鳥取県に「野の花診療所」というホスピスケアの診療所があります。
この診療所の所長で、エッセイストでもある医師、徳永進さんがまだ勤務医の頃、不治の病にかかっている1人の患者さんにこんな質問をしたそうです。
「死ぬ前に何かしたい事はありますか?」
すると、聞かれた女性は、こう答えたというのです。
「道を歩いてみたい」
その患者さんはこう続けます。
「右に曲がると、スーパーがある。
いつもの買い物をして主人の酒のつまみを作る。
死ぬ前に、そんな、スーパーへ続くありふれた道をもう一度歩いてみたい」
何ということ事もない、何気ない日常が、命を支えている。
徳永さんは、患者の言葉で、その事に気が付いたと語っています。
目の見えないカップルは、いつもお互いの顔を触り合うそうです。
2人の夢は「一秒でもいいから相手の顔を見る事」。
ずっと耳が聞こえなかった29歳の女性が、人工内耳を付けて、生まれてはじめて人の声を聴く瞬間の映像を観た事があります。
医者が語りかける声を聴いた女性はボロボロと感激の涙を流し、号泣し続けていました。
ありふれた道を、普通に歩ける事。
恋人の顔を普通に見られる事。
好きな歌手の歌声を普通に聴ける事。
友達と笑いながら普通におしゃべりできる事。
普通。
普通。
普通。
それらのすべてが、実は奇跡なのですね。
時々、それを思い出すだけで、世界を見る目は必ず変わります。
◇
セラピストのひすいこたろうさんは講演会でこう語っていました。
「500億円。
誰だって欲しいですよね、500億円。
でも、もし、こう言われたら、あなたはそれでも500億円を欲しがりますか?」
「目と耳と交換なら500億円あげる」
あなたも私も、なんと、「500億円よりも価値のあるもの」をすでに持っている。
我々が普通にすごしている毎日。
病気や、事故や、天災に出会ったときに、初めてその当たり前の毎日がいかに有難かったかに気づく。
我々は、「500億円よりも価値のあるもの」をすでに持っている。
文句やグチを言いたくなることがあったら、この言葉を思い出したい。
当たり前で普通の日々をおくれることこそが奇跡。
どんなことにも感謝の気持ちを忘れない人でありたい。