異動や昇進の評定を行うときに、五年も十年も昔のことを引き合いに出して「あの人は前にこんな失敗をした。あんな不行跡があった。だから見合わせよう」と言う。あるいはなにか革新的な仕事をやらせようとするときに「あの石頭の連中にはとても受け入れられまい。どうせいってもむだだから、この案はとりやめよう」という。
ひとたび、才能はコレコレ、性格はシカジカと評価してしまうと、終生それがついてまわるのである。
このような発想には根本に人間不信感があるのだが、たとい不信感を与えた事実があっても、人間は変わりうるという信念を欠いている点が重大だ。人によっては、失敗や不行跡を契機として転身することもあるし、旧弊をかなぐりすてて翻然と悟ることだってある。とにかく、人間は変わるという一事を忘れてはなるまい。