2008年9月7日日曜日

不正とその要因

研究不正、経理不正等々、大学を取り巻く不祥事は後を絶ちませんね。
不正、不祥事については、この日記でも何度も取り扱っていますが、ホームページやブログには毎日のように何がしかの事件が掲載されています。
不正には様々な理由や背景があるのでしょうが、なんといっても「教職員のモラルの欠如」が最も大きな要因でしょうし、であるが故に根絶が難しいのかもしれません。

しかし、不正が起こる要因は、モラルの欠如だけではなさそうです。
今日は、一例として、「しくみや制度の欠陥」がその背景になっているという主張をご紹介します。

まずは、新聞記事です。

東大、不正経理30億円超 04年度、予算消化装う (2008年7月1日 朝日新聞)
東京大学の教授らが研究費を年度内に使い切ったことにするため、業者に備品などを発注したように装って虚偽の経理書類を作らせるなどの不正経理をしていたことが、東京国税局の税務調査で分かった。他にもずさんな経理処理があり、問題のある支出は04年度だけで総額30億円超に上るとみられる。

国税局は、これらにかかる消費税に重加算税などを加えた計約7500万円を追徴課税した模様だ。東大は既に修正申告しているという。

東大の説明や関係者によると、問題となったのは、国や地方自治体、独立行政法人などから受けた受託研究費や運営費交付金などの資金で実施された研究活動に関する経理処理。工学部や医学部など主に理系の部局の教授らが、余った研究費を使い切ったことにしようと実験装置や試料など消耗品や備品を購入したことにして、取引業者側には日付などを偽った納品書や請求書を作成させた。

代金は業者側に前渡し金として支払われ、預かってもらっていたという。いずれも翌年度になってから実際に納入されたという。

他にも、消費税法で保管が義務づけられている領収書などの経理書類を保管していなかったなど、ずさんな経理処理が判明。意図的に経費の計上時期をずらしたなどとして、国税局は総額30億円超の経費支出について不適切だったと認定したとみられる。

国立大学法人が受け取った研究費などの収入には消費税がかかるが、これを原資に消耗品などを購入した際に支払った消費税分を控除することができる。大学側はこの差額分を申告・納税したが、国税局は年度内に支払ったことになっていた消費税分の控除を認めなかったとみられる。

東大の04年度の収入のうち、受託研究費は約209億円。運営費交付金は約861億円に上る。

東大本部では「予算を年度内に消化したことにしたかったことが背景にあるのではないか。指摘された問題の大半は、納品書・領収書を保管していない点。認識が甘かったのは事実で、今後は指導を周知徹底していきたい」と話している。

次に、この記事について、教育評論家の梨戸茂史氏が発表されている記事をご紹介します。
先月、7月1日の新聞(朝日)によると、「東大不正経理30億円」との大見出し。大学は法人化されたが、まだお役所体質が残っていると言われている。しかし、それは意識の問題というより仕組みの問題ではないか。

事件の発端は教授が研究費を年度内に使い切ったことにするため、業者に備品などを発注したように書類を作っていたというもの。このあたりは国税当局が調べれば何の造作もないこと。素人では隠し通せぬ世界だろう。東大ではこの「不正」、2004年度で30億ほどに上っているらしい。ホントなら小さな大学からすれば「不正」分だけで30億円とはため息の出る金額だ。

問題のその一は、特定の研究者、研究グループに使い切れない研究費が集中していること。特に工学部や医学部など特定の学部、研究室に国や地方自治体、独立行政法人などから流れてくるお金が多すぎる。時代の注目を浴びる研究には予算が付きやすいし、目先の評価が固まっている研究にお金を出せば失敗は少なく批判もされにくい。従って各方面からの予算やお金が集中してしまう。思い切った選択ができないせいだ。失敗してもよいということを世間、納税者、マスコミは許してくれない。だから安全策しかなくなる。お金が余れば消耗品を購入すればよい。いや買ったことにすれば現金が手元に残る。それで翌年の備品などを購入するとか、別の自由に使える研究費や院生の旅費などに使えるだろう。予算の付きにくい経費に流用できれば一番良い。実際には業者に前渡し金として先にお金を支払い、翌年度消耗品など納入してもらってるケースもあったとか。時差があるだけで気持ちの上ではやましいところがない。

その点アメリカのように、大学が研究の場を貸すような仕組みで、当然光熱水費など払いながら研究員の給与やいろいろな消耗品、果ては自分の給料にまで回せるシステムは機動的なお金の使い方ができて良いとも言える。ただし教授は年中研究費集めで苦労しなければならないが。

ところで東大は04年度の受託研究費は209億円、運営費交付金は約861億円とのこと。ただ不正経理と言っても大半は納品書や領収書を保管していなかったことのようだ。忙しい先生に事務手続きをきちんとしてくれと言うのも法人化以来の人手不足の環境からは無理難題かもしれませんが。

問題のその二は、余ったあるいは使い切れなかった分を翌年に持ち越す簡便なシステムがないことだ。ブールしていたお金を個人が使っていたわけではなく翌年にきちんと研究関係の経費で使っているのだから仕組みさえ出来ればよい。そもそも法人化の目的のひとつに民間の手法を活用して組織運営の自由度を高めようという考えがあったはず。これが機能していないのではないか。単純に、翌年度に繰り越せばいいはず。でも実態はそう簡単ではない。「予算」の考え方からすれば「予定を立てたからこそ必要な金額になっているはず」、「余れば返すのが当然」と言う理屈で戻さざるを得ない。そうでなくとも「なぜ余ったか」の作文と「翌年にそれを回す理由」が必要。「今回余ったのだから次の年は予算は減らす」と言われるのが怖い。次に、繰り越し処理ができたとしても、事務量が増える。事務をしてくれる人手が足りない。簡単なのは業者を巻き込んだ経理処理なら翌年そこから備品など購入すれぱ電話一本で届けてくれる。また研究室で自由になるお金があれば運営もしやすい。

こんな実態を考えたら「お役所体質」批判ですむ問題ではないだろう。誰がちゃんとこれを考えるのですか?(文部科学教育通信 No202 2008.8.25 「不正経理」)