対になっている(経営の意味を解せず)。
- 中期計画及び年度計画を本気で遂行しようとする教職員はごく一部
- 教職員の中には、意識改革が遅れている者が多い。
- 長期的に物事を考えるのが不得手
- 危機意識が少ないためにリスク感度が甘い。
- 経済合理性で物事を判断する習慣がない。
- 勤務時間に対するメリハリに乏しい。
- 教員、管理職(課長、課長補佐等)の態度が保守的であり、現状を変えることに絶えず抵抗がある。多くの意思決定がなされるが、これを実行する段になると腰砕けになる。
- 教職員ともに、公務員感覚から抜けきっていないところがあり、法人の経営という意味での意識が十分ではない。意識改革のために教育・訓練、経営に適した人材の育成・登用、経営に向けての教員・職員の一体感・チーム意識の醸成・高揚に一層の努力が必要
- 法人化の目的が学長や一部の教職員を除いて、ほとんどの教職員に理解されていない。
- 一般教員や事務職員にはなお、意識等の不足が散見される。
- 様々な問題を抱えているにもかかわらず、全般に危機意識は必ずしも高くなく、民間から積極的に学ぼう、外の意見を積極的に取り入れていこうとする意欲も高くない。特にそれが最も必要な事務局において甚だしい。
- 日々の業務執行に当たって目標達成意識を持っていない。
- 教員・職員の意識改革が不十分。そのための体制作りがなされていない。
- 国立大学法人のスタッフに進取の気概が欠けている。
- 「忙しい」が口実になり、合理化・効率化が進んでいない。
- 職員のスピード感が遅く、その際、ネックになっているのが教職員に公務員意識が抜け切れない点にある。
- 目標達成に向けた戦略や戦術が不足。教員・職員の意識が低い。
- 教職員には公務員体質や事なかれ主義等組織の活性化を阻害する体質が醸成されている。
- 教職員とも個人の独立意識が強く、協調性が乏しい。
4 能力開発
- 優れた大学経営者(事務職員を含めた)の発掘と養成は個々の大学にとっては勿論のこと、国家にとっても焦眉の急。だが、未だその具体的な方策が見えてこない。
- 少なくとも事務職のgeneralist養成の考え方は改めるべし。Specialistを養成しないと、これからの法人化された大学はやっていけない。
- 法人化により大学でも経営や管理能力面のプロ人材が必要になった。経営や管理能力面を計画的に鍛える人材育成制度を整える必要
- 研修制度が脆弱
- 事務職員の資質向上の余地が大きく、期待される事務品質の職員自身の認識も引き上げる必要
- 法人経営のスペシャリスト育成に積極的に取り組む必要
- 各大学の独立・自治の意識が教職員に弱い。少子化の進行に伴う大学全入時代の到来に対して、大学の存立の危機に対する意識と行動が弱く、経営の専門家の育成が急務
- 事務職員間の能力の格差が大きく、一般的に定型的な仕事には強いが、企画力が備わっていないなど、一般企業と比べて見劣りする。
- 組織経営の基本や方法に関する知識や認識が経営陣及び事務スタッフに不足している。外部の人材をより一層活用し、組織改革・方法論取得を加速させる必要
- 職員のこれまでの訓練・経験が乏しく、責任主体としての働きに力が入っていない。
- 規則や組織に落ちた案件は早く進むが、形の整わない案件を処理していくスキル、機動力に欠ける。
- 事務職員が新しい分野についてこられない。研修やOJT等を大いにすべき
- 創造力、企画力のある事務職員が少ない。
5 人事配置・処遇
- 事務局長こそ民間人を登用すべし(2代続けて、しかも短期で本省人事。もってのほか)。人事、賃金制度は国に準じるということのようだった。何を言ってもむなしい感じであった。危機感がないと改革は進まない。
- 事務組織の思い切った改革が必要。例えば兼職者の中途採用も大胆に行うべき。
- 幹部事務職員の人事は、相変わらず文科省直轄になっており、大学配置の際は非公務員型、本省に戻れば公務員型。これでは本省の方ばかりを向くことになり、全国画一化が温存され、学内や地域にはさっぱり目が向かない。
- 事務局長以下文科省派遣職員の任期が短い(中期計画は6年)。
- よく頑張っている人とそうでない人のばらつきが大きい割に処遇面での差が少ない。
- 事務職員の流動化を図り、刺激を与えるべき
- 事務職員のモラルを一層向上させるためには、能力開発制度の充実や思い切った人事政策の採用(内部職員中心の管理職登用、さらには理事登用等)を検討すべき
- 非正規(非常勤)の事務職員が多いことも問題
- 文科省による大学の人事が当該大学の人事の停滞を招いている。
- 改革、経営、危機感をキーワードに外部人材の登用・強力な事務部局の実現が急務
- 業務量、内容に見合った人材配置ができていない。
- Management-Faculty、Administrationの三位一体が将来の姿であろうが、現実にはアドミの存在があまりにも弱体。仕事を中心とした評価並びに人材育成計画はほとんど存在していない(民間組織の人事部が存在しない)。現在の異動官職制度を事務局長制度も含めて根本的に見直す必要
