大学の事務職員等の在り方について(取組の方向性案)
1 大学の事務職員等に関するこれまでの審議の経緯
大学運営の一層の改善・充実に向けて、事務職員及び事務組織(以下「事務職員等」という。)の在り方に関しては、中央教育審議会において審議が重ねられてきた。
「大学のガバナンス改革の推進について(審議まとめ)」(平成26年2月12日中央教育審議会大学分科会)においては、大学による組織的な研修・研究(スタッフ・ディベロップメント(SD))の重要性や、教職協働により、事務職員が教員と対等な立場で大学運営に参画することの重要性などについて指摘されてきた。
また、同審議まとめを踏まえ、「大学運営の一層の改善・充実のための方策について(取組の方向性)」(平成28年2月中央教育審議会大学分科会大学教育部会)が示され、「大学の事務組織及び事務職員が、当該大学の目標の達成に向け、これまで以上に積極的な役割を担い、大学運営の一翼を担う機能をより一層発揮できるよう、~(略)~、今後の在るべき姿について更に検討を深め、その結果を法令等に反映させることが適当ではないか。」との方向性が示されたところである。
これらを踏まえ、大学の事務職員等の在り方については、今後以下のような方向で取組を進めていくべきではないか。
2 事務職員等の業務の変化と規定の見直しの必要性
(1)事務職員等の業務の変化
大学の教育研究の高度化・複雑化に伴い、大学の事務職員等の業務に変化が生じている。
【具体的な事例】
○ジョイント・ディグリー・プログラムの推進
平成26年11月、我が国の大学等と外国の大学等が、大学間協定に基づき連携して国際連携教育課程を編成・実施し、共同で単一の学位を授与する仕組みとして、同プログラムが制度化された。
同プログラムの設置に当たっては、海外大学との密接な情報共有・調整を要するとともに、学内担当部局(法務、教学、国際等、各学部・研究科等)と連携を図りつつ、更には、文部科学省と法令上の解釈・運用に関する協議等が必要となる。
これらの一連の業務は、教員又は事務職員のみで対応することは困難であり、事務職員と教員が、以下のように業務を役割分担して取り組んでいる例がある。
(事務職員):学内担当部局や担当教員との連絡調整・とりまとめ、文部科学省と相談・調整し法令上の解釈・運用の確認、同プログラム設置に当たっての申請書類作成、海外大学との事務職員の人事交流、学生支援体制の構築 等
(教員):海外大学との学位レベル及び対象学問分野、プログラム対象者の選定、担当教員の選定、単位の取扱い、成績評価、卒業・修了要件、在学期間、学位審査の制度の検討・調整 等
その他、高大接続改革、大規模な産学官連携の推進、学問分野を超えた教育研究の展開、戦略的な大学運営などの事例においても、教員と事務職員等の協働による大学入試の運営、知的財産等の専門性を生かした研究管理への参画、専攻・学部等の専門分野を超えたカリキュラム編成・調整、学内情報収集・分析等の新たに生じた業務への対応など、様々な変化が生じている。
また、上述のような大学において新たに生じた業務のみならず、これまで事務職員が中心となって取り組んできた業務である学生支援やキャリア支援等の業務についても、教員と事務職員等の協働の重要性が指摘されている。
平成28年3月には、大学設置基準等の一部が改正され、全ての大学等で、その職員が大学の運営に必要な知識・技能を身に付け、能力・資質を向上させるための研修の機会を設けることが規定され、各大学においては、大学関係団体や関係学会が実施する研修等も活用しつつ、職員の能力・資質の向上に向けた取組の検討を進められている。今後、こうした取組を通じて、職員の大学のマネジメント能力などの向上を図っていくことが一層求められている。
なお、大学における専門性の高い職員の取扱いについては、「大学運営の一層の改善・充実のための方策について(取組の方向性)(平成28年2月中央教育審議会大学分科会大学教育部会)」において、「現状においては、各大学における専門的職員の配置は極めて多様な状況であり、また、専門的職員に求める資格、処遇等についてもいまだに確立されたものとはなっていない」ことから、「現時点においては、まずは、現状での各大学における専門的職員の活用状況に関するより詳細な分析や、各大学がその実情に応じて必要とする専門的業務の的確な遂行に資するための情報収集や環境整備に取り組むこととし、法令上の新たな職として専門的職員に関する規定を置くことについては、それらの取組を踏まえて更に検討する必要があると考えられる。」と指摘されている。
(2)事務職員等に係る規定の見直しの必要性
以上のように、大学の事務職員は、大学運営の一層の改善・実現に向けて、単に指示された事務を処理するような業務のみに従事するのではなく、既に、大学における様々な取組の意思決定等に参画し影響を与えている。
また、教員についても、単に教育研究に従事するだけでなく、大学の管理運営等に係る業務の増加に伴い、事務職員等と協働して業務に当たっている例がある。
このように、互いの業務の変化を通じて、教員・事務職員の垣根を越えた取組が一層必要となっており、各大学が教職協働の重要性を改めて認識し、適切な役割分担の下に、協働して業務に取り組むことが求められている。
また、高大接続改革、産業界や地域との密接な連携、教育研究の国際展開などの大学の枠を越えた取組を推進し、あるいはこれらの取組を束ね、戦略的な大学運営を実現するためには、職員個々人の資質向上のみならず、大学の事務の一層の合理化を図るとともに、大学総体としての機能を強化し、総合力を発揮する必要がある。
3 大学の事務職員等に係る規定の見直し
大学の教育研究の高度化・複雑化は現在進行形で進んでおり、上述の事例のような業務は今後更に増加していくことが予想される。これに伴い、事務職員等への期待は一層高まり、実際に担う業務は更に変化していくことが予想される。
こうした今後の変化を見据え、大学としてこれに十分に対応できるよう、SDによる事務職員の資質・能力の向上や意識改革と併せて、大学の事務職員の職務の現状を踏まえたものに見直すとともに、教職協働を推進し、大学総体として機能強化を図るべきことを、法令上明確に示していく必要があるのではないか。
なお、高等専門学校における事務職員の規定についても、大学における規定の見直しの状況を踏まえ、それぞれ実情に応じて検討を行う必要がある。
【法令上の規定の見直し】
(1)事務職員
事務職員が、大学の教育研究の変化に伴う業務の変化の現状に対応し、一定の責任と権限を持って職務に当たるという趣旨を明確にする観点から、学校教育法(昭和22年法律第 26号)第37条第14項の「事務職員は、事務に従事する。」との規定を見直すこととしてはどうか。
※初等中等教育段階の学校についても、「チームとしての学校の在り方と今後の改善方策について(答申)」(平成27年12月21日中央教育審議会)が答申され、学校教育法上の事務職員の職務規定等をより積極的なものに見直すことについて提言されている。
(2)事務組織
事務職員の法律上の規定の改正に伴い、大学の教育研究の組織的かつ効果的な運営を図るという目的を明確にする観点から、大学設置基準(昭和31年文部省令第28号)第41条の「大学は、その事務を処理するため、専任の職員を置く適当な事務組織を置くこととする。」との規定を見直すこととしてはどうか。
(3)教職協働
大学の教育研究の組織的かつ効果的な運営を図るため、教員と事務職員等とが連携体制を確保し、協働して業務に取り組むことの重要性について、大学設置基準に規定を設けることとしてはどうか。
大学分科会(第133回、平成29年1月25日開催)配付資料 から