自分はどこに帰属しているのか。本土の人は普段あまり考えないだろうことを、沖縄県の多くの人々はいつも意識しているのかもしれない。次のような一文がある。
「古来琉球から息づく歴史、文化を継承しつつも、また私たちは日本の一員としてこの国の発展を共に願ってもきた」。昨年1月、県内の全市町村の首長、議長らが安倍首相に出した「建白書」の一節である。いわば沖縄の総意として、米軍普天間飛行場の県内移設断念などを求めた。
沖縄人であると同時に、日本人でもある。建白書に見られるような独特の自己像を、作家で元外交官の佐藤優(まさる)さんは「沖縄評論」と銘打つ近著で、複合アイデンティティーと呼ぶ。母が沖縄県の久米島(くめじま)出身で、自身もルーツがあると意識している。
佐藤さんは、このところ自分は日本人から沖縄人の方へシフトしつつあると書いている。普天間の県内移設を進めようとする政権の手法に、米軍基地の集中という「構造的な沖縄差別」の強化を見るからだ。
沖縄県知事選がおととい告示された。異例の保守分裂選挙である。建白書に込められていたはずの総意は、昨年来の政権の攻勢ですっかり分断された。県内移設を拒むか、受け入れるか。そこには、沖縄人と日本人という二つの自己像のどちらにより傾くかという問題も横たわっているようにみえる。
それは多くの県民にとって戸惑いに満ちた選択かもしれない。苦渋を強いているのは差別の構造であり、国策であることを忘れまい。