2007年11月18日日曜日

大学と社会の垣根

国立大学が法人化され早いもので約3年半が経過しました。
国立大学の法人化が意外とすんなり実現に至ったのは、当時の小泉政権の強力なリーダーシップが背景にあったこともありますが、おそらく真の理由は、国民のほとんどが年間1兆2千億円もの税金が投じられている国立大学についてほとんど興味・関心を持っていなかったこと、大学現場の教職員自身が、国の一行政組織という立場に安住し、自分達の将来について緊張感を持って真剣に考えることを怠ったことなどがあげられると個人的には思っています。

また、そういった状況が起こりえたのは、大学は、学生という顧客に社会が求める付加価値をつけ輩出することを使命とする教育機関でありながら、実は、悪しき民主主義の根幹である「自治」の名の下で、一般社会ではとても通用しないような非常識が、常識としてまかりとおっている極めて特殊な社会であり、自ら社会との接点を拒絶する極めて強い閉鎖性が国民との距離を遠ざけ、税金を負担している国民の側からは大学の内部は全く見えないということが続いてきたことが大きな原因ではないかと思います。

残念ながら、法人化後の現在においても、社会と大学との垣根は相変わらず高く、「大学の常識は社会の非常識」という名言が過去のものとなるのはまだまだ時間がかかりそうです。

改革進まぬ「象牙の塔」 法人化4年目の国立大学


国立大学が法人化され4年目になったが、教職員の意識改革や組織改編が進んでいないことが全国の国立大学法人の学外委員を対象に行われたアンケート調査で分かった。

「象牙の塔」と呼ばれた閉鎖的な大学の活性化を目指し法人化が導入されたが、民間企業の「社外取締役」にあたる学外委員の目からは「改革意識が薄い」「新しい仕事に積極的でない」など不満が相次いだ。

調査は昨年11月、国立大の職員らで作る「国立大学マネジメント研究会」のグループが、大学経営を審議する「経営協議会」の学外委員677人(87大学)を対象に実施し、286人から回答があった。

調査結果によると、学外委員は企業関係者や官公庁・法曹界などで構成され、「国立大の経営が期待通りに機能しているか」をたずねたところ82%が「そう思う」と回答し、表面的には順調な進展がうかがえた。

だが、自由記述では厳しい意見が相次いだ。
教職員の意識改革については「変わっていない。特に事務職員は新しい仕事に積極的でない」「(学外委員が)具体的な提案をしても議事録に書かれるだけ」など消極的な姿勢を批判している。

学長がリーダーシップを発揮しての改革が必要だが「親方日の丸意識が抜けていない。学長の意向が教職員に及んでいない」「学長選考会議を通じて『変わりたくない』との意識が強いと感じた」としている。

法人化後も「国の関与が強すぎる」と批判も多かった。文部科学省からの幹部事務職員について「人事は相変わらず文科省直轄。本省ばかりを向いて地域や学内に目が向かない」と苦情もあった。

国からの運営費交付金が毎年削減されていく事情を踏まえ、「旧帝大以外の研究費が少ない」「教員養成大学では自主財源の 確保は難しい」と研究費増額を求める声も相次いだ。

研究メンバーの上杉道世・元東大理事は「批判が多いのは教職員に現状維持の志向が強いからだ。ただ、学外委員は民間の基準で断定しすぎる側面がある。大学が変わるにはまだ時間がかかり、学内外のコミュニケーションが必要だ」と話している。

<天野郁夫・元国立大学財務・経営センター研究部長の話>

法人化によって大学自治に経営の視点が入ったのは大きな変化だ。

人、モノ、カネの再配分が自由になったが、職員は独創性を発揮する意欲に乏しく企画立案能力がない。

これまで何もしてこなかったのだから、すぐには変われない。

ただ、地方大学では『ミニ東大』から脱却しようとする意識が根付いてきた。地域との連携も進んでいる。

国立大学発足以来の大変革なので結論を出すのは時期尚早。長い目で見守るべきだ。(2007年8月15日付産経新聞)

