記事紹介|振り回されるのではなく使いこなす
米国の大学で、新学期になると学生にこんな問いかけをする経済学の教授がいた。「10年前には存在しなかったが、いまは身の回りにあるモノを思いつく限り言ってみて」。技術の進歩がいかに人間の暮らしを変えるのか、実感させるためだ。
10年前なら夢物語としか思えなかったものが、どんどん実用化しつつある昨今である。自動運転の乗用車の開発が進み、無人機ドローンによる宅配が検討される。会社の経営判断に人工知能が関わる日も近いかもしれない。ただ心配もある。
「十年後存在しないかもしれない本と言葉と職種と我と」。書店に勤める若き歌人、佐佐木定綱(さだつな)氏の作である。紙の本という存在、書店員という仕事はこの先どうなっていくのか。似たような不安は程度の差はあれ多くの仕事に当てはまるのではないか。
人工知能は職を奪うだけでなく、いずれ人間を支配すると恐れる学者がいる。遺伝子操作で親の望む赤ちゃんをつくるのは是か非かの議論も起きている。今年、来年、あるいは10年先、科学技術は人間をどこに連れていくのだろう。
「一本のナイフはパンを切るためにも喉(のど)を切るためにも使用できる」と、社会学者ジグムント・バウマン氏が対談書で述べている。社会を便利にしたIT革命が、誰かから監視される仕組みを生むかもしれないという指摘である。あらゆる技術に通じる例えだろう。
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