今回から数回に分けて、リクルート・カレッジマネジメント161 Mar-Apr.2010号に掲載された「スタッフ・デイベロップメント(SD)の体系化と実践」(吉武博通 筑波大学大学研究センター長・大学院ビジネス科学研究科教授著)(抜粋)をご紹介します。
SDの重要性を強調する段階から実践の段階へ
教育研究の質の向上や経営基盤の強化を進める上で大学職員の果たす役割の重要性が飛躍的に増していることは、大学関係者の多くが認識するところとなり、大学ごとにあるいは大学を超えて職員の職能開発(スタッフ・ディベロップメント、以下SD)のための様々な取組みが展開されている。
各機関・団体が実施する研修事業への参加や大学院での学習などを通して自身の能力向上を目指す職員も急速に増えており、学ぶ機会の面でも意識の面でもSDの基盤は整いつつある。(途中略)
2008年12月中教審答申「学土課程教育の構築に向けて」において大学職員の職能開発の重要性が示されたことは注目に値するが、具体策にまでは踏み込めていない。
本稿では、これからの大学を担う職員をどのように育成すべきか、SDの体系を明らかにするとともに、それを実践に移すための考え方や方法論について述べることにする。
大学職員に求められる能力を構成する3つの要素
最初に大学職員に求められる能力とは何かを考えてみたい。大学職員も組織の構成員である以上、求められる能力は他の組織と同様に次の3つの要素で構成されるものと考えられる。
1つめは「動機・意欲」である。使命感や責任感、仕事への情熱、職場への愛着やロイヤルティ、改善意欲、処遇や自己実現に関する欲求などが含まれる。
2つめは「スキル」である。ここでは仕事を円滑に進めるための様々な能力を総称してスキルと呼ぶ。高い成果を生み出す人材に特徴的な思考・行動特性を意味するコンビテンシー(competency)もこれに含めて考える。
3つめは「知識」である。すでに獲得した知識だけでなく、知識を得ようとする興味・関心も含む。大学の場合は、社会や学問の動向に関する興味・関心、大学業務に必要な知識、自分の大学に関する知識の3つに大別することができる。
重要なことは、それぞれの要素が相互に強く作用し合うという点である。動機・意欲が十分でなければ高いスキルは養われないし、知識も不十分なレベルにとどまる。コミュニケーションスキルが高ければ様々な人々から刺激を受け意欲も高まるだろうし、知識の獲得も促進される。大学を深く知ることが意欲につながり、知識の豊かさがスキルを磨くという面もある。3つの要素が相互に作用しながら、スパイラル的に能力が向上する状態をいかに創出するかがSDの本質である。
職員個々の価値観を重視したきめ細やかな動機づけ
次に、3つの要素が意味するところについて、さらに掘り下げて検討してみることとする。
最初は「動機・意欲」についてであるが、これまでの大学職員に関する議論の多くは、職員が担う役割や職員への期待が如何に高まっているかを説明し、その士気を鼓舞することに力点が置かれてきたように思う。そのこと自体は重要であり、引き続き強調していく必要があるが、他方で、一律的な大学職員論の段階から、よりきめ細やかに個々の職員を動機づけて意欲を高めることに力を入れる段階に進むべきではないかと考えている。
大学職員といっても、就職の動機、職務や処遇への期待、ロイヤルティなど人によって違いがあるのは当然である。自身が卒業した大学に対する親しみや愛校心から就職した者、教育にかかわることや学生・留学生と接することに魅力を感じ職員を志した者、勤務条件や処遇などから安定した職業としての大学職員を選択した者など様々である。就職後、経験を重ねるに従って、興味・関心や職務・処遇への期待が変化することも十分にあり得る。
職員個々の価値観の違いや変化を理解した上で、それぞれにふさわしい方法で動機づけを行い、意欲を高める。それはあたかも顧客の欲求を理解した上で、それに応じたサービスを提供するというマーケティングの発想と同様であることから「モチベーション・マーケティング」と呼ばれることもあるが、このようなアプローチに力を入れる必要がある。(モチベーション・マーケティングはモチベーションにフォーカスしたコンサルティングを展開する小笹芳央氏が提唱するコンセプト)(続く)