国立大 学外者 経営に存在感 教職員と意識差、摩擦も


法人化された国立大学で、学外出身者の経営参画が目立ってきた。大学の閉鎖的な体質に風穴を開ける一方で、教職員との間で摩擦も生じている。社会に開かれた経営の在り方を巡って模索が続きそうだ。

国立大学法人法では、大学に対し、経営上の重要事項を審議する「経営協議会委員」、学長を補佐して経営に直接あたる「理事」、業務を監査する「監事」に、必ず学外出身者を入れることを義務付けている。社会に開かれた大学の実現という理念に基づいている。

本間政雄・国立大学マネジメント研究会長(立命館副総長)らの研究グループが、昨秋に実施した調査によると、87大学に経営協議会委員が677人、理事が151人、監事174人が学外から就任していた。

常勤の理事は文部科学者を主とした官庁出身者が多いが、非常勤を含めた3つの職全体では、民間企業、法曹、他大学出身者など多岐にわたっていた。監事には公認会計士や税理士ら民間の専門家も多かった。

研究グループが、これら3つの職に就く学外出身者にアンケートをとったところ、経営協議会委員286人、理事64人、監事123人から回答を得た。

それによると、仕事への満足度は、総じて高めだったが、「教職員のほとんどに、法人になったことの意識が薄く、大学の諸施策に無関心、非協力」と、学内の危機感の低さを指摘する意見が出た。

やたら会議が多く、長く、結論が出ず、経営にスピードがない」「民間企業的発想で発言すると、議論がかみ合わないことが多い」「監事制度の位置づけが学内でほとんど理解されていない」などの不満も多かった。

さらに、「不要業務の洗い出し、効率化に一層の努カが望まれる」「学長のリーダーシップを発揮しやすいようにする」などの意見や、「教員との話し合いの場が少ないので不安がある。パイプはあったほうがよい」といった要望もあった。

他方で、学内出身の理事や学長らに「学外出身者を活用できていると思うか」と尋ねた質問では、肯定的な回答が、3つの職いずれについてもほぼ9割以上に達していた。

こうした学外出身者との意識差は、7月の山形大学長選出でも表面化した。教職員投票では、文部科学省の次官だった結城章夫氏の獲得票数は2位にとどまったが、学外者がメンバーの半数を占める学長選考会議は、結城氏を新学長に選んだ。この決定に対し、教員の中から反発の声が上がっている。

旧文部省の総務審議官や京都大副学長も務めた本間会長は「国立大はまだ、学外者と教職員が反発し合っている段階。お互いの不満を出し合い、理解を深めていくことが必要だ」と話している。(2007年8月31日付読売新聞)



国立大学の改革は、当該大学に勤務する者に突きつけられた最も重要な社会からの要請であると思います。

上記報道で紹介された調査結果は、正確には「国立大学法人における外部人材活用方策に関する調査研究」と言い、2007年4月に、法人化後の国立大学運営における外部人材活用方策に関する調査研究プロジェクト(研究代表者本間政雄氏)により実施されたものです。


国立大学の法人化のねらいの一つは、硬直化した組織から大学の運営を効率的にすることです。
そのためには、民間での経験やノウハウを積極的に取り入れ、よりよい大学への改善を自ら行うような在り方を実現することが必要であり、法人化に伴い人事制度が格段に柔軟になったことにより、外部の視点や知恵を内部に取り入れること、つまりは、学外の有識者・専門家を大学内に入れることが容易になりました。
それが、国立大学法人法に定められた「経営協議会」であり、「学外理事」であり、「監事」です。また、学外の有識者や専門家を「学内スタッフ」として採用できるようになりました。

上記の調査結果は、これら外部人材といわれる方々が、法人化後の国立大学と関わる中で、国立大学をどう見ているか、何が問題で、何が必要と捉えているかなどについて、浮き彫りにしたものなのです。