2017年1月18日水曜日

記事紹介|大学の人材マネジメント

長期雇用の利点を活かしつつその問題を克服する

雇用の流動性について、大学教員はより良い研究環境を求めて大学間を移動するため、勤務する大学への帰属意識が低いといわれる。その一方で、帰属意識の問題は別にして、専門分野間、大学間、職階間で流動性に開きがあり、教授昇任以降は総じて定着率が高く、大学教員といえども年功序列的要素を含む長期雇用の傾向があることを認識しておく必要がある。また、職員については、近年、企業経験者等の中途採用も増えているが、定年までの長期雇用が概ね定着している。

長期雇用は安心して仕事に専念でき、知識・経験も蓄積されるなど優れた面を有する一方で、人事の停滞や一定の年齢・役職に到達して以降の動機づけの難しさなど、組織活力に負の影響をもたらす面も大きい。この問題の克服は大学マネジメントの重要な課題である。

雇用形態の多様化については、本連載(本誌 164号)でも取り上げたが、現在の大学は多くの非正規雇用の教職員の働きによって成り立っており、外部委託(例えば図書館や情報システムなど)への依存度も高まりつつある。特に非正規雇用の教職員の処遇は、労働法制の趣旨に則り適切に行う必要があり、正規雇用・非正規雇用・外部委託間の分担・協働のあり方は教育研究・学生サービスの質と経営効率に深く関わっている。

キャリア意識に対する共通理解がすべてのベース

大学は、国立大学職員の大学間異動などを除くと、転勤は少なく、季節性はあるものの、景気変動による業務量の増減なども少ないことから、仕事と生活を両立させやすい職場であるといえる。従って、職員の女性比率は高く、国公私立大学合わせた約8万人の事務系本務者の45%、私立に限れば男女ほぼ同数(平成24年度学校基本調査より)となっている。

一方、国公私全体の女性本務教員比率は21%、教授に限ると13%にとどまり(同調査)、外国人教員比率とともに、その引き上げが課題となっている。

このような状況の中で、役職登用を含めて女性の活躍を促し、男女を問わず仕事と生活の調和が保てる環境が整っているかについて、配置・育成・処遇、労働時間、管理監督者や職場の意識などを多面的に点検してみる必要がある。

最後に、職員のキャリア開発について考えてみたい。大学職員のキャリア意識は、就職動機と職場内外の環境・経験により形成されるものと考えられるが、個人ごとの意識の違いは大きく、そこに人材育成や組織運営の難しさがあると思われる。就職時に抱く大学職員像は時代とともに変わってきただろうし、どのような上司・先輩の下で働いたかによっても意識は異なってくる。

個々の職員が働くことの何に最も価値を置いているのか、それは仕事の与え方や処遇の仕方などで変わっていくものなのか、本人と上司の間で共通理解を図ることがすべてのベースとなると思われる。

有機的なシステムをどのように作り上げるか

多くの大学が改革の名の下に様々な施策を打ち出し、展開しているが、強固な人的基盤がなければ、それらを根付かせ、大学の価値向上に繋げることはできない。人材マネジメントの確立が急務であることは繰り返すまでもない。

教員については、自主性・自律性と教育研究の特性を尊重する観点から教授会自治が人事など重要な役割を担うことになるが、教育研究現場が抱える今日的な課題は、教員間の負担の不均衡、人事の停滞による閉塞感、管理運営業務の増大など、教授会だけで円滑に解決できるものばかりではない。若手教員が発言しにくい状況は常に起こり得るし、教員間の利害に関わる場合、部局内に摩擦や亀裂が生じることもある。

教授会が担う採用・昇任等の教員人事以外に、人材マネジメントとして何が必要かを改めて整理し直し、それらを教授会、部局長、大学執行部、法人等がどう分担・連携しながら、有機的なシステムとして全体を整合的に機能させることができるか、個々の大学の実情に即して検討していく必要がある。

そのために、例えば人事や教学を担当する理事の下に、専門分野・年代・職階などが異なる教員から成るプロジェクトチームを編成し、人事・教務部門等の職員が事務局となって、節目ごとに教授会の意見を聴きながら検討を進めるという方法も考えられる。

検討プロセス自体が経営層・教職員の育成機会

職員に関する人材マネジメントについては、職員組織の規模や経営層の関心・見識などにより、大学間で差異が生じる可能性が高い。

事務系本務者約8万人を学校数783で単純に割れば 1校あたりの事務系職員は100名程度になる。大規模校は人事制度を企画できる専任の部署を持ち、独自の人材育成システムを整備することもできるが、職員数で見る限り、それが難しいと思われる大学のほうがはるかに多い。

もちろん、規模の大小だけで育成力が決まるものではなく、経営層の関心の深さやロールモデルとなる人材の存在なども育成環境に大きな影響を与えるが、人材マネジメントをシステムとして整え、それが職員に見え、適切に運用されることで、持続的に能力を高め、引き出すことができる。

人事制度を企画する専任部署の有無に関わりなく、教員の場合と同様に、担当理事の下、部署・年代・役職などが異なる職員を集め、先進的な大学や企業の事例なども学びながら、自校にふさわしいシステムを検討させる方法もある。

節目ごとに部課長に報告し、意見を求めることで、この層の育成や意識づけに繋げることもできる。

人材マネジメントの確立をプロジェクトとして捉えることで、検討プロセス自体を経営層や教職員の育成の機会とすることもできる。その中で、雇用と働くことのこれからを考え、大学教育の改革にも活かしてほしい。