2012年11月2日金曜日

大学改革の行方

民主党の大学改革ワーキングチームが策定(平成24年7月20日)した報告書から、気になった部分を抜粋してご紹介します。


今、成熟社会・知識社会において、我が国は、「知的創造立国」の時代、高等教育機関や学校が社会を牽引する時代になっている。民主党大学改革ワーキングチームは、さらに「頼れる(伸ばす)学修大学(ラーニングユニバーシティ)、「強い研究大学(リサーチユニバーシティ)」を形成するための次のステップに向けた戦略について審議を行った。

その結果、今直面する課題への対応だけではなく、これから5年から10年先も見通した上で、成熟社会である我が国を高等教育機関がリードするための国家戦略としての大学改革を中心に以下のとおり取りまとめた。

各論4 日本の高等教育機関の改革のための基盤形成

(4)高等教育の機能別分化と流動性の向上

大学教育の多様な機能を発揮するためには、個性や特色を明確化していく必要がある。大学といっても、真理を探究する人材を育成するための大学もあれば、高度の専門能力を身につけ、職業資格を取得するための大学もある。例えば、これから雇用増が見込まれる医療・福祉・保育・教育などの分野では、その職につくための資格として、そもそも大学卒や大学院卒を前提・標準としているものが数多くある。情報通信分野についても、大学卒業が採用の標準となっている産業分野も増えている。

このようにそれぞれの大学の機能を明確にし、機能別分化を進めることは、第一に、高度な知識基盤社会に見合ったユニバーサル・アクセスの環境、すなわち世界の常識となっている「いつでもどこでもだれもが高等教育を受けられる」環境を整備することにつながる。特に、これからの時代は、高校を卒業して一度社会に出た人がもう一度大学・短期高等教育機関に入って学び直すことが就業構造の変化に対応していくためには不可欠であるにもかかわらず、大学生のうち25歳以上の平均在籍比率は、OECD諸国の平均は20%だが、我が国はわずか2%という状況にある。大学には社会人あるいは留学生の存在が非常に大事であり、この世界の常識を日本社会の常識にしていかなければならない。日本の大学教育を「少数で特定の層」に限定するのではなく、知的基盤社会のグローバル化に耐え得るよう大学教育の質の向上を図りつつ、個性や特色ある多様な大学・短期高等教育機関が知的市民を「分厚い中間層」として幅広く育成することが、我が国の高等教育政策上の重要課題である。その場合、工業社会時代の職能や技術の伝授・再訓練の場にとどまっている職業能力開発のリソースを省庁の壁を越えて大学・短期高等教育機関を舞台に産業構造の変化に応じたケア人材や新しいタイプのホワイトカラーの養成に活用することも必要である。

第二に、教員や学生の国内外にわたる流動性の向上も要請される。教員や若手研究者の海外への派遣や外国人研究者の受入れによる研究の国際力の向上、機能別分化が進む大学間の教員や学生の移動、特に、学生が渡り鳥のように大学を移動することは若者の自立と主体性の育成の観点からも有益であり、大学の定員管理の柔軟化などの検討が必要である。

大学が個性・特色を明確化し、その機能を果たしていくためには、大学においても大胆な経営を行っていくことが求められる。学内においては既存の組織について不断の見直しを行っていく必要がある。また、大学間の連携をこれまで以上に強化することによって経営資源を持ち寄り、単独の大学ではなしえないような教育研究環境の改善に向けた投資が可能になる。大学間連携を大胆に進め、大学の強みを結集することにより、結果として個々の大学の機能強化が図られる。効率的かつ大学の質が向上する大学運営への答えは、大学の統廃合ではなく、大学間連携であると考える。そのため、例えば、国内外の大学等と連携した教育研究を支援することはもとより、国立大学が一法人で複数の大学を設置することや、国公私の設置者を問わず複数の大学が出資することによって共同の教育研究組織を立ち上げることが可能になるような環境整備を検討することが必要である。

(7)大学マネジメントの改善とガバナンスの確立

大学のマネジメントは複雑である。なぜなら、利潤を生み出すというわかりやすい目標ではなく、人材育成、研究、社会への還元をはじめその目的が多元的であり、その成果も測り方を含めて多元的だからである。加えて、大学の構成員である教員の自律性が教育研究の成果を生み出す前提となっている。大学のマネジメントは、組織力を生かすのではなく、自律性を強みとした教員社会と向き合いながら、その能力を最大限引き出しつつ、一方で、実社会と協働していくことが求められるといった難しさと特性を有している。このような大学のマネジメントを行うためには、単に民間企業経験者を外部から迎えるというだけではなく、大学マネジメントの特性を理解し精通した「人財」を育成し、大学が配置していく必要がある。

このように、大学の特性を踏まえ活かしつつ、大学が社会のニーズを聞き、それに応えていくことは極めて重要である。これまでも、大学の経営陣は社会の動向に対して反応し、また職員も執行部を支えて連携を深めるようになっているが、一般の教員に対してどれだけ社会の動向や大学のビジョンを共有できているかが課題である。

本年3月に経済同友会教育委員会がまとめた「私立大学におけるガバナンス改革」は、大学のステークホルダーを学生・保護者・国だけではなく卒業生の9割が働く実業界や高校などより幅広くステークホルダーを意識し、社会への大学からの現状・ミッション・改革方針等の発信を強化するとともに、こうした関係者からの評価と対話と協働を深めていくという観点から的確な分析と極めて当を得た提言をなされており、この提言なども参考にしながら、私学の特色である建学の精神や多様性を十分生かしつつ可能なマネジメント改革を進め、我が国の成長と公正の鍵を担う高等教育の責任を果たしていくことが重要である。

国立大学については、法人化後、法人化のメリットを活かした組織運営ができているかについて、問い直す必要がある。特に、国立大学法人の教職員は非公務員型を採用したにもかかわらず、法人化前の給与体系が維持されている。優秀な研究者の獲得競争が世界規模で激化している中で、例えば、兼職兼業の大幅な弾力化、1年の限られた月数のみ勤務する教員といった多様なタイプの勤務体系、国の俸給表を使わない多様な給与制度など、柔軟な勤務体系、給与制度を各大学が採用することが求められる。その際、柔軟な給与体系が可能となるよう、国は、大学の教職員のラスパイレス指数に着目することを止め、世界から優秀な研究者をしかるべき処遇で迎えられるようにすべきである。

また、国立大学が自治的な運営を行っていくことに対し今後も国民の信頼を勝ち得るためには、大学の自主的・自律的な経営判断によって、社会から期待される機能を果たしていくことができるよう、国立大学の学長がリーダーシップを発揮できるような体制づくりも必要である。現在大学に置かれている理事や経営協議会、教育研究評議会がより機能するために、コーポレートガバナンスの議論も参照しつつ、大学がその実情に応じてガバナンスの仕組みを選択できるように、複数の選択肢を用意することも考えられる。例えば、学長及び理事で構成される役員会の執行権限を明確化することにより、学長を支える経営組織を強化するとともに、経営協議会などの合議体組織については、執行機関が行う大学経営に対する監査・監督機能を強化することにより経営の公正性・透明性を確保していくなど、それぞれの組織の権限と関係を明確化することも考えられる。