2010年5月26日水曜日

国立大学法人の評価の実際

国立大学法人の評価の実際 (日本福祉大学常任理事 篠田道夫)


中期計画の達成度評価

国立大学のマネジメントは、中期計画を軸とした目標を鮮明にした運営と、それを遂行する強力な学長権限を軸とする体制によって機能し、また成果を上げつつある。そしてこの改革を強く後押しし、推進する仕組みが国立大学法人の評価システムだと言える。

中期目標の設定とその達成度評価は国立大学法人制度の根幹をなす。この目標管理システム、PDCAサイクルの機能化こそが、国立大学を確実に変えてきたことは間違いない。これまでの国の直接管理・統制から評価による間接的管理に移行したとも言えるが、それが国立大学の自律的改革やマネジメントの確立を促してきた。

高等教育評価機構の一員として国立大学の評価システムにかかわる調査に加わった経験から、訪問した東京工業大学と岡山大学の事例をもとに、評価がいかに改革に結び付き、また、中期計画の具体化や推進に役割を果たしているかを見てみたい。調査結果については、『認証評価に関する調査研究』(平成20年度文部科学省調査研究委託事業、日本高等教育評価機構)に詳しい。


中期計画における評価の位置

両大学とも評価方針は、中期目標、中期計画に示されている。

東京工業大学では、1)「評価を評価室に一元化すると共に、評価結果に対応する改善策等を講じる組織を充実する」、2)「教職員個々を公正に評価する評価システムを確立する」、3)「個人が特定されない範囲で、点検・評価結果を公表する」である。評価を学長のもとに一本化するとともに、評価結果を処遇や資源配分にも反映させる方策を策定・実施し、意欲の向上とその公表による改善促進を謳っている。

岡山大学でも、1)「教員の個人評価の実施や評価データ等の一元的管理システムの確立により、評価の学内体制を整備し、外部評価や第三者評価を積極的に取り入れて評価の充実を図る」、2)「自己点検・評価、外部評価、第三者評価、学生による授業評価等の学内評価結果を、教育研究の向上、大学運営の改善等に十分に反映させる」とし、評価センターを軸とした恒常的な評価体制の強化と評価を改善へ生かす方針を明確にしている。

例えば「教育の成果・効果(目標達成度)を厳密に検証するため、入試成績と入学後の成績の追跡調査、学生・同僚による授業評価、就職先企業・団体等に対するアンケート、外部評価機関による第三者評価、卒業生、外部有識者による教育評価等を実施する」としている。

両大学とも評価を目標の達成、教育の改善につなげていこうとする強い意志が感じられるとともに、教育の到達度(アウトカム)評価、教員評価など困難なテーマに挑戦している。


評価を改革に活かす取り組み

両大学とも学長直轄機関として評価センター、評価室が置かれ、副学長等が直接所管し、多くの専門家教員や職員幹部をメンバーとし、数名の専属職員を置く強力な布陣を敷いている。そして目標達成度を厳密に検証するため、成績の追跡調査、授業評価、各種資格試験の合格率推移、就職率推移、就職先企業へのアンケート調査、卒業生評価の実施等を義務付けている。

教育活動の評価基準を確立し、教員の個人評価を実施、授業評価、自己評価、第三者評価を積極的に活用して、教育の質の改善を図ることを明記している。

東京工業大学では、評価室の中に置かれた、評価活用班が評価結果の改善・指摘事項を検証し、改善策の具体化、提案を行っている。この改善案は、分野別業務の企画・実施部門である教育推進室、研究戦略室などに示され、これらの室を通して恒常的改善が進められる体制となっている。

また、こうした改善実施状況を一元的に把握・管理する点検・報告システム、その学内やステークホルダーヘの公表の準備も進んでいる。さらに、中期計画の策定、推進を担う企画室とも連携して、評価をダイレクトに基本政策に反映させている。

岡山大学でも、自己評価規則で、評価の結果、改善が必要と指摘された場合は、学長、学部長に改善の実施が義務付けられている。「評価センターからの提言」の中には、11の基準すべてにわたって具体的な改善事項が示されており、これを実際の改善行動に結び付ける点に特に留意している。評価を業務上担当する学長室が、他方で中期計画の策定の推進も担っており、こちらも評価が基本政策に直接反映される仕組みとなっている。

両大学とも、各種データを教員個人評価にもつなげ、活用しようとしており、評価を通じて、組織や制度、システム改革にとどまらず教員個人の教育改善につなげようとしているところが特徴的である。


評価の取り組みからの課題

国立大学では、認証評価、法人評価、自己評価をある意味で厳密に区別している。

すなわち認証評価は、規制緩和と連動する質保証システムであり、掲げた目標への到達度評価ではなく、現状のデータを積み上げそれが基準を満たしているかの評価とする。

法人評価は経営評価に軸足があり、中期目標・中期計画の達成度が評価される。

自己評価は、学校教育法に定められた自己評価条項に根拠を持ち、経営、教学の全分野にわたって、自ら掲げた目標にしたがって、その前進の状況と課題をトータルに明らかにする取り組みで、三者は別者と位置付けている。これが改革を促進する半面、負担増となり評価の効率化という点では障害になっているようにも見える。

全学評価と部局評価の関係は微妙で、評価機関の位置付けとしても上下の関係にはなく、評価方法や評価基準、データの集め方や分析方法も、必ずしも共通とはなっていない。改革すべき課題についての温度差もあり、全学機関で推進している分野は改善が進むが、部局レベルでは一律には進まない現状もある。部局の自立性を前提としつつ、いかに統一的に改革を前進させるかが課題だと言える。


評価による学長方針の浸透

学長権限が及ぶ範囲での事業の推進、全学共通システムの改革は、法人化後かなり進んでいると見ることができる。しかし、部局レベルの教育の学生支援、組織運営や業務・予算の改革となるとその進行はまちまちである。教員の個人評価もシステムは進んでいると言えるが、具体的な評価の実施は、部局に任されているところもある。

しかしながら、確定された中期計画、中期目標の存在が、到達評価の指標としても、改革を前に進めるうえでも、直接、間接に強力に機能している。

国立大学の場合、評価は、大学のポジションに直接結び付き、交付金や補助金に連動している点で、大学の生命線である。その点で評価は重い位置付けを持ち、私学とは比較にならない厚い人の配置、専任体制と資金投下で、恒常的なデータ集約と分析、改善方策の検討と推進が行われている。

そして、この外圧を伴った評価の推進が、学長権限の拡大と定着、中期計画の全学浸透とその実践に強く連動していると思われる。評価の積極的な取り組みが、中期目標の推進、学長主導による全学改革の進展につながっているのが見て取れる。

国立大学法人の根幹をなす中期目標・中期計画とその評価システムは確実にその成果と前進を作り出していると言える。(文部科学教育通信 No244 2010.5.24)