2021年12月28日火曜日

記事紹介|大学は誰のために存在するのか

今回は大学改革についてです。目下検討の渦中にあるテーマなのです。近年日本の大学の国際競争力低下が深刻です。世界大学ランキングのトップ100位に日本からは2校のみ、最近では中国をはじめアジアの大学が躍進しており、日本が相対的にさらに見劣りしてきました。欧米のみならず多くの国で大学が科学技術や文化の発信拠点となっており、例えば米国のシリコンバレーが世界的な起業都市となったのはスタンフォード大学の存在なくしては考えられないと言われています。

大学のガバナンスが課題

社会の基礎作りに果たす教育の役割は絶大です。特に社会のエリート、リーダー作りには大学教育のあり方が大きく関わっています。日本では175の国公立、592の私立など、788の大学がその責任を担っているのです。世界と肩を並べられる教育の提供に向けて、大学は社会に対し責任を負っております。

日本の大学が持つ課題はさまざまありますが、最も重要なのが「大学のガバナンス」でしょう。大学は誰のために存在するのでしょうか。いわずもがな「学生のため」にあるべきなのです。そしてより良い人材を社会に送り出すという社会的役割を担っているのです。しかし現在の日本では、大学がブランド化し、その看板によって社会人として有利に巣立つといったステップが当然とされています。本来、社会にダイナミックな力を与えるのは在学中の教育の中身、教育の充実度なのです。

学生ではなく教職員のための経営

しかし、今の大学は学生に最高の教育を与えられるように組織されているのでしょうか。一例ですが、大学責任者の選任方法です。ほとんどの大学が、教職員による選挙で学長を選ぶ制度を、採用しています。被選挙人は選挙人のために仕事をするのが当たり前なので、結局は教職員が過ごしやすいような大学経営になってしまいます。要は学生のためではなく、教職員のための学校運営になるのです。その結果、例えば講師になれば定年まで身分が保障され、よほどのことがなければ教授となれる。

また、教師側が評価させることがなく、あるいは評価があってもそれが処遇に反映されることがない硬直的な人事制度がほとんどです。大学の先生には切磋琢磨(せっさたくま)してより良い教育を行うという、処遇面でのインセンティブがないのです。どんなに怠けていても同待遇で定年を迎えるという不思議な世界となっています。米国の大学などでは優秀な教師の起用を競う半面、評価の低い教師にはやめてもらうことで、教育の質を磨き続けています。どちらの仕組みが学生のためになるかは一目瞭然です。

深刻な私大の理事会専横

こうした状況に危機感をもったのか、文部科学省は国立大学に関しては2015年に法改正し、学長の選任方法を変えました。学長選考のための会議体を設け、大学外の意見を反映しながら学長を選ぶようにしました。しかし実際には教職員による「意向投票」があり、従来と大きく変わらないといったことも指摘されます。ただ、改革に取り組み始めたという点では若干の進歩といえるでしょう。

より深刻なのが私立大学です。制度的にガバナンスが欠如し、理事長、理事会を監督、評価、けん制する仕組みに欠けているのです。理事長、理事会の専横が許される組織となっているのです。理事会は教学という大学の中核的業務を教職員に丸投げして、学長選出をはじめ教職員の任用、処遇等を教授会、教職員に委ね、自らの権限を発揮しない無責任な組織と化しているのです。

社会的役割を担う大学である以上、私立大学とはいえ適切なガバナンス体制を整えなければ今のような退嬰(たいえい)的組織のままでは、とても学生や社会の期待に沿える運営にはなりません。

実は現在、私立大学に関する議論が進められています。文科省が設置した「学校法人ガバナンス改革会議」のもと、私立大学の運営のあり方が見直されようとしています。具体的には、「評議員会」を大幅にスリムな組織に改革したうえで、理事長や理事会を監督する機能を新たに持たせる方向です。いわば企業における社外取締役のような役割を担ってもらい、社会の代表として理事長、理事、理事会に対し任免権を含めけん制機能を働かせようというものです。私もこうした改革はあまりに遅きに失したとはいえ必要であり賛成です。

非常に気がかりなのが、こうした改革をやろうとすると、必ず既得権益からの猛反発を招くということです。現に私大側は猛反発をしています。いろいろ理由を並べてはいるもののとても説得力があるとは思えません。

「世界」を視野に学生づくりを

しかし自民党、文部科学省側もこの反発に応じて再考する発言もあり心配な点です。変革を望まない勢力に屈して妥協的な案になっていくのか、あるいは私立大学改革をこの際やりきるのか、大きな分岐点を迎えています。文科省はつい最近、ようやく実現した教員免許更新制度を廃止すると決めたばかりです。教員の負担になるというのが理由のようですが、改革の逆戻りに歯ぎしりをしたばかりです。それに続いて今回は私立大学のガバナンス問題です。より学ぶ側の視点に立って、世界に見劣りしない大学作り、世界に羽ばたける学生作りの基礎となる「大学ガバナンス」をしっかりと作り上げてほしいものです。

しっかりと学び、自律心と向上心をもつ世界に伍(ご)する学生作りといった目標をどうクリアするのか。学校経営の柱づくりから変えていかねばこのままではさらに落ちるのではないかと心が痛みます。

出典:「学生のための大学」へ 私大に求められる統治改革|日本経済新聞