2007年11月26日月曜日

科学技術の振興

「研究開発人材」5年で質量とも低下 文科省調査

国内の研究開発人材が、この5年で質量ともに低下していると、第一線の研究者が感じていることが、文部科学省科学技術政策研究所の意識調査で分かった。
国は96年から5年ごとに科学技術基本計画を立て、10年間で科学技術分野に約38兆7000億円を重点配分してきたが、人材育成に関しては期待したほど成果が上がっていないようだ。

調査は昨年11~12月、大学の学長や研究所の管理職、基本計画で重点の置かれた生命科学や材料科学、エネルギーなど8分野の一線の研究者ら約1400人に実施。研究資金や人材、産学連携などの現状を質問し、約1200人からの回答を分野ごとにまとめた。

研究者の数や質を5年前と比較する設問では、「質が上がった」という分野は皆無。
情報通信やものづくり、エネルギーなど5分野では「やや低くなった」と評価された。
研究者の数もほとんどが「横ばい」か「やや減った」とされた。

自由記述では、「ポストの減少で数も質も劣化」(環境)▽「博士号取得者は増えたが、全体として質は低下」(ナノ・材料)▽「分野内の領域ごとに偏りがある」(生命科学)--などの回答があった。

同研究所の桑原輝雄・総務研究官は「現場の実感では、政策の効果が十分に表れていないと受け取れる。
今後、聞き取り調査などで理由を探りたい」と話している。

現在必要な取り組みとしては、各分野とも「人材育成と確保」がトップ。
特に、基礎研究を担う人材育成が急務とされた。
また、若手育成では、博士やポスドク(任期付き博士研究員)の就職支援を求める声が多かった。(平成19年11月23日付毎日新聞)


科学技術基本計画の成果は

平成7年11月、「科学技術基本法」という法律が制定されました。

この法律は、議員立法により全会一致で可決成立した法律で、21世紀に向けて我が国が「科学技術創造立国」を目指して、科学技術の振興を強力に推進していく上での大きなバックボーンとなるものとして作られました。

また、この法律の制定を受け、平成8年7月には「科学技術基本計画」が策定されました。

これは、科学技術の振興に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るための基本的な計画で、現在、平成18年3月に作られた第3期計画により関連施策が進められています。

この「科学技術基本計画」に盛り込まれている施策の一つに、「大学・大学院等の研究施設及び研究設備の拡充・高度化、老朽化対策等」があります。

科学技術基本法や科学技術基本計画が策定された当時の大学、特に国立大学の研究環境は極めて劣悪で、経年20年以上の建物は、全体の49%(平成6年)もあり、老朽化が著しく進んでいました。

参考までに、朝日新聞発行の「アエラ」の記事の一部(平成3年)をご紹介しておきましょう。

=頭脳の棺桶国立大学=

国立大学が、日本の繁栄から、取り残されている。

廊下で実験する狭さ、資料室に虫がわく汚さ・・・。そんな劣悪環境の中で、日本の頭脳が、疲弊しはじめている。

日本は急速に豊かになったが、その豊かさは、国立大学を素通りしてしまった。

その繁栄と高度技術社会の明日を支える基礎研究と教育の場所は、まるでタイムカプセルをのぞくように、どこも、狭く、古く、雨漏りがし、その分、士気が低い。

時代に見合った研究設備の購入、そのための施設の拡張どころか、老朽施設の改修も、ほとんどなされていない。

国立大学のあえぎは、文部省予算の推移を見れば、一目瞭然である。

国立大学に高等専門学校と共同利用機関を加えた計168の「国立学校」の施設整備費は、昭和54年度をピークに激減。平成3年度の898億円は、物価上昇を勘案すると、昭和39年度(261億円)の水準さえ、大幅に下回っている。

「文部省予算は、人件費の割合が大きい。マイナスシーリングで総枠が抑えられ、物件費にしわ寄せがきた。大学の施設は、橋や道路と違って、議員さんにとっては、票にならないですからねェ。学者先生たちも、最近は少しは動いてくれますが、とても圧力団体にはならないのですよ。」と文部省課長。


以上のような状況からの早期脱却や科学技術創造立国を目指した科学技術政策が、これまで、厳しい財政事情の中、膨大な税財源を投資し進められてきたわけですが、冒頭の記事によれば、「モノの豊かさによってヒトを育てる」ことはできなかったようです。


財政制度等審議会の建議


現在の科学技術政策に対する一つの検証結果が、上記記事を裏付けるように、去る11月19日にとりまとめられた財政制度等審議会の「平成20年度予算の編成等に関する建議」において示されています。


科学技術予算については、これまで他の経費を上回る高い伸びが確保されており、科学技術振興費は過去10年間で1.6倍、過去15年間で2.5倍に増加。

我が国における研究開発費(民間を含む。)の対GDP比は主要国中でも際立っており、科学技術・研究開発に対するインプット(資源投入)の面では国際的にも高い水準に達しているが、その投資効果については、未だ十分に示されているとは言えない状況。

特に、競争的研究資金については拡充を図ってきたところであるが、過大な経費の見積りや、執行の年度末集中等、予算の効率的な配分・執行に疑問を抱かせる事例も指摘されている。

また、昨今問題となっている研究費の不正使用についても、対策は端緒についたばかり。

こうした状況の中、科学技術予算について量的な拡大のみにとらわれるのではなく、投資の効率化と成果の実現を重視した、質的な改善こそが求められている。

特に、後年度の国庫負担をもたらす大規模プロジェクトについては、投資効果について国民への説明責任を十分に果たすとともに、一定の必要性が認められる施策であっても、その相対的な優先順位を峻別することが重要。

研究費についても、まずは不正対策や、不合理な集中・重複排除の取組の実効性を検証することが先決であり、予算総額の伸びを抑制しつつ、その中での直接経費・間接経費の区分の見極めや執行の効率化によって、研究支援効果を高めていくべき。

科学技術振興費の約7割は独立行政法人によって執行されているが、これらの中には、事務系職員を中心として給与水準が高い法人も多くみられる。

国家公務員の総人件費改革を踏まえ、国民の理解が得られる適正な給与水準とするよう聖域なく徹底した効率化を進めるべき。


我が国の科学技術政策が真の成果を得るためには、霞が関の政策立案者の視点と、研究現場である大学などの力とが相まって進められていくことが何より必要であり、そのためには、現場が今何を必要としているのかを霞が関は十分に汲み取り政策に反映させていくことが重要であり不可欠なことだということではないでしょうか。