どこまでよくある話かは分からない。ただ、大学が文部科学省の意向を常に気にしているのはたしかだろう。学部の設置を認めてくれるのか。大学の予算はいくらつくのか。そんな影響力が、露骨な天下りの温床になったのだろうか。
文科省が大揺れである。組織的に再就職をあっせんしつつ、問題を隠すため口裏合わせの工作もしていた。OBを間にはさむ仕組みも作り、あっせんを見えにくくしていた。国家公務員法違反やその疑いが指摘される行為は30件以上にのぼり、官僚トップが辞任した。
あきれるのが、大学を担当する局長から早稲田大教授になった吉田大輔氏の例である。「国の政策の動向の調査研究」「文科省の事業に関する連絡調整や助言」などが大学での仕事とされていた。あからさまな大学と役所の仲立ちとしか思えない。
政府は他省庁でも問題がないかを調べるという。当然だろう。天下り規制が強化され10年がたつ。制度そのものに不備がないか、この際点検してほしい。
安倍晋三首相はきのうの演説で、明治の学制の序文を引いて「学問は身を立(たつ)るの財本(もとで)ともいふべきもの」と述べた。学問の場が役人の身を助ける道具に使われるなら、嘆かわしいというほかない。
(天声人語)文科省の露骨な天下り|2017年1月21日朝日新聞 から
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文部科学省が国家公務員法に違反して、前局長の早稲田大学への「天下り」を組織的にあっせんした疑いがあることが分かった。前川喜平事務次官が引責辞任に追い込まれ、次官を含む幹部7人が懲戒処分された。これで一件落着なのか。
教育行政を受け持っているのだから、ほかの省庁以上に、次世代の範となる振る舞いが期待されているはずだ。
ところが、実際はどうだっただろうか。文科省が受け持つスポーツに例えれば、こういうことだ。スポーツには、どの競技者にも公平なルールがある。ところが、ばれてしまえば謝るが、ばれなければ構わないという「範」を子供たちに示してしまった。
もしくは、「うちには一般のルールは適用されない」という思い上がった意識があったのだろうか。
そんな役所がつかさどる教育行政が2018年度から順次、小中学校の道徳を教科に格上げし、子供たちを評価しようとしている。評価する資格があるだろうか。
それこそ、小中学校は授業で文科省の今回の天下り問題を取り上げ、子どもたちから道徳的な「評価」を受けるべきである。
(声)天下り、文科省に道徳あるのか|2017年1月21日朝日新聞 から
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国と地方を問わず、公務員は襟を正すべきだ。文部科学省が元幹部の天下りを組織的にあっせんしていた。国家公務員法違反に当たる。氷山の一角ではないか。霞が関全体の徹底調査が欠かせない。
一線を退いた高級官僚が、利害関係のある民間企業や団体に再就職することを天下りと呼ぶ。かつては権限や予算を背景に、役所ぐるみでの押しつけが横行し、官民癒着の温床となっていた。
例えば、二〇〇六年に発覚した旧防衛施設庁の官製談合は典型例だった。天下りの受け入れ実績に応じて公共工事を割り振るという不正が、長年の習わしになっていたから驚かされた。
行政の公正性を保つためとして、〇七年に国家公務員法が改められ、主に三点が禁止された。
簡潔にいえば、現職職員による再就職のあっせん、在職中の利害関係先への求職、再就職した元職員による古巣への働き掛けだ。
今度の文科省の不祥事では、前高等教育局長が退職前に早稲田大学に求職し、人事課職員が履歴書を送ったり、面談日程を整えたりと面倒を見ていた。実態を調べていた第三者機関の再就職等監視委員会に対しても、うそで不正を隠そうとした。悪質極まりない。
看過できないのは、法の網から逃れるために、人事課OBを仲介役にして、再就職を世話する仕組みを構築していたことだ。
まるで反社会的集団ではないか。これでは教育行政を任せられない。一から出直すべきである。
もっとも、逆にいうと、いまの国家公務員法は、ルールさえ守れば堂々と再就職できる“天下り推進法”といえる。一五年度の管理職の再就職件数は約千六百七十件に上り、五年間で二・三倍に増えている。まさに証左だろう。
改正前まで、退職後二年間は利害関係先への天下りは禁止されていた。それが第一次安倍政権下で自由化された。その代わり役所によるあっせんを排して、内閣府に設けた官民人材交流センターに再就職支援を委ねた。
だが、事実上、野放し状態である。背景には、次官レースに敗れた幹部を押し出す早期退職の慣行や、それを後押しするような人件費抑制の圧力がある。公務員雇用のあり方を再考したい。
優秀な才能は、最後まで活用されるべきだ。公務員にも職業選択の自由がある。ただし、官民癒着の構造は腐敗を招きやすい。全省庁の速やかな調査と、国民に対する明確な結果報告を求める。
天下りあっせん 文科省だけだろうか|2017年1月21日東京新聞 から
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文部科学省で組織ぐるみの天下りのあっせんが発覚した。教育行政への信頼を失墜させかねない事態だ。政府は、全容の解明を急ぎ、再発防止策を徹底せねばならない。
政府の再就職等監視委員会が文科省による職員らの再就職のあっせん行為10件について、国家公務員法違反と認定した。あっせんに直接関与した前川喜平文科次官が辞任したのは、当然だろう。
端緒は、元高等教育局長が2015年8月の退職の2か月後に、早稲田大教授に就いたケースだ。元局長の在職中に、人事課職員が大学側に再就職を打診し、経歴などの情報を提供した。元局長も、大学との面談日程を調整した。
公務員による他の職員らの再就職あっせんや、利害関係のある企業・団体に対する在職中の求職活動は国家公務員法に違反する。
高等教育局は、大学の設置認可や助成などに幅広い権限を持つ。そのトップが退職直後に私立大に再就職すること自体、癒着の疑念を招く。大学側も、文科省とのパイプ役を期待したのだろう。
調査では、特定の職員OBが仲介役を務める組織的な天下りの仕組みがあったことも判明した。
国家公務員法は07年、官製談合事件などを機に改正され、天下り規制を厳格化した。監視委は、文科省に規制をすり抜ける目的があったと断じた。こうした脱法行為が中央省庁で常態化していたことには、驚かされる。
前川氏も文科審議官当時、OBを通すなどして2件のあっせんに関与した。前川氏を含む7人が停職などの懲戒処分を受けたが、氷山の一角である可能性が高い。
監視委は、疑わしい事例が、ほかに少なくとも28件あるとして、文科省に詳細な調査を求めた。
退職から2年以内に大学に再就職した管理職は、11~15年度で79人に上る。文科省は省を挙げて、徹底的な洗い出しに取り組み、不正を根絶することが必要だ。
看過できないのは、人事課が早大の事案で、別のOBが再就職を仲介したとする虚偽の説明をして隠蔽工作を図り、大学側に口裏合わせを頼んだことだ。
不誠実な対応は、文科省への学校現場の不信感を増幅し、入試改革や学習指導要領改定など重要施策にも支障をきたしかねない。責任の重さを肝に銘じてほしい。
安倍首相は、全省庁にも調査を指示した。他省庁も再就職の在り方について真剣に点検すべきだ。定年前に早期退職する慣行の見直しも再発防止につながろう。
文科省天下り 組織的あっせんの解明を急げ|2017年1月21日読売新聞 から