毎年のことではありますが、この建議を機に、今後予算編成が本格化していきます。
高等教育関係については、これまでの審議経過でも明らかなように、財務省の思惑どおりの内容になっています。
事項立ては例年どおりのようですが、今回の建議における主な内容(抜粋)は次のようなものです。
公務員人件費(国家公務員等)
- 国立大学法人等においても、国家公務員の総人件費改革を踏まえた改革を引き続き推進し、財政支出の抑制に反映させなければならない。また、国家公務員の給与水準を考慮して国民の理解が得られる適正な給与水準とするよう必要な見直しを行うべき。
- 「基本方針2006」に則り、▲1%の削減は行うべき。
- 学長のリーダーシップの問題や教職員の意識改革の遅れ、業務・人事・組織の非効率性などが学外関係者から指摘されていること(注1)、民間から海外研究機関への研究費支出は伸びており、これを国内大学へ引き寄せる余地があることなどから、改革努力を更に進めていく必要。
- 現行の配分ルールのままでは、国立大学法人間でのダイナミックな資源配分のシフトを行い、世界で通用する大学を実現していくことには大きな制約があるため、平成22年度以降の第2期中期目標・計画に向け、「6月建議」(注2)でも述べたとおり、国立大学法人運営費交付金の配分ルールについては、国立大学法人の教育・研究等の機能分化、再編・集約化に資するよう、大学の成果や実績、競争原理に基づく配分へと大胆に見直す必要。平成19年度中にこれらの見直しの方向性を示すべき。
<経営協議会学外委員>
学外委員は、経営協議会などを通じて「教員、職員の意識改革の遅れ」などの課題を看取する一方、運営費交付金の削減、法人化後も残る政府の規制、財務面での制約などに懸念をもっている。事務組織の非効率性、職員の親方日の丸意識や、幹部職員が短期で交代していくことの問題なども少なからぬ指摘があった。
<学外理事>
学外理事の多くは企業出身者であり、企業人としての経験から国立大学の教職員の意識改革の遅れや、意思決定システムの問題、学長のリーダーシップ不足、事務組織の非効率性、教職員の人事評価の不備、法人化による旧帝大・大規模総合大学と地方の中小規模大学の格差の拡大、運営費交付金の削減への懸念などをかなり強く感じている。
<監 事>
職務上、多くの常勤監事は大学の教育研究や運営の実情を間近に見る機会が多いと考えられるが、実際に「教職員の意識改革の遅れ」や「業務の非効率」、「政府の規制の強さ」、「学長のリーダーシップを発揮できない環境」といった指摘が多く見られた。
<学外経営スタッフ>
学長や理事を補佐する立場の「経営スタッフ」が、事務祖域の硬直性・非効率性、意思決定システムの非効率性や幹部職員の姿勢や能力を問題にしていることは示唆的である。
(平成19年10月12日財政制度等審議会財政制度分科会財政構造改革部会資料から抜粋)
(注2)平成20年度予算編成の基本的考え方について(平成19年6月6日財政制度等審議会建議)
私学助成
- 「基本方針2006」に則り、▲1%の削減は行うべき。その際、私学は、学生数が減少を続ける中で、定員割れが全体の4割に上っている状況に鑑み、今後、教育内容も含め戦略的な経営の在り方を構築していくことが求められている。
- このため、一般補助においては、単に定員割れか否かというだけでなく、より一般的な私学の経営・財務状況を表わす指標を用いるなど、その状況を配分に反映させ、経営の効率化に資するような改革を推進、特別補助については、経営戦略を明確にする私学支援への改革を推進する必要。
- 所得要件が緩く、親の世代に当たる40代、50代の世帯の概ね7~8割が貸与の対象となり得ること、貸与率は、10年前には大学等の学生数の1割程度であったが、近年の大幅な拡充により、既に3割となっていることなどの現状にかんがみ、「能力があるにもかかわらず、経済的理由によって修学が困難な者に対して、奨学の措置」を講ずるという教育基本法の目的から乖離しつつあり、その在り方をよく考える必要。
- これまで当審議会が指摘したとおり、金利リスク・回収リスクへの対応が急務。特に、有利子事業につき、3%の金利上限を付していること、就学中の金利分を事後的にも一切賦課しないことについては、金利上昇に伴い、他の高等教育予算を大きく圧迫する可能性や制度の持続可能性を損なう可能性があることから、その早急な見直しが必要。
- 回収強化については、貸与人員の拡充もあり、3か月以上の滞納額が大幅に増加し平成18年度末で2,000億円を超える水準(要返還債権に占める割合7.3%)に上っている。日本学生支援機構に対しては責任をもって回収に当たるよう厳しく求めたい。法的措置の一層の強化・拡大とともに、民間委託を推進する必要。また、貸し倒れによる損失を安易に国民全体に転嫁することなく、まずは機関保証の拡充を図っていく必要。ただし、その際は、機関保証が単なる債務の付け替えとならないよう、厳格な回収努力と適正な保証料率の設定が求められる。