- 本当の意味での法人化を希求するのであれば、執行部並びに事務の中枢部門に複数の外部人材を採用すべき。経営の解る人間が組織の一部となり、旧来の官僚主義と闘う必要
6 教職員連携
- 経営陣と事務組織、部局間、本部と部局、教員と職員などあらゆる部分にコミュニケーションの断絶あり。
- 教員と事務職員とが協働体制で法人を経営することが不可欠。基本的に教員上位という従来の大学の意識・体質を引きずっている限り、真の意味での協働は実現困難
- 教員と事務職員の溝は、法人化前とほとんど変わっていない。
- 教員、事務職員とも法人としての一体感がないので、改革に対する方向性が定まらない。
- 事務職員と教員の意思疎通が少ない。大学の目標を両者ともが明確に共有して、活力ある場を築き上げるべき
7 その他
- 幹部事務職員の派遣、事務運営ルール等、依然として文部科学省のコントロールが画一的かつ度が過ぎている。
- 私立大学に比べ、政策立案能力の養成、学生支援・研究支援の強化、教職協働の取り組みが必要
- 事務局と大学の経営の一体化が困難
- 法人化を好機と捉え活用する積極的意思がなく「折角のチャンス」がもったいない。
- 事務部門の法人化対応は、世の中の大きな変化を考慮した課題解決に取り組まず、今までの枠組みを前提とした小手先の問題解決行動。危機感がないのか、変化の影響を読めないのか、課題形成・解決力不足か、ルーティンワークに追われ戦略的仕事に取り組めない(優先順位の問題か)のか、文科省出向者の任期が短く長期的テーマに取り組めないのか、今までの習性で戦略的思考ができないのか、原因はわからないが、「折角のチャンス」がもったいない。
- 事務部門は国の時代のマネジメントを守り、自律的マネジメント力が極めて弱い。
- 自律的経営・マネジメントには企業マネジメントが貢献すると思われるが、「大学と企業は異なる」との考え方に自縛され、企業マネジメントの知恵・ノウハウを事務部門運営に生かすことができない。
- 国の時代:規則に則り事務を的確に処理、事務処理専門性から細分化された縦割り組織、所掌で仕事(ミッションは?生産性向上は?)、縦割り細分化組織(内外の皆の知恵活用は?利用者視点の課題解決は?)、年功的人事処遇(新しい知恵・スキル・ノウハウの活用は?)、管理職の役割は調整・対外折衝・例外処理(変化への先手対応は?人材育成は?)
- 企業:凡人が力を合わせて変化に対応し目的達成するマネジメント(ミッションと目的の明確化、PDCAマネジメントサイクル、MBO、皆の知恵の活用、現場に権限、フラット化・グループ化組織、能力主義・成果主義などのマネジメント方式)
- 様々な課題は、国の時代の組織風土・職員意識を踏襲していることに起因しており、風土改革・意識改革の地道な取り組みが重要。この取り組み(研修、オフサイトミーティングなど)が不十分
さらに報告書では、「事務組織における外部専門家の実態」について、次のような衝撃的なデータが目にとまりました。
これは、国立大学の事務組織のどのような業務や職種において外部の専門家が登用されているかを調査したものですが、全国の26%に当たる23大学で71人の外部専門家が登用されており、上位の業務分野と役職名は次のようになっています。
- 国際交流・留学生系(15人):国際戦略主幹、特任専門員(国際交流)、国際交流課長、留学生課長、企画調整役(国際)など
- 産学連携・知的財産系(12人):特任専門員(産学連携)、産学官連携課長、知的財産本部職員、産学官連携コーディネーター、研究支援・社会連携部長、知財本部特任調査専門員など
- キャリア支援・就職支援系(9人):キャリア開発(支援)課長、キャリア(サポート)センター長、就職支援室長など
- 渉外系(9人):特任専門員(渉外)
また、これを管理職の職階別に整理すると次のようになっています。
- 部長相当職10人(14%)
- 課長相当職35人(50%)
- 課長補佐相当職11人(15%)
- その他15人(21%)
このように、法人化後、業務の適切な遂行に求められる「高度化」「専門化」の重要性等から、徐々に事務職員の構造が変容しています。
この点に関して、報告書では次のような見解が示されています。
- 専門的な業務や高度の能力を要する業務については、途中採用がより流動的に行われるようになる。
- 1大学に長く勤める職員だけで構成される状態は閉鎖的になりすぎるという弊害がある。
- これからは、社会全体からの大学経営への人材移入が進み、様々な経歴と専門的能力を持った職員が入り混じって、全体として活力のある経営体になっていく。
- もはや、外部専門家などという特別のジャンルはなくなり、やらなければならない業務にその能力を持った適任者が、年齢や経歴を問わず従事するという状況が生まれてくる。
国の時代に生きてきた事務職員は、相当頭の切り替えをしなければなりませんね。しかも早いうちに。