沖縄で風俗業界の女性を調査・上間陽子さん(44)
沖縄県の中でも貧困のきつい地域で育ちました。繁華街が近く、同級生たちは中学時代から暴力と性の世界へのみ込まれる。かっこよくヤンキー(不良)しているように見えた友達が性被害に遭い、傷ついた姿を見た時、本当に絶望的な気持ちになりました。
そういう生活しか選びようのない層が、社会にある。キャバクラやソープランドなど沖縄の風俗業界で未成年から働いてきた十五人の女性に継続的にインタビューする調査を五年間行い、あらためて見えたのは、生いたちの厳しさでした。
安定した家庭で育った人はまれ。貧困でアルコール依存症や暴力を振るう父親がいたり、母親の恋人に邪魔にされたり。居るのがつらくて、「性」を、生きるための掛け金(手段)にして家を出ます。自分の家族を作ろうとしますが大抵うまくいかない。相手の男性に失神するまで殴られ、ひどい浮気をされ、子どもを抱えて風俗へ戻っていく。
不安定な家族から、次の不安定な家族が生まれる。そうなるのは自己責任だという視線を浴び、本人たちも思い込んでいますが、違う。家族はもろくて弱いのが当然。だから社会が支えなければならないんです。
最底辺層 子ども放置しないで
沖縄には、地域のきずなを大事にするイメージがあると思いますが、それは中間層の人々のもの。最底辺層は日常のリズムを破壊する危険な存在としてはじかれてきました。さらに女性にとって厳しいのは、男性のネットワークが強固なことです。風俗の女性たちは、知られたくない個人情報をやりとりされ、ますます地元で生きづらくなる。
社会の支援が必要な状態なのに、遠い。公立の夜間保育所に子どもを預けたくても、就労証明書など多くの書類をそろえる手続きでつまずき、劣悪な施設しか選べません。本人たちも「自分のせいだから」と助けを求めない。
他人にも同じように「自己責任」を求めるので、生活保護たたきや差別発言にも抵抗がない。将来や社会を考えて正義を語る場もないから、辺野古や高江の米軍基地建設なども「長いものに巻かれた方がいい」と簡単に受け入れます。
最底辺層の放置は価値観の分断を深め、社会を不安定にする。転換のかぎは、社会が子どもを支え、貧困や困難の連鎖を止めることです。沖縄は子どもの貧困率が全国平均の二倍と深刻で、県も取り組みを始めましたが、支える意味が浸透していない。ある貧困地区で、病院が子どもたちへ毎朝ご飯を百食分無料で提供すると申し出ましたが、小学校長に止められました。「親を甘やかすな」と。「自己責任」だと切り捨てては、何も変わらない。
多くの子どもが通う保育所と学校こそ、支えの基盤になるべきです。専門職である保育士や教師らが子どもに向き合い、話を聞く。何を言っても排除されない、ばかにされないと子どもたちが安心できる、豊かな環境にしてほしい。そのためにこの国がきちんと予算を割き、質を高められるか。そこにかかっています。
<うえま・ようこ>
琉球大大学院教育学研究科教授。沖縄で女子中学生が集団レイプされ自殺した事件を機に、社会理論・動態研究所の打越正行研究員と風俗業界の女性らを調査。調査をまとめた書籍「裸足(はだし)で逃げる」(太田出版)が31日に発売予定。
<包容社会 分断を超えて>(下) 暴力に苦しむ貧困女性|2017年1月4日 東京新聞 から