2004年の法人化以降、毎年の予算編成で争点になる国立大学運営費交付金に新たな火種が出現した。財務省が18年10月の財政審議会で、「国立大学への公的支援は先進国でトップ水準なのに、成果が十分でないのは運営費交付金の配分方法に問題があるからだ」として、「就職率や論文数など教育・研究の成果を測る新たな指標を設け、運営費交付金の10%はその評価に基づき配分すべきだ」と提案したからだ。
運営費交付金は大学運営の基盤的資金として教員数などに応じて配分される。大学からみれば、家計における生活費のようなもの。競争的資金になり不安定化したら生計の維持は大変になる。
国立大学協会の反応は素早かった。11月2日に金沢市で開いた総会で、「財務省案は日本の高等教育、科学技術・学術研究体制の崩壊をもたらしかねない」との声明を出した。「財務省の主張は短期的な評価による不安定な財源措置の拡大で、国立大学の経営基盤を不安定、脆弱にし、財政基盤の弱い大学の存在自体を危うくする」と厳しく批判、新たな評価手法の開発は学問分野の特性に対する配慮など十分な検討・準備が必要だとも指摘した。国立大学のパフォーマンスを測るために財務省が示した国際比較についても根拠に疑義を呈している。
総会や懇親会の場で国大協幹部からは「もう文部科学省に任せてはおけない」「運営費交付金が競争的資金になると、今年付いた予算が来年も付く保証はなくなり、安心して人も雇えない」「財務省はデータを恋意的に解釈し都合の良い結論を出している」等々、反発の声が続いた。
学長たちの思いを忖度すれば、「現場で毎日苦労しているのに、次から次へと無理難題を突きつけられる。いい加減にしてほしい」ということだろう。気持ちはよくわかる。ただ、だからといって現行の運営費交付金や大学評価の仕組みが完壁かといえば、そうとばかりいえないのも確かなのである。
国立大学法人制度を巡っては、もうーつ重要な議論がある。19年度法律改正を目指して文科省が検討を進める「一法人複数大学制度」(アンブレラ方式)の導入だ。学長が法人の長を兼ねる「一法人一大学」は、運営費交付金や評価制度同様に、いやそれ以上に国立大学法人制度の骨格をなす仕組みである。にもかかわらず、文科省の検討会議は法人制度全体の見直しではなく、あくまでもアンブレラ方式導入に限定した制度設計を議論している。
04年の法人化から間もなく15年。大学を取り巻く社会的環境も大きく変わった。第3期中期目標・中期計画期間が折り返しを迎える今こそ、法人化のきちんとしたレビューが必要な時期なのではないか。今のように、目先のテーマや予算編成作業の度にその場しのぎで制度をなし崩し的にいじるのではなく、法人化で得られた成果や残された課題等をきちんと検証し、必要な仕組みは残し、見直すべきは見直す。本来、運営費交付金も評価制度もアンブレラ方式も、そうした文脈の中で全体の整合性を見極めながら議論すべきテーマのはずだ。その際に欠かせない視点は「国立大学とは何なのか」、国立大学の今日的再定義である。
対症療法的に制度をいじるだけでは、大学側にも改革を求める側にも不満と不信が残り、不毛な論争が延々と続くだけである。
なし崩し的制度見直し|IDE 2019年1月号 から