2007年11月29日木曜日

大学教育の質の保証

大学再生 勉学意欲引き出す教育を(平成19年11月26日 産経ニュース)

大学教育について、文部科学省の中央教育審議会が卒業認定の厳格化など抜本改革を検討している。学生の質や意欲の低下が心配されるアンケート結果もでている。全入時代を迎え、高等教育の質向上を真剣に考えるときだ。

「入るのは難しく出るのはやさしい」「受験勉強はするが入学後は勉強しない」という日本の大学、学生の実態は以前から批判されてきた。

中教審では10年前の旧大学審議会時代、授業に出なくても「優」が取れる大学教育には警鐘を鳴らし、単位認定の厳格化などを求めた。

その後、大学によっては、取得単位の平均成績が一定基準に満たないと進級させない米国型の「GPA(グレード・ポイント・アベレージ)」を導入するといった取り組みもみられる。
だが、成績が悪ければ退学を勧告する厳しい姿勢の大学は一部だ。大学は変わっていないという不信が強まり、逆に大学生の質低下への懸念はさらに広がっている。

総務省などの調査*1によると、学生の学習時間は1日平均3時間足らずで、学外での予習勉強は「ほとんどしない」学生が半数にのぼる。海外の大学生では考えられない数字だ。

東京大学の研究グループが全国の学生を対象に実施したアンケート*2では、「授業はきっかけで後は自分で学びたい」という回答は約25%にすぎず、「必要なことは授業のなかですべて扱ってほしい」が約74%と圧倒的に多かった。「難しくてもチャレンジングな授業」を敬遠する傾向もでた。

学生を受け入れる企業側には大学教育への不満が強い。むしろ期待しない風潮の方が定着しつつある。

就職活動も早期化し、4年生の初めには内定してしまう。こうした状況にあって、大学で何を学ぶか、高等教育のあり方そのものが問われている。
中教審小委員会が卒業認定の厳格化などを提言した報告の中では、就職を過度に意識するあまり、大学が資格取得や専門学校のような教育に走る傾向にくぎをさしている。

大学は「入るのもやさしい」という全入時代を迎え、各学部・学科が教育方針を明確にして卒業させる責任がより高まっている。大学本来の責任と教育内容を再考してほしい。


厳格な成績評価


全入時代を迎えた今、我が国の高等教育の将来や、社会を支えることとなる人材の養成を考える上で、避けて通れないのが「大学教育の質の保証」の問題であり、中教審や文科省が現状に懸念を持ち、将来に向けた対応策を真剣に考え始めたことはとてもよいことではないかと思います。

でも、この課題、上記記事でも触れてありましたが、実は10年ほど前の大学審議会(現在の中央教育審議会)答申でしっかり指摘されていることなのです。
大学現場ではそれなりの工夫や改善が図られてきていると思われますが、取組みの遅れについては十分反省すべきなのかもしれません。

この大学審議会答申*3のうち、関係部分をご紹介します。


教育方法等の改善-責任ある授業運営と厳格な成績評価の実施-

1 授業の設計と教員の教育責任

我が国の大学制度は単位制度を基本としており、単位制度の実質化は教育方法の改善にとって重要な課題である。
現在の単位制度は、教室における授業と事前・事後の準備学習・復習を合わせて単位を授与するものであり、学生の自主的な学習が求められる。
このため、教室における授業だけでなく、授業の前提として読んでおくべき文献を指示するなど学生が事前に行う準備学習・復習についても指示を与えることが教員の務めである。
このことについて、大学当局はもとより各教員が十分自覚して授業の設計と学習指導を行うことが必要である。
同時に、学生の側においても主体的に学習に取り組むことが求められる。

2 成績評価基準の明示と厳格な成績評価の実施

大学の社会的責任として、学生の卒業時における質の確保を図るため、教員は学生に対してあらかじめ各授業における学習目標や目標達成のための授業の方法及び計画とともに、成績評価基準を明示した上で、厳格な成績評価を実施すべきである。
なお、厳格な成績評価の実施の結果、留年者による収容定員超過が生ずる可能性があるが、こうした定員超過については大学の設置認可や私学助成の際に弾力的に取り扱うことが適当である。

3 履修科目登録の上限設定と指導

学生の履修科目の過剰登録を防ぐことを通じて、教室における授業と学生の教室外学習を合わせた充実した授業展開を可能とし、少数の授業科目を実質的に学習できるようにすることにより、単位制度の実質化を図る必要がある。
このため学生が1年間あるいは1学期間に履修科目登録できる単位数の上限を各大学が定めるものとする旨を大学設置基準において明確にする必要がある。
また、個々の学生に対して履修指導を行う指導教員等を置くことも重要である。

4 教員の教育内容・授業方法の改善

各大学は、個々の教員の教育内容・方法の改善のため、全学的にあるいは学部・学科全体で、それぞれの大学等の理念・目標や教育内容・方法についての組織的な研究・研修(ファカルティ・ディベロップメント)の実施に努めるものとする旨を大学設置基準において明確にすることが必要である。
なお、個々の授業の質の向上を図るに当たっては、シラバスの充実等の取組が重要である。

5 教育活動の評価の実施

教育の質の向上のため、自己点検・評価や学生による授業評価の実施など様々な機会を通じて、継続的に大学の組織的な教育活動に対する評価及び個々の教員の教育活動に対する評価の両面から評価を行うことが重要である。
その際、教室における授業及び教室外の準備学習等の指示、成績評価などの具体的実施状況を評価の対象とすることにより、単位制度の実質化と教育内容の充実を図ることが重要である。
また、教育活動の在り方については、卒業生が働いている職場など外部の意見も聞き、それを踏まえて更なる改善につなげていくことが有効である。

6 学生の就職・採用活動に当たっての大学及び産業界の取組

大学と産業界は、学生の就職・採用活動が秩序ある形で行われるよう、適時、情報交換等を行うとともに、それぞれ適切な取組を進めることが重要である。
大学は、学生の卒業時における質の確保を図るため、教育内容及び教育方法の改善を進め責任ある授業運営を行うとともに、学生が自己の責任において主体的に就職活動を行えるよう就職指導の充実に努める必要がある。
また、産業界においては、大学の教育活動を尊重し、可能な限り休日や祝日等に採用活動を実施するとともに、過度に早期の採用活動を行わないよう期待する。
さらに、採用に当たっては、学校歴ではなく学生の大学における学習歴を一層重視した人物・能力本位の採用の取組が更に進められるとともに、男女雇用機会均等法に沿い、女子学生の雇用の機会均等が図られることを期待する。