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寄り添うことも介護 認知症の母に学んだこと 詩人 藤川幸之助氏(2012年11月9日 日本経済新聞)
母親の介護をテーマに詩を書き続けている詩人がいる。藤川幸之助氏(50)。介護をまだ経験していない人たちは、介護の美しい部分だけをすくい取ったり、つらい部分から目をそむけたりしがちだが、藤川氏はつらいことも、楽しかったことも、すべてを詩にして伝えてくれる。藤川氏の母親は、長い闘病生活の末、先ごろ亡くなった。藤川氏の様々な詩から、「介護とは、生きるとは、何か」が伝わってくる。
「じっと見つめる」ことでコミュニケーション
- まず、藤川さんのお母様に対する思いのこもった一編の詩をご紹介します。
「そよ風のような幸せ」
母が死に向かって
一歩一歩
歩いている
私は見えない幸せを探して
一歩一歩
歩いている
時には私の道を
母の道に重ねて歩く
いつか必ずと言える
幸せが見つからない
死に向かっている母の中に
どんな幸せを
見つけていけばいいのか
母の死を見つめている私の中に
母とのどんな幸せを
願えばいいのか
食べ物を飲み込めなくなった母
やせ衰えてしまっている母
胃瘻を通すことになった母
こんな毎日に
どんな幸せが待っているというのか
死が待っているだけじゃないか
口を閉ざし、何も食べない母と
それを見て困惑している私に
寝たきりの隣のお婆ちゃんが
「心配ですね お母さんもがんばってね」
と励ましてくれた
母が私を見て笑った
そよ風のような微かな幸せを感じた
目指す幸せなどいらない
母が死にたどり着くまで
母と一緒に
生きていることに
幸せを感じていけば
これが幸せなのだ
そよ風のような幸せを
感じていけばいい
それでいいのだ
- 藤川さんのお母様は闘病の末に9月30日に亡くなられました。
(続き)