2012年8月2日木曜日

教学マネジメントの現状と課題(3)

第3回目は、広島大学高等教育研究開発センター大場淳准教授、福留東土准教授、秦由美子教授です。資料と照らし合わせながらお読みいただくと理解が深まるのではないかと思います。

資料「諸外国の大学の教学ガバナンスに関する調査研究-米国・英国・フランス-」


(大場淳准教授)

私ども広島大学グループは、諸外国の大学の教学ガバナンスに関する調査研究を文部科学省から委託を受けまして、昨年12月から3カ国を訪問する形で実施しております。今年の11月まで予定されておりますので、本日は途中経過ということで御報告させていただきます。この目的のために3カ国の大学を複数訪問して、先行研究と突き合わせながら、ステークホルダーも含めて、なるべくたくさんの人に話を伺いました。ガバナンスの調査研究といいますと、組織の在り方と意思決定過程、すなわち組織の見えない部分が対象になりますが、この見えない部分をいかに明らかにしていくか。そういった観点から調査させていただきました。

この3カ国について、順番にアメリカ、イギリス、フランス、そして最後にまとめをさせていただきたいと思います。まず、アメリカです。

(福留東土准教授)

それでは、アメリカにつきまして、福留から報告致しますが、実は今の小林委員のお話と重なるところが多いので、できるだけポイントのみを述べて、英仏2カ国のほうに時間を残したいと思います。

我々は、特に教学のところに焦点を当てて調査するようにということでしたので、本日はそこに特化した話をしたいと思います。

ただ、その前提として、大学ガバナンスの基本構造がどうなっているのかということは大事だろうと思います。スライドの4枚目になりますが、アメリカの大学ガバナンスの主体には大きく言って、理事会、アドミニストレーション、教員の三つが存在しています。

アメリカの高等教育研究者と議論をすると、やはりアメリカでもこれら主体間の緊張関係、あるいは葛藤関係が常に存在していて、必ずしもスムーズな形で三者が連携しているわけではない。しかし、そういった葛藤や緊張を回避するのではなくて、それを前提にしていかに乗り越えて大学を運営していくかというところが非常に重要だということです。いわば立場の違う者たちのいろいろな視点を活かしながら、いかにそれを統合し、乗り越えていくか。

大学内部のガバナンスについて、よく学長をはじめとする執行部のトップダウンを強めるべきである、あるいは大学である以上、教授会のボトムアップが重要である等の言われ方をします。これらは、おそらく両方重要なので、どちらかということではないですし、ガバナンスの議論というのは、どうしてもどちら側がどれだけ強いのかという話に陥りがちなのですが、どちらがどれだけ強いのか、あるいはどちらを強めるべきなのかという議論はあまり生産的ではないのではないか。また、学長のリーダーシップということが非常に強調されて、これも非常に大事なことだと思うのですが、学長のリーダーシップとトップダウンとは必ずしもイコールではないという点にも留意する必要があります。

大事なことは、もちろん国によっていろいろな状況の違いはあるわけですが、大学としての基本的な条件は何なのか。その中で、立場の違う主体が高いレベルでガバナンスに関与できる体制を整備することが重要なポイントなのではないかと思います。

次に、先ほど、小林委員からAcademic Senateのお話がありました。私も昨年、UCバークレーにしばらく滞在して、高等教育研究者や学内の教員といろいろ議論させていただきましたが、大学運営を語る上で非常に大事な組織である。しかし、日本では、これまでほとんど紹介されてこなかったと思います。私もこのあたりに着目して、複数の、タイプの異なる大学を調査対象にして現在研究を進めております。

下のところに数字を少し出しておきましたが、これは、南カリフォルニア大学の高等教育研究センターの調査で、ほとんどの大学にこういった組織が存在しているということです。

次の6枚目のスライドは飛ばさせていただきます。次の表も南カリフォルニア大学の調査に基づくデータですが、先ほど小林委員から別のデータソースの御紹介がありましたが、内容としてはほぼ同じようなものです。こちらのほうは研究大学とはタイプの異なる大学が調査対象に入っていますが、やはり学士課程カリキュラムというところがSenateの一番重要な役割だということです。