- 科学技術予算については、これまで他の経費を上回る高い伸びが確保されており、科学技術振興費は過去10年間で1.6倍、過去15年間で2.5倍に増加。我が国における研究開発費(民間を含む。)の対GDP比は主要国中でも際立っており、科学技術・研究開発に対するインプット(資源投入)の面では国際的にも高い水準に達しているが、その投資効果については、未だ十分に示されているとは言えない状況。
- 特に、競争的研究資金については拡充を図ってきたところであるが、過大な経費の見積りや、執行の年度末集中等、予算の効率的な配分・執行に疑問を抱かせる事例も指摘されている。また、昨今問題となっている研究費の不正使用についても、対策は端緒についたばかり。
- こうした状況の中、科学技術予算について量的な拡大のみにとらわれるのではなく、投資の効率化と成果の実現を重視した、質的な改善こそが求められている。
- 特に、後年度の国庫負担をもたらす大規模プロジェクトについては、投資効果について国民への説明責任を十分に果たすとともに、一定の必要性が認められる施策であっても、その相対的な優先順位を峻別することが重要。
- 研究費についても、まずは不正対策や、不合理な集中・重複排除の取組の実効性を検証することが先決であり、予算総額の伸びを抑制しつつ、その中での直接経費・間接経費の区分の見極めや執行の効率化によって、研究支援効果を高めていくべき。
- 科学技術振興費の約7割は独立行政法人によって執行されているが、これらの中には、事務系職員を中心として給与水準が高い法人も多くみられる。国家公務員の総人件費改革を踏まえ、国民の理解が得られる適正な給与水準とするよう聖域なく徹底した効率化を進めるべき。
◇
納税者の立場としては、建議の内容は当然のものとして受け止めることができます。
国立大学は、平成16年度から始まった中期目標期間(6年間)の業務実績評価を、中期目標終了(平成21年度)を待たずに、平成20年度に前倒しで受けなければならないことになっています。
これは、評価結果を平成22年度から始まる次期中期目標期間の運営費交付金の算定に反映させる必要があるためで、実質的には、平成19年度までの4年間の実績の評価によって次期中期目標期間の運営費交付金の配分額が決まってしまうことになります。
6月建議に続くこのたびの建議の内容は、次期中期目標期間における国立大学に対する運営費交付金の削減をねらった財務省の巧妙かつタイムリーな作戦なのであり、未だ生ぬるい体質の国立大学に対する国民的批判や、国立大学に対する運営費交付金の配分の在り方に関する議論を醸成し、歳出削減の切り札にしようとしているものです。
国立大学に関する議論や報道は、国立大学に対する国民の興味・関心が高まるという意味で、国立大学の法人化が国民的議論にならなかった、あるいはそうすることができなかった私達大学側の反省に立てば、大いに歓迎すべきなのかもしれません。
しかし、現在財務省が進めようとしている歳出削減の手法は、「高等教育に対する公財政支出が先進国中で最低である」という我が国の財政政策の欠陥に目をつぶり、真剣に議論し早急に解決しなければならない教育予算の拡充という政策課題から逃げているだけでなく、経済的弱者でも良質な教育を受けることができるという教育の機会均等を我が国で唯一果たし得る国立大学の存在意義や、使命・役割をほとんど無視し又は誤解して行われているものではないかと思います。
また、第1期中期目標期間の途中であるこの時期に、法人化そのものの検証もないままに、次期中期目標期間を見越した経済原理・財政原理の側面のみからの議論が財務省を中心とした政府レベルで進んでいることは国立大学として、あるいは国立大学の運営資金を負担している国民として納得してはならないことであろうと考えます。
現在財務省主導で行われようとしている政策の行き着く先は、毎年減額され続けている国立大学への運営費交付金をこれまで以上に削減することであり、結果として、大学間格差が拡大し地方大学が切り捨てられることになることは明白です。
さらに、国立大学への資源配分を極端な競争原理により行えば、現在設置されている国立大学の約半分が経営破綻するという財務省の驚くべき試算が現実のものとなりかねないばかりか、引いては国立大学の設置形態そのものの危機となり、法人化の際に危惧された国立大学の民営化論に再び火がつくことになるでしょう。
国立大学に十分な資金を与えないということは、国立大学の設置者である国が高等教育に関する国民への責務を自ら放棄したことになるのではないでしょうか。
*1:2006年11月から12月にかけて、全国立大学と外部人材(経営協議会学外委員、学外理事、監事、経営スタッフ、事務組織における外部専門家)に対しアンケート調査(「国立大学法人における外部人材活用方策に関する調査研究」結果から抜粋-立命館副総長、立命館大学教授(高等教育政策論、大学経営論)本間政雄)