2019年1月10日木曜日

記事紹介|ブルームバーグ氏の問題提起

国立情報学研究所の船守美穂准教授は、定期的に海外大学の最新情報をメールで送ってくれる。目から鱗の話題ばかりだ。

今回も12月初めのメールに驚かされた。米ブルームバーグ創業者にして元ニューヨーク市長のマイケル・ブルームバーグ氏が、低中所得層でも学力があれぱ大学進学ができるようにと、母校ジョンズ・ホプキンス大学へ18億ドルを寄付するという。日本円で2,040億円!! さすがの米国でも、大学寄付としては史上最高額である。卒業年の5ドルを皮切りに、これまでの氏の寄付総額は15億ドルに上り、新たな18億ドルを加えると総額は30億ドルになる。

AFPのネットニュースによると、ブルームバーグ氏はニューヨーク・タイムズ紙への寄稿で、「国防教育ローンと学内のアルバイトで学費を賄い、ジョンズ・ホプキンス大学で学位を得たからこそ、卒業後の道が開け、アメリカンドリームをつかめた」「チャンスをくれたこの大学が、今後もずっと学生たちに扉を開き続ける場所であってほしい。(この寄付金は)多くの卒業生が担う口ーン返済の負担を軽減し、大学のキャンパスを社会経済的により多様な場所にするだろう」などと述べた。その上で、低所得層出身ながら優秀な若者はたくさんいるのに、米エリート大では最富裕層1%の家庭出身の学生の人数が、所得下位60%の家庭出身の学生より多いと強調。自身の寄付金は特定の1校を支援するものにすぎず、「これだけでは足りない。連邦政府の助成金は学費の高騰に見合っていないし、各州は学生支援を削減している。民問の寄付金だけで政府の支援不足を補うことはできないし、補うことがあってもならない」として、政府は教育投資に力を入れるべきだと述べたという。

米国の大学は世界中から優秀な学生・研究者を吸い寄せる。教育・研究の水準が圧倒的に高いからだ。ブルームバーグ氏が「母校がチャンスをくれた」と感謝し、多額の寄付をするのは、大学教育に対する卒業生の満足度が極めて高い証しでもある。日本の大学が大いに反省し、見習うべき米国大学の美点である。

一方で、負の側面も顕在化してきた。優れた教育の対価として授業料の高騰が続く。今や年間5万ドル以上の大学も珍しくなく、一般家庭の負担限界を遥かに超えた。卒業と同時に多額の口ーン返済に苦しむ若者の急増は社会問題化している。

そうした矛盾に何とか辻褄を合わせようと、多くの大学は広く寄付を募り、多額の基金を積み立て、運用益で優秀な学生に奨学金を提供している。30億ドルには及ばずとも、全米中に多くの”ミニ・ブルームバーグ”がいて、その寄付が矛盾深まる米国の高等教育を支えている。ブルームバーグ氏は巨額の寄付を続けながらも、一方で個人の”善意”の限界に気づいているからこそ、政府に教育投資の増額を訴えるのだろう。

日本では、「大学は国にばかり頼っていないで、寄付金などの独自財源充実に務めるべきだ」との論調が盛んになっている。お手本となるはずの米国でブルームバーグ氏が示した問題提起を、我々はどう受け止めるべきなのだろうか。

米国の巨額寄付と政府の支援|IDE 2019年1月号 から