次の共同統治、Shared Governanceのところも、今、小林委員からお話がありましたが、スライドの下のほうの内容を補足させていただくと、よく教員のガバナンス参加ということを論じるときに、教授会自治という理解のされ方をするのですが、私の理解では、Shared Governanceという概念と日本でいう教授会自治とは少し異なるのではないかということです。

二つほどありまして、Academic Senateというのは全学的な観点からなる管理組織です。学科の中にはそれぞれの管理組織があり、学部の中にもある。それらをさらに補完する形で、全学レベルでの教員による管理を行う。そういう組織であるということです。それから、意思決定はあくまで共同で行われますので、評議会の決定というのはもちろん重要なのですが、最終的にはアドミニストレーションとの共同で意思決定が行われるということです。

それから、我々の調査は、特に教学のところに焦点を当てるということでしたので、学士課程カリキュラムについて、このSenateがどういう役割を果たしているか。次のスライドですが、今の小林委員の資料の中にもありましたとおり、学士課程教育とか、カリキュラムを担当する専門の委員会があります。次に書きました学士課程担当オフィスがアドミニストレーション側で、多くの場合、バイスプロボストが長を務めているわけですが、常にそことの連絡や相互の調整を行っています。

先ほどのお話にもあったようにプロボストであったり、バイスプロボストであったり、あるいはオフィスの担当職員が職権上の委員としてSenateの委員会に参加している場合も非常に多い。そこで教員間の議論を交わしつつ、アドミニストレーションとの意思疎通も図ることができるということです。

それから、学士課程関係の専門委員会は、例えば科目を新しくつくったり、プログラムをつくったり、大幅な変更をしたりする場合には、全学レベルでの委員会でチェックをかけていくということです。ただ、学科の専門家集団としての意見は基本的には尊重されます。しかし、こういった全学レベルでのチェックを重ねることで、全体としてのすり合わせを行います。あるいは、こういった仕組みがあることによって、学科から、全学でのチェックに耐えうるよう、きちんと質の維持された提案が出てくるということにもなります。基本的に科目の内容は、それぞれの専門家集団である学科、あるいは教員にかなりの程度任されています。

こういう全学委員会で何をやっているかというと、科目の内容を逐次チェックするというよりは、授業が適切な形態で行われるかどうか、あるいは単位数にふさわしい学修量がきちんと確保されているか、あるいは全学的に見たときに、他の科目との関係がどのようになっているか、類似の領域との重複がないかどうか、そういったところがチェックされるということです。

また、このチェックの際には、大学によって多少違うのですが、コースアウトラインというものが用いられる大学もあります。これは、単純に担当する教員が書く場合もあるのですが、学科レベルで承認を受けた上で全学に出される場合もあります。これが科目の内容を規定していく。つまり、教員が個人で科目の内容全てを決めるのではなくて、コースアウトラインで科目のおおまかな内容が担保された上で、さらにシラバスには教員が自分の授業の具体的内容を書き込んでいくという2段階でのやり方がとられているということです。

あと、私が調査した中での事例を後半のスライドにいくつか挙げていますが、こちらは資料として御覧いただければと思いますので、アメリカの報告はこれで終わります。

(秦由美子教授)

それでは、引き続きイギリスの事例を説明させていただきます。資料1と資料2を御覧いただきながら、パワーポイントを御覧ください。

ず、最初のパワーポイントです。イギリスには多様な大学がありますが、今回の調査では、それらを4つに分類いたしました。大学の対外的自律性の欄を御覧ください。大学の対外的自律性は、カレッジガバナンスから理事会ガバナンスに移行するに連れて弱くなっていきます。しかし、米国型と理事会ガバナンスを除き、大学はいまだ自律性と高度の自治を担保していると考えて結構かと思われます。

最後の理事会ガバナンスの大学につきましては、92年以前はポリテクニックとして地方自治体の管理自律性運営下にあった名残から、自律性とはほど遠い状態にあり、逆に産学連携に力を入れ、できる限りの研究用外部資金の獲得を目指しております。

