庶民の声を施策に生かそうと、江戸時代に将軍徳川吉宗が設けた「目安箱」。
その大学版とも言える取り組みが広がり始めた。学長に学生や職員が「直訴」できる仕組みだ。
間近に迫る「全入時代」や国立大学の法人化で、一層の経営改善を求められている昨今の大学。享保の改革ならぬ平成の大学改革に、学生らの声を生かせるか。
「学長直行便」。成蹊大(東京都武蔵野市)は05年11月、そう名付けたポスト型の箱を学内3カ所に設置した。
直行便は、栗田恵輔学長の発案で始まった。今や電子メールが全盛の時代。学生の意見をメールで募る大学は珍しくないが、なぜ本物の箱を置いて手書きの意見を投函してもらうのか。
栗田学長は「メールだと、あまり深く物事を考えないで惰性で人に意見を伝えることがあると思った。きちんと字を書いてもらうことに意味がある」。
原則記名式で、月に2度回収。これまでに240通が集まった。意見にはすべて栗田学長が目を通し、必要ならば関係部署と相談して回答する。意見と回答は学内のウェブで公表される。
「成蹊大は社会活動やボランティアへの支援策が手薄では」。そんな意見を受け、学内に外部の団体との連絡窓口となる「ボランティアセンター」の設立準備室ができた。
「不親切」などの意見が目立った職員の対応を改善したら、学内の調査で学生の不満度がほぼ半減した。成果は表れてきている。
広島経済大(広島市)は03年12月に意見箱「聞いて学長!」を食堂など学内3カ所に設置。
「学生の声を改革に生かしたい」という石田恒夫学長の思いを実現させた。
これまでに寄せられた意見は約500件。すべて学長が目を通し、回答と一緒に箱の近くなどに掲示するようにしている。
山の中腹にキャンパスがあるため、通学に苦労していた学生から改善を求める意見が多く寄せられ、約500台分の駐車場を整備する大規模事業につながったことも。
ただ、これだけ集まれば、単なる「わがまま」のような意見も少なくない。同大はそんな意見にも、「懇切丁寧に、学生でもわかりやすいよう回答しています」(入試広報室)という。
東京大(文京区)は06年7月、小宮山宏総長の発案で目安箱制度を始めた。
ウェブ上で書き込む形に加え、象徴の意味も込め、同年8月に本物の箱を三つ設置。
当初は教職員を想定していたが、徐々に学生からの意見も増えてきた。ウェブも含め、これまで寄せられた150件超の意見のうち、学生が寄せた分は約10件。環境保全のため、「冬は20度、夏は28度」という空調設定の徹底を総長に求める意見や、「煙害」への対応を求める意見など様々だ。(平成19年11月25日付 朝日新聞)
三重大学長がブログ開設 「発信力が試される時代」
三重大の豊田長康学長(57)が、インターネットでブログ(日記)を始めた。
学内の日々の行事に参加して思うことや、国立大学への国の補助金にあたる運営交付金の配分に競争原理を導入する見直し問題などへの見解をつづっている。学長ブログは県内の13大学・短大で初めて。「これからは学長の発信力が試される時代」と意気込んでいる。
タイトルは「ある地方大学長のつぼやき」。「つぶやき」と「ぼやき」を掛け合わせた。
10月22日にスタートし、これまで12回更新した。カメラ付き携帯電話で撮影した写真も掲載している。
きっかけは今年5月に浮上した国立大学の運営費交付金の見直し問題。
地方大学への交付金が激減し、三重大にとっても存続の危機に立たされるだけに、学長自ら緊急記者会見や県議会での意見陳述で見直しを訴え。
そのかいあって、県や県議会など県内6団体の要望書につながった。
「トップ自ら考えを発信すれば、分かってくれる人がいる」と“目覚めた”という。
今月19日に書き込んだブログでは、野呂昭彦知事に同行した文部科学省への陳情をテーマに「県民と地方大学が心を合わせて行動し、中央にものを言う形ができた」とつづった。
最新の20日分は、体育会応援団の公演を見て「どの大学にも負けない胸を張って誇れるものを増やそう」と書いた。
目標は2日に1回の更新。「秘書が書いたような飾り物ではなく、私の人柄が出るブログにしたい」と話している。 ブログのアドレスは、http://www.mie-u.ac.jp/blog/(平成19年11月25日付 中日新聞)
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情報公開に向けた意識改革
社会、とりわけ学生や保護者、地域などのステークホルダーから意見や提案を収集し、ミッション達成に活用する大学が増えてきました。
さらには三重大学のように、学長自らが大学の社会的責任、説明責任を果たすことに努力している大学もあります。
国の時代にはなかった素晴らしい取り組みだと思いますし、少しでも社会と大学の垣根が取り払われることを期待したいと思います。
さて、大学は、上記のような取組みだけではなく、学校教育法や大学設置基準にも書かれてあるように、大学の教育研究活動の情報の公表・公開という基本的な責務にも真摯に対応していくことが求められています。
残念ながら現状においては、透明性の確保に向けた教職員の意識レベルがまだまだ低く、閉鎖性を取り除くための地道な努力がまずは必要なのかもしれません。
情報公開制度について一例をご紹介します。
国や独立行政法人(国立大学法人を含む。)には、法律により、保有する法人文書等の情報を国民に公開し、説明責任を果たす義務が課せられています。このため、国立大学の場合には、情報公開窓口や開示・不開示の判断を行うための会議体(例えば「情報公開委員会」)が設けられています。
時代を反映してか、最近では開示請求件数が増え続けているようです。
当然、関連する事務負担も増えるわけですが、国民の利益につながることですから、税金によって経営が支えられている国立大学としては、積極的な情報公開に取り組んでいかなければならないわけです。
聞くところによると、最近、多くの国立大学で、製薬会社や医療法人との関係が問題視されている医学部(又は附属病院)への寄付金に関する情報公開(寄付者名、寄付金額、受入教員名などの開示)を報道機関から求められているケースが増えているそうです。
ある大学では、開示・不開示の判断(最終的には学長の判断ですが)を行う委員会では、積極的な情報公開を行うべきという意見(主に事務職員)と、不開示を主張する意見(教員)とに分かれ、結果は一部開示となったものの、開示すべき法人文書がどういう文書なのかわからなくなるほど、真っ黒な墨塗りになってしまったそうです。
また、この委員会で交わされた議論の中には、まるで後ろめたいことをやっている悪者達の談合のように、国民が聞いたらびっくりするような閉鎖的、保身的な意見が数多く、まさに「大学の常識が社会の非常識」という言葉がぴったりの状況だったようです。
さらに、一部開示の決定に当たっては、不開示部分についての不服申し立てを受けることが前提となっていたとのことで、このような法律の目的や趣旨*1に従わない確信犯的な決定をした大学の責任は極めて重いのではないかと思います。
大学は、憲法により保障された神聖な学問の府として、こういった社会の求めに反した、あるいは国民を愚弄するような行為を決して行うべきではありませんし、社会との垣根をより高く頑強な壁にしてしまうこのような愚かな行為は、自ら堕落の道を目指して突き進んでいるようなものではないでしょうか。
*1:独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律の目的(第1条):この法律は、国民主権の理念にのっとり、法人文書の開示を請求する権利及び独立行政法人等の諸活動に関する情報の提供につき定めること等により、独立行政法人等の保有する情報の一層の公開を図り、もって独立行政法人等の有するその諸活動を国民に説明する責務が全うされるようにすることを目的とする。