経営者にとって最も大きく重い負担は、人事である。経営者は確かに人事権をもつ。しかしそれは独裁権であってはなるまい。それはいわば、神の前に頭を垂れ畏れ謹んで行使すべき権限なのだ。
人間はいかに上位者であっても、完全人ではない。上位者にも判断の誤りというものはある。ひとりの上位者の判断によって、ひとりの人間の一生を左右するのは、神をも畏れぬ所業といわねばならぬ。それゆえ、人事はひとりで決めてはならぬ。
私は、人事は広くディスカスして決めることにしている。どの階層の人であろうと、すべての関係者を集めて、その人事がその人を、今まで以上に生かすことになるのか、更に新生面を開くことになるのかを、子細に討議する。衆智をあつめて誤りなからんことを期するのである。
しかし、衆智をあつめて最後に決める責任はトップにある。トップはそのとき、神に祈る心境で人事を決するのである。