次のパワーポイントの学長の欄を御覧ください。これは、学長及び副学長とお考えください。12年ほど前からですが、副学長以上の職につきましては、ヘッドハンティング会社を活用することが通例となってきております。

また、最後の教学支援職員の欄を御覧ください。これは、Key Organガバナンスと米国型ガバナンスを実施している大学では、スタッフディベロプメントも進んでおり、教学支援に前向きです。また、今次調査でも様々な職員に面談いたしましたが、カレッジガバナンスを行っておりますオックスフォードでは、既にSDも経験し、担当部署の豊富な経験を有した、また、自らも研究を行ってきたような人材を集めております。

それでは、次のパワーポイントを御覧ください。①、すなわちカレッジガバナンスの大学の教育の質の維持のための支援体制といたしましては、どの大学も独自の学位授与機関である大学が、高等教育資格枠組みを参照しながら、学士課程、修士課程、博士課程それぞれのカリキュラムを決定しておりますが、学位の水準と教育の質の担保にはQAAとは異なり、毎年、大学独自で学外試験委員による報告、内部試験委員による学生のアウトカムの詳細な報告、また、6年ごとの学科単位での審査委員会によるレビューが実施されているという、この三重構造が教育の質の担保に重要な機能を果たしております。

訪問しましたオックスフォードでは、ちょうどビジネススクールのレビューを終了したところでして、そこでは学外試験委員としてハーバード大学の名誉教授・学部長、バージニア大学の学部長、ロンドンビジネススクールの教授などが招かれまして、国際的な水準が維持されているかどうかというものが審査されていたということでした。

そして、最後のスライドですが、⑤の理事会ガバナンスの大学の教育の質の維持のための支援体制としましては、それ以外の大学と同様で、質の保証のための取組がなされているということが一言でまとめられると思われます。

(大場淳准教授)

次いで、フランスですが、ごく簡単に説明させていただいて、まとめに入りたいと思います。

フランスの特徴の一つは、学長が管理運営評議会によって選考されることで、学内の構成員の代表で構成される評議会が意思決定の中心をなしているということであります。その決定を受けて学長が大学全体をまとめていく、そういった役割分担があることがフランスの特徴の一つになります。

フランスの大学の教育については、基本的に大学教育自体が国に直接統制されていて、プログラム自体も4年か5年の有効期間しかありません。高等教育が公役務として位置付けられておりますので、国が統制を強く行っている、そういった制度のもとの大学ガバナンスになります。ですので、大学のガバナンスの在り方の大枠自体は国で決められていますが、反面、各大学の特徴を反映して、様々な在り方も見られていることがわかっております。

最近の変化としては、大学教育自体が部局単位であったのが、教育チームといった形で部局の横断的な取組も見られますが、基本的には学部的な組織の自治体制が強く、それを基礎として大学運営がなされているということであります。

まとめに入ります。大学は、異なる学問分野から構成される、非常に部局の独自性が強い組織です。しかしながら大学の社会的な責務、アカウンタビリティーはどこの国でも問われていて、部局の協力を取り付けつつ、それをどのように果たしていくか。そこに学長をはじめとする大学の執行部のリーダーシップが問われます。

ですので、このリーダーシップの中身というのは、先ほどの上山教授の言葉をかりれば、なだめすかすとか、いろいろな配慮を行う、こういった内容になるのではないかと思います。学長の権力、権限という観点から見ると、日本の大学、特に国立大学の学長は大変強い権限を持っていますが、調査対象の3国ではそこまで強い権限は必ずしも持っていない。学内でいかに調整していくか、学内の緊張関係をいかになくしていくかということが学長の役割になっているように思います。

アメリカの場合ですと、小林委員から話があったようにサポート体制がしっかりしている。イギリスは、それに準じた形になりつつあるというものの、フランスについてはそれがない。もっともアメリカの場合、サポートシステムに相当人件費がかかっていて、非常に高コストな体制ということがわかります。

ですので、経営でも教学についても同様ですが、大学のガバナンスの在り方は非常に多様であります。先ほど小林委員からお話があったとおり、いろいろな調査結果から見ても、ガバナンスの公式な在り方、組織の在り方、あるいは権限の配分の在り方とパフォーマンスとは直接関係がありません。いかに組織文化的な見えないところを明らかにするか、大学のどういった在り方が望ましいかということを考えていくことが、望ましいガバナンスの在り方を考える上でこれからの研究課題であろうかと考えている次第です。


【質疑応答】

(中西委員)

今、大場准教授にいろいろ御説明いただいたのですが、特にアメリカとフランスを比較してどういうことが言えるかということをお伺いしたいのです。

今もおっしゃったようにアメリカというのは、どちらかというと、多様性はありますが、東にあった大学に追いつこうとして、カリフォルニア大、西のほうは科学を中心に大変発展してきたので、どちらかというと研究面が多くて、教育もしていますが、研究面ということからのガバナンスがものすごく大きく出ていると思うのです。それと比較しましてフランスは、大学は教育が多くて、研究は研究所というように、割合分かれているところがあると思うのですが、多様性といいながら、アメリカもカリフォルニアのほうはどちらかというと研究大学の色彩が強い。

そういうところから見ますと、英国、フランスと御覧になってきたわけですが、フランスのガバナンスはアメリカと比較して、特に教育ということに力を置いたガバナンスの特徴というのを私、聞き漏らしたかと思うのですが、ちょっと御説明いただければと思います。

(大場准教授)

その前に林委員のご質問の第3点目、私のほうから若干お答えさせていただいて、それから今の質問のほうをお答えしたいと思います。

日本と欧米を比べた場合に、やはり日本の学生というのは中等教育の卒業資格を国家が認定していないということから、入ってくる段階から大分差があるということが1点です。これは、相当に大学教育を左右しています。アメリカは、そういった点では全入学はあるのですが、アメリカの大学はたくさん落第させます。日本の場合は、経営の問題もあって、現実的に落第は大変難しい。そういった中で学生を縛りつけるものがないという問題、さらには就職の問題があって、欧米の場合には学位を取ってから就職活動を始めますので、それに向かって勉強するモチベーションが高い。

ところが、日本の場合には早ければ2年生、あるいは3年生の初めから就職活動を始めて、勉強に対するモチベーションが下がる、後は4年生で卒論を何とかやる状態です。日米比較した場合に、勉強時間は1年生、2年生ははるかに少ないのですが、4年生になると日本のほうが多くなるという状況が見られるということで、やはり勉強に向けたモチベーションが低いことが大学の教育を大分左右しています。ガバナンスの問題もあるのですが、そのあたりを改善していくほうがずっと効果が高いのではないかと私は思っています。

次にアメリカと比較してフランスの話とのことですが、フランスにおいて研究と教育が分かれているのは、研究振興機関、例えばCNRSとかINSERMといった特別な研究支援・推進組織があって、そこが大学の中で研究員を雇って、大学の中に配置しているといった仕組みがあるからです。研究員が大学内で研究をやっているといった、大学と別の系統の者がいるということが大学のガバナンスに大きな影響を与えています。そういった研究員の威信は大学教員より高くて、教育にはあまり従事しない、せいぜい従事するのは研究に直結する博士教育だけです。大学の中での両者間での意思統合が非常に難しいという問題がずっと意識されていて、なるべく大学内で統合していこうという動きが近年見られています。

その背景には、大学ランキングを上げていくことがあり、政策の課題になっています。大学外に雇われている教員の研究業績はランキングにあまり反映されないという問題もあって、そういった下心もあるのですが、大学の中に入れていくという政策がとられています。

ただ、大学のガバナンスの観点から言うと、大学全学として教育をいかに改善していくかというのは、あくまでもアカウンタビリティーの観点から、特にフランスの場合には政府からの要求が強く、大学の予算の7、8割は政府からの予算ですので、政府の意向を反映するという形での対応が中心になります。やはり部局と執行部との対立関係というのはフランスもアメリカと同様にあるわけで、これをいかに解消して対応していくかというのが執行部の課題、学長等のリーダーシップの問題であろうかなと思